(右)北海道大学大学院 医学研究院 小児科学 准教授・北大子どもサポートセンター アルモニ センター長 武田充人氏、(左)北大子どもサポートセンター アルモニ 自立支援員 かわせ えりこ氏
目次
- 医療だけでは完結しない小児慢性特定疾病の支援
- 相談情報を一元化し、多角的な集計・分析ができるシステムを内製化
- 患者・家族との接点をさらに広げた Claris Studio の活用
- AI 連携で、支援員が本来の“支援”に集中できる環境に
- 医療 DX の目的は自立支援員の役割を変えること
小児がんや内分泌疾患などの慢性疾病(小児慢性特定疾病)を抱える子どもたちとその家族の負担軽減や子どもの自立・成長を支援することを目的とする「北大子どもサポートセンター(愛称:アルモニ、Harmonie)」。そこでは支援事業の中心である患者の療育相談記録の一元管理、情報の共有・集計・分析のための自立支援データベースを、Claris FileMaker Cloud 上に開発・運用している。クラウド型データベースの開発の経緯、運用によりもたらされた効果などを、アルモニ センター長の武田充人氏に伺った。
1. 医療だけでは完結しない小児慢性特定疾病の支援
小児慢性特定疾病は、児童期に発症し、長期の療養と高額な医療費が必要となる慢性疾患を指し、小児がん、慢性腎疾患、糖尿病など 800 以上の疾患を対象とする。これらの患者は、療養が長期に及ぶ身体的苦痛に加え、学習や学校生活、自立・成人への移行支援などの課題を抱えている。そのため本人はもちろん、家族に対してもさまざまな支援策が求められる。その対策として、自治体が事業主体となった小児慢性特定疾病児童等自立支援事業が実施されている。札幌市の委託事業として 2024年8月に北海道大学病院に設置されたのが、「北大子どもサポートセンター アルモニ」だ。愛称のアルモニ(Harmonie)は、フランス語で“調和”を意味し、患者・家族、医療関係者、学校・行政などが一体となって子どもたちの自立を育むことを目指して名付けられたという。
2. 相談情報を一元化し、多角的な集計・分析ができるシステムを内製化
アルモニが行っている事業は、相談支援事業(制度における必須事業)をはじめ、現在では同じ病気を持つ子どもたち・家族が相互に交流できるイベント開催、子どもの学習支援などへと広がっている。特に自立支援には、医療・福祉・教育・行政など多領域の連携が必要であり、多機関・多職種との情報共有が非常に重要だという。
業務面では、事業主体の札幌市への相談内容を属性別に集計した月次報告の提出など、行政対応が欠かせない。しかし札幌市が求める報告書は、相談者別の受付簿や相談記録票、相談者の属性(相談者数、年代別内訳、疾患別内訳)など、様式が非常に細かく、これらを手書きや手集計で行う自立支援員には過大な負荷がかかっていた。
札幌市に毎月提出する相談支援事業における記録票・月別実施報告書の様式例
そこで、北海道大学 小児科 准教授で、北大子どもサポートセンターを運営する武田充人氏が中心となり、Claris FileMaker Cloud を用いてクラウド型自立支援データベースを構築した。「自立支援員それぞれが対応した相談内容やカンファレンスの記録をアルモニ内で共有するのはもちろん、教育機関や行政なども参加し、共有していく必要があります。また、多様な集計方法を駆使した札幌市への報告書の作成を容易にするには、クラウド型データベースが必須と考え、Claris FileMaker Cloud で内製開発することにしました」(武田氏)。
自立支援データベースは、「相談者側の利便性、自立支援員の負担軽減、集計作業の自動化」を3本柱に開発したという。対面・電話・Web フォーム・メールなど多様な相談アクセスを可能にすること、相談記録の効率的な作成と一元管理により支援員間の情報共有を促進すること、相談データの自動集計による報告書作成を効率化することである。具体的には、Google フォームで受け付けた相談内容を API 連携で自動的に FileMaker Cloud に保存し、患者基本データ、相談データ、相談内容についてのカンファレンス記録、関係者の名刺データまでをリレーショナルに結び付けた。さらに札幌市への月次業務報告の作成から、PDF 化・暗号化・送付までのワークフローは、ノーコードで API 連携ができる Claris Connect により自動化している。
こうして相談記録と対応履歴、相談内容それぞれに対して実施されるカンファレンス記録が一体化された。1人の患者に対して自立支援員の誰が対応しても経過を追いやすく、チームでの支援の質の向上が図られるうえ、相談データを集計や分析に直結できる環境を整備できた。
3. 患者・家族との接点をさらに広げた Claris Studio の活用
相談者が増加してくると、患者に QRコードを付与したアルモニカードを発行した。患者や家族が自身のスマートフォンなどで QRコードを読み取れば、本人確認を経て患者の Web フォームへアクセスできる仕組みである。そこでは住所などの個人情報の変更や、相談日時の予約、学習支援の申し込み受付、さらに簡易な相談も入力できる。これらのフォームは、Web ベースで容易に開発・運用できる Claris Studio によって構築した。
従来、相談予約や申し込みなどは電話で大学病院の代表番号を経由して行われていたため、病院のオペレーター、そして患者や家族にも負担がかかっていたが、Web フォームからさまざまな予約・変更・相談が可能になり、その後の連絡や支援導線までを含めて患者側の利便性を一段と高めることができた。
患者側は Claris Studio で作成された Web フォームから相談予約や予約日時変更、学習支援申込が可能になった
Claris Studio の活用は “相談者のための入口” として、開発コンセプトの 1つ「相談者側の利便性向上」を実現したといえる。相談者はスマートフォンから目的の窓口にアクセスしやすくなり、支援側は Claris Studio 経由で集まった情報を FileMaker 側で一元管理できる。Claris Studio と Claris FileMaker をシームレスに組み合わせることで、外部との接点と内部の運用基盤がつながり、ユーザ体験全体を向上させた。「相談支援事業に加え、学習支援やイベント関連の相互交流支援などアルモニの事業の幅が広がるなかで、利用者側の利便性を向上させてきました。次はアルモニが行うさまざまな支援をどう周知していくかが課題です」(武田氏)としている。
学習支援事業においても、患者と学生のマッチングおよびスケジューリング、学習支援セッション終了後の両者の感想や評価までの一連のフローを、Claris Connect を導入して自動化している。Claris Connect は現在、10種類ほどのワークフローで運用されており、Webhook や外部サービスを介して支援活動の付帯業務をつないでいる。
これらの機能は、FileMaker Cloud を基盤として Claris Studio で患者接点を広げ、Claris Connect で業務を自動化するという、Claris プラットフォーム全体を生かした形で実現されているのである。
武田氏はすでに Claris Connect によって10種類ほどの業務フローを自動化している
4. AI 連携で、支援員が本来の“支援”に集中できる環境に
自立支援データベースでは、自立支援員の負担軽減のための仕組みも順次整備を進めている。その 1つが相談内容の文字起こしや要約に AI を使い、その結果を Claris Connect 経由で FileMaker Cloud に格納する仕組みだ。自立支援員にとって最も負担が大きいのは、ときには 1時間前後に及ぶ相談内容を整理し、要点をまとめ、次の支援につながる記録に落とし込む作業。自立支援員のかわせ氏は、AI が要点をまとめてくれることで、「時短になり、業務が効率化している」と評価している。導入前と比べ、作業時間は 3分の1 程度になった。自動文字起こし機能を持つ AI ボイスレコーダーや要約のための生成 AI サービスなどを利用し、Claris Connect で自動連携するという仕組みだ。
この変化は、業務効率化にとどまらない。 一人の患者に対して異なる自立支援員が担当することになっても、FileMaker 上で相談内容と経過を共有し、毎週のカンファレンスでニュアンスまでを細かく確認できるため、属人化を防ぎながら支援の質を均霑(てん)化できるのだ。「誰が休んでも別の自立支援員が引き継いで同じ患者の相談に対応できるのは、FileMaker による共有基盤があるからです」(かわせ氏)。武田氏は、「自立支援員が付帯作業から解放され、支援そのものに集中できる環境を追求してきました。支援員は自身の役割の価値を見出し、支援業務に意欲を持てるようになります」とシステムの果たす価値を説く。
5. 医療 DX の目的は自立支援員の役割を変えること
さらに、蓄積された相談データの分析は、療育環境における地域課題の可視化にもつながっている。例えば、通学・通院の移動支援不足、学校・園での医療的ケア体制の不十分さ、進路や就労への不安など、横断的な課題が見えてきた。そうした課題の解決に向け、行政の施策実行を促すための提案を行っているという。Claris FileMaker が、現場の記録の蓄積だけでなく、事業活動にかかわる医療者や研究者が社会課題を捉え、行政への提言や改善につなげるための分析基盤にもなっているのだ。
武田氏は「届けられた声(相談)を活用して行政の取り組みを変えることができ、悩み困っている患者・家族へフィードバックされることに期待しています。日頃の活動の成果として表われることは、自立支援員のモチベーションの向上に結びつく――医療 DX の真の目的は自立支援員の役割を変えることにあります」と強調した。
アルモニの事例が示しているのは、単に FileMaker および Claris プラットフォームの「ローコードで作りやすい」という優位性を生かした技術適用例ではない。現場を最も理解する医療者が内製開発の設計を担い、医療 DX の真の目的を見据え実現していることである。それは医療機関や研究者に大きな示唆を与えるものだろう。小児慢性特定疾病を抱える子どもと家族の未来に寄り添うために、それを担う自立支援の業務を徹底的に効率化・タスクシフトを進め、支援員のモチベーションと発信力を高めた。その好例がアルモニの実践する DX である。
【編集後記】
今回の取材では、まず、病気を抱える子どもと家族に少しでも安心して前に進んでもらいたいという思いがあり、そのために現状の自立支援員のタスクシフトと意識変革を促す、というところに感銘を受けた。その実現のためにどのような仕組みが必要かを模索し、Claris FileMaker と Claris Connect、Claris Studio を使って自ら作り上げていくという現場の熱意。やみくもにツールを使ってみるのではなく、目的を見極め、患者・家族との新しい接点と拡大し、利便性とアルモニの価値を高めながら、支援の現場を活性化していこうという開発者の意志を強く感じた。
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