事例

医療 IT 化で人にしかできないことを。データ活用が患者と医療の未来につながる。

「歯医者らしくない歯医者」をコンセプトにしている松山中平歯科クリニック。インプラント治療を柱としつつも、口腔内全般の治療を行うこのクリニックでは、 IT を駆使した情報管理で業務効率化を実現しています。その経緯やデータ取得の重要性、その根底にある想いを、院長の中平さんにうかがいました。

情報管理から在庫管理まで広がる IT の力 。

生まれ育った地元愛媛で、歯科クリニックを経営しています。クリニックのコンセプトは、「歯医者らしくない歯医者」。いわゆる歯医者独特の臭いを防ぐため、安らげるような香りをおき、待合室もホテルのロビーのようなイメージで設計しました。また、医療機器も特有の甲高い音が出ないように配慮するなど、患者さまがリラックスして本音で話してもらえるようなクリニックの運営を心がけています。

元々、開業した父の代までは、自費診療のインプラント治療に特化していました。その後、私が院長として引き継いでからは、インプラント治療も口腔内を健康にしていく一つの手段であるという考え方のもとで、審美治療だけでなく、虫歯や歯の矯正などの診療も実施しています。今では、口腔内のことであれば、ほぼ対応できるような治療環境になっています。

ホテルのロビーをイメージしてデザインされた、クリニックの待合室。リラックスして治療を受けることができそう。

治療する領域も増えて、紙カルテやアナログの情報管理に限界が来たため、現在クリニックの情報管理は FileMaker を活用して行っています。

元々は手術や治療記録の管理のみでしたが、今では治療記録はもちろんのこと、いわゆる「被せもの」と呼ばれる、歯に被せたり詰めたりする技工物の管理、それを作っている歯科技工士の製作に関するスケジュール管理、さらには治療器具の在庫管理まで FileMaker の活用範囲は多岐に渡っています。

特に技工物に関しては、患者さまの症状や治療の進行度合いによって、形状や、その数量が大きく異なってくるので、FileMaker の導入により、製作の効率がとても良くなりました。もちろん作り忘れもないですし、納期が近いものから色分けしてあるので、優先的に製作しなければならないものが一目でわかります。それによって、質の高い技工物を作り上げることが可能になりました。また、治療で使う器具の在庫も、個数が少なくなってきたら、アラームで知らせるような設定にしているため、発注漏れも防げます。FileMaker を導入したことによって、全体業務の効率化が一気に進みましたね。

技工物管理の画面。納期の近いものから、赤・黄色・緑に色分けされているので、直感的に作業の優先度を把握することができる。

データには無限の可能性がある。

FileMaker との出会いは、 2014 年の研修医時代。当時、神奈川県の大学病院で研修医として勤務していました。所属していた部門では、どの患者さんがいつ来院したのかがわからない、口腔内を撮影したデータの保存場所もないという状況。また、専門医に患者さまを紹介する際の申し送りの資料も、その都度作成していました。それぞれの情報がバラバラで、煩雑な作業が多い状況で、データベースによる管理が求められるようになり FileMaker で作り上げました。この時、医療と IT、そしてデータとの親和性を痛感しました。

医療の世界において、私たちは、実際に患者さんと対面して治療を行うので、臨床家と呼ばれる領域です。しかし、ただ単に治療を行うだけでは不十分なんです。治療した過程や結果を世の中に発信し、より良い治療法確立のため、社会に還元することまでが私たちの役目です。そのため、実施した治療や、症例、その後の経過などをしっかりひとつずつ蓄積する必要があります。紙のカルテに書いていても、本当に見返すかと考えると疑問符がつきますし、論文を書くにしても、データを探したり分析するプロセスを簡略化できれば、質も量も向上するでしょう。常にデータをとる。当初は意味のないデータだと思っていても、取得さえしておけば、後に患者さんとの会話の糸口になったり、治療に役立つ生活習慣を知るきっかけになる可能性もあります。取得していなければ、そもそも何の活用にもつながりませんから。そのために、まずはあらゆるデータを取りこぼさずに取得する。それを常に意識しています。

現在は、 Claris 主催のカンファレンスがきっかけで出会った Claris パートナーさんと、システムのさらなるカスタマイズを考えています。特定医療分野のスペシャリストである認定医や専門医の認定を受ける際に必要となる症例に関するデータを、より効率よく収集し、簡単に蓄積していけるようなシステムを考えています。また、今以上に簡単に論文が作成できるような機能や、自動的に計算して統計データまで出力できるところまで拡張できればいいなという構想があります。これまでのシステムは私が独学で作り上げたので、プロに改めて見直してもらいつつ、ムダのないシステムに改良してもらうことを期待しています。FileMaker は、協業もしやすいので、役割分担をして、より良いものに仕上げていきたいですね。

施術記録の管理画面。Ope開始、終了の時間も記録することで、Opeにかかった時間のデータを取るなど、手術に関わる様々な記録がデータとして蓄積され、論文作成にも活用されている。

目指すのは、システムの長所を最大限に生かす IT 歯科。

データは、取得さえしておけば、後からいくらでも利用や加工をすることができるので、取り忘れのないよう、データの取得を促す機能が重要だと考えています。私自身、忘れ物しがちなので、リマインダー機能などでシステムに補ってもらっています。人間が弱いところ、ミスしやすいところをシステムで補っていく。そんな関係でシステムと付き合っていきたいですね。

これからも、どんどん FileMaker を活用して自動化できるところは自動化し、できるだけ人の手を介さずにできることを増やしていこうと思っています。システムにできることは、システムに任せる。可能な限りミスを減らし効率化して、生まれた時間を人にしかできない仕事に充てていきます。具体的には、患者さまのケアやコミュニケーション。こればかりはシステムで代用はできませんから。「 IT 歯科」を目指して、FileMaker を駆使し、クリニックの運営に役立てるよう、改良を続けていきます。

編集後記

データが持つ可能性と、それに関する考え、これからの構想を朗らかにお話してくれた中平さん。全ては、目の前の患者さんと、これから新たに生まれるであろうより良い治療のため。これからも中平さんは、 IT を活用してしながら、人にしかできないことに集中して、患者さんのみならず社会に貢献されるのでしょう。これから機能を拡張し、パワーアップしていく中平歯科クリニックの IT 活用について、またお話を伺うのが楽しみです。