事例

「作業計画書のデジタル化」から始まった現場改革 ―中小企業が取り組むべき内製化の軌跡

目次

  1. カンコツに支えられた 60年
  2. 覚悟の経営再建
  3. 硬直化したシステムに「どうせ無理」という諦めムードが漂う
  4. 変革の始まり ──「日本語で書ける」ツールとの出会い
  5. 現場のつぶやきを拾う開発
  6. 半年の予定が 1年半に 導入を阻んだ壁とは?
  7. 紙が消えた現場、変わった意識
  8. 広がる内製化 ── 次のラインへ、そして全社へ
  9. パートナーが語る伴走支援

岐阜県美濃加茂市に拠点を構える株式会社テクノミスギは、リンナイ製給湯器の心臓部ともいえる「バーナー」と「燃焼室」の製造を担いながら、60年にわたり日本のものづくりを真摯(しんし)に守り続けてきた。金属プレス加工から溶接、組立てまでを一貫して生産する体制を武器に、給湯器業界で確固たる地位を築いてきた同社は、2024年から Claris FileMaker を用いた現場発のシステム内製化に取り組んでいる。中小企業の DX を推進するこの模範的なプロジェクトについて、代表取締役社長の三品 忠司氏、専務の河村 博美氏、プロジェクトを率いた生産管理課の山田文治氏、現場担当者、そして Claris パートナー、ワークスペースの岡田 匡氏に話を聞いた。

1. カンコツに支えられた 60年

テクノミスギの創業は 1966年、今年で 60周年を迎える。主要取引先である大手熱エネルギー機器メーカー、リンナイ株式会社の給湯器に使われる「バーナー」部品は同社製がほぼ 100%、周辺の「燃焼室」部品も約 7割が同社製を占めるという。プレス加工・溶接・組立てまでを一貫して手がけることで、数十点に及ぶ部品を1つの注文書でまとめて受注できる点が、発注メーカーにとっての最大の価値であると三品氏は語る。生産量は 1日約 2,000ユニット超。近年は組立てラインの自動化にも着手し、5人体制だったラインを 3人体制に移行しながら同等の生産量を維持する取り組みも進む。ネジ締めの微妙な力加減という熟練のカンコツ* (勘所)を機械に置き換え、誰でも均質な作業ができる体制づくりが進行中だ。

*カンコツは、熟練した作業員が長年の経験から培った「勘」と「コツ」に基づき行う、数値化やマニュアル化が難しい非定型の作業や職人技のことで、「力を入れる角度や機械の音を聞いて判断する」など、感覚に頼る部分が大きい。

ラインペーサー(プレス加工機間を自動搬送して複数工程のプレス加工を自動化可する技術)の導入によって生産性向上を実現

2. 覚悟の経営再建

現社長の三品氏は今年で就任 16年目。大学を卒業して他社で就業後、テクノミスギに入社してからは現場のあらゆる工程を経験した。入社当時の経営状態は芳しくなく、古参の幹部との軋轢(あつれき)も抱えながら、28歳で専務に就任し体制の立て直しに着手。35歳で社長に就任した。

引き継ぐ時点で厳しい経営状態であったにもかかわらず、舵取りを任された三品氏は、「3代目となった自分が会社を潰したと絶対に言われたくない」 という一心で、価格交渉や工程改善に取り組んできたと振り返る。プレス加工業は機械が止まっている時間にこそコストがかかる。いかにその「音がしていない時間」を縮めるか ── これが三品氏にとって一貫した経営課題であり、後の FileMaker 導入にもつながる出発点となった。

株式会社テクノミスギ 代表取締役 三品 忠司氏

3. 硬直化したシステムに「どうせ無理」という諦めムードが漂う

FileMaker 導入前、生産計画は台帳に手書きされたのち、Excel に転記され、印刷され現場に配布されるという多重の作業を経ていた。実績も手書きで記録集計されるため、生産管理側が数字を把握できるのが翌日になり、リアルタイムに現場の状況を確認することができなかった。2009年に導入した販売管理システムと、2011年に 1000万円以上かけて導入した在庫管理システムは、いずれもベンダーが独自開発したブラックボックスで、CSV 出力すらできず、他システムとの連携も不可能だった。出力や修正を依頼するたびにベンダーへの見積もりが必要で、「1つ直すのに 10万円単位」という言葉が、現場の改善を阻む合言葉のようになっていたという。この結果、現場が改善提案をしても「どうせ無理」という諦めムードが広がっていた。

プレス加工機ごとの生産指示計画表をスプレッドシートで日々更新してきた

4. 変革の始まり ──「日本語で書ける」ツールとの出会い

2024年頃、三品氏は老朽化したシステムからの脱却を強く意識しはじめた。検討したのは、ベンダーによるスクラッチ開発、市販の生産管理パッケージ、そしてローコード開発の 3つ。スクラッチ開発を依頼していた既存ベンダーは人手不足で保守体制の先行きが不透明になっていた。パッケージは受発注管理が中心で、同社が重視する「生産実績の把握」機能は結局カスタマイズが必要で、コストが膨らむことがわかった。折しも岐阜県DX推進コンソーシアム(旧 IoTコンソーシアム)が主催する開発体験セミナーが開催され、生産管理課の山田氏が参加した。そこで Claris FileMaker の存在を知り、また Claris パートナーである株式会社ワークスペース(岐阜県)の岡田氏に出会うことになる。

開発体験セミナーで山田氏が FileMaker を触って感じたのは「日本語に近い感覚でスクリプトが書け、自分にもできるかもしれない」という手応えだった。社長の三品氏と専務の河村氏は「本当に自分たちでシステムの構築ができるのか?」と半信半疑だったというが、初期コストが年間 20万円以下と小さく、仮にうまくいかなかったとしても致命傷にならないという安心感が背中を押した。2024年11月、まずはサーバーなどのハードウェアが不要な FileMaker Cloud を契約し環境を構築。紙の「作業計画書」(生産の予定と実績をガントチャートのような線で示す帳票)のデジタル化から着手した。開発は山田氏が中心となり、コストを抑えながら社内で完結する体制でスタートした。

5. 現場のつぶやきを拾う開発

当初、現場からは「ガントチャートをそのまま電子化してほしい」という強い要望があった。だが、ワークスペース 岡田氏は「ガントチャートでなければならない理由は何か」と問い直したところ、次の 2点が見えてきた。1つは、初心者がFileMakerでガントチャートを一から作ろうとすると構造が複雑になり、習得のハードルが高いこと。もう 1つは、FileMaker は構造が複雑になるほど属人化しやすく、作成者以外が保守・修正できなくなるリスクが高まることである。この気付きにより、ガントチャートという形式自体にこだわらず、目的(進捗の可視化・共有)を達成できるよう、より簡易な時刻表記での運用に至った。開発では、現場の小さな「つぶやき」を拾ってはすぐに修正し、その場で現場のスタッフに見せて反応を確かめるという地道な改善サイクルを重ねた。「2回押していたボタンを1回にする」「見えにくい文字を大きくする」といった UI/UX の細部の積み重ねが、現場の「自分の声がシステムに反映される」という実感につながって過去の諦めムードを払拭していったという。この過程では、これまで作業者ごとにバラバラだったプレス実績の数え方、例えばプレスの「ショット数」から良品数を算出する際、人によって計算式が異なっていたことも明らかになった。電子化はこうした属人的なルールを標準化する契機にもなった。

作業計画書は、時間軸でどの部品をどれだけの数量加工するか計画し、不具合数を入力する。紙面上でプレス機稼働時間に線を引き、時間軸で可視化するようにしていた

6. 半年の予定が 1年半に 導入を阻んだ壁とは?

「作業計画書」の開発期間は当初の想定では半年だったが、実際には 1年半を要した。カスタム App 導入の最大の壁は「稼働責任者の承認が得られない」という局面だった。作業計画書は、リーダー層の手書き作業を減らす一方、現場の作業者にとっては入力の手間が増えるだけでメリットが薄いという不満が噴出したのだ。ここで山田氏らは方向転換し、作業者向けの機能、「紙のチェックシートの電子化」に着手。作業日報をアプリ化した。品番を変えると必要項目も自動で切り替わり、作業者は測定者や作業時刻など最小限の入力で済むようにした。この機能追加によって現場の協力が一気に加速し、以降のリリースはスピーディに進んだという。

現場で利用されていた作業日報。品番によって規格寸法は細かく分かれており、定期的に規格外の不良品が含まれていないかを確認し、手入力していた。そのため、管理者が不良数を把握するのは翌日だった

7. 紙が消えた現場、変わった意識

チェックシートは 1品番につき 1枚必要で、プレス 8台では 1日あたり約 40枚。年間稼働日数 250日で計算すると、年間約 1万枚規模の紙が電子化によって不要になった計算になる。1枚あたりの記入時間は 7分程度と考えると、相当な時間の削減にもつながっている。また品質管理部門による紙の回収・保管作業の負荷も軽減された。現場からは「紙で最後にまとめて提出していた手間が、20分から数分に短縮された」(第一製造課 中島 隼斗氏 )、「着実に工数が減り、ミスも減っている」(プレス部門責任者 岩谷 聡志氏)という声が上がる。何より三品氏が実感しているのは、これまで「言いにくい」空気があった現場だったのが、改善要望をスタッフ自ら口にするようになったという意識の変化だという。

iPad で電子化された作業日報。品番を入れるとマスタから規格寸法が呼び出され、現場で入力された情報は即時に管理者が把握できる

8. 広がる内製化 ── 次のラインへ、そして全社へ

現在は 3系統あるプレスラインのうち自動ラインでのカスタム App 導入を終え、次はロボットラインへのアプリ展開を進めている。目標は 2か月後の稼働開始だ。効果は他部門にも波及し、金型メンテナンス(ショット数と連動した交換管理)、品質管理(不良数集計の自動化)、総務の伝票入力業務、製品マスタの一元管理など、全社展開の構想も広がっている。三品氏が見据えるのは、入力作業に費やしていた時間を、段取り時間の分析や不良データの解釈といった「考える時間」に転換することだ。一方で、価格交渉のような経験と勘に依存する領域の数値化には慎重な姿勢も示しており、「人にしかできない判断」と、「機械に任せられる領域」を見極めながら、内製化の範囲を広げていく方針だ。

第一製造課のメンバーと開発者の 山田 文治氏(左から 2人目)

9. パートナーが語る伴走支援

伴走支援を担ったワークスペースの岡田氏は、自身の役割を「開発の進め方の相談と技術面での支援」と説明する。画面設計やデータベースのリレーションの考え方に加え、将来複数人で開発する段階になっても困らないよう、開発者自身が「なぜこの構造にしたのか」を説明できる設計を重視して伝えてきたという。 FileMaker というプラットフォームについて岡田氏は、「現場の小さな課題を一つずつ解決し積み重ねていく点では、アジャイル開発ができる FileMaker は中小規模の製造業に適したツール」と評価する。また、基幹システムなど本番環境に触れずに小さなカスタム App で少しずつ改善に取り組める手軽さも魅力だと語る。今後は部門ごとに「点」で動いているそれぞれのツールを「線」としてつなげ蓄積したデータを活用するという構想があり、その支援を続けたいと岡田氏は語る。

10. 中小製造業へのメッセージ

取材後、DX に取り組もうとしている他の中小製造業へのメッセージを求めると、三品氏は「当社にとっては、山田という人材と、勉強会という学びの機会に恵まれたのが好条件だった」としながらも、「その条件がそろわなくとも、手探りで進めていけば必ず解決策はある」と語った。同時に 河村氏が強調したのは、現場任せにせず経営も関与するということだ。「現場主導とはいえ、任せきりでは駄目。目的と期日を経営陣が把握し、時には叱咤激励することが必要」と、内製化における経営者側の役割の重要性を語った。

【編集後記】

取材を通じて印象に残ったのは、FileMaker という「道具」そのものよりも、それを使いこなす「人」と「向き合い方」だった。ガントチャートを丸ごと電子化してほしいという要望に「本当にそれが必要か」と問い返したワークスペース岡田氏の姿勢、現場の小さなつぶやきを拾い続けた山田氏の忍耐、そして任せきりにせず叱咤激励し続けた経営姿勢 ── この三者の粘り強い対話こそが改革を前に進めた原動力だろう。日本の製造業が直面する人手不足と技術継承の課題に対し、システムを内製化という選択肢は、外部依存によるコストと時間の制約から現場を解放し、変化を「自分ごと」にする力を持つ。Claris FileMaker のような、現場自身が手を動かして育てられるプラットフォームの存在は、これからの製造業 DX において、ますます重要な意味を持つはずだ。

*本記事は 2026年9月16日に TECH+「企業 IT チャンネル」に掲載された記事を転載しています。

2026年11月11日(水)〜 13日(金)開催の「Claris カンファレンス 2026」に、テクノミスギ様が登壇し、本事例について詳しくご紹介くださいます。
11月12日(木)13:30 -14:15
「現場と共にシステムを育てる。従業員 96名の金属加工会社の、製造業 DX 実践録」
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