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究極のBPOが宮崎県都城市に誕生

BPO って…なに? 一般的に聞き慣れない言葉かもしれません。

Business Process Outsourcing (ビジネス・プロセス・アウトソーシング) の略語で、企業や行政などの特定業務やビジネスプロセスを外部の専門事業者に外部委託することを言います。日本では特にコールセンター業務、郵送物の代行入力、資料などの発送や集計作業などの業務を地方都市で行うことなどが一般的です。

2020 年 9 月 宮崎県都城市の、霧島山を一望できる田園風景が広がる敷地に、宮崎デジタルコミュニケーションセンター(以下 MDCC)は開設されました。2 階建ての建物は 1 階に 100 席、2 階に 250 席の規模を誇り、行政のコールセンター、旅行会社、通販会社、出版社、弁護士事務所などから委託された BPO 業務すべてにおいて、Claris FileMaker プラットフォーム を活用したオペレーションが行われています。

宮崎デジタルコミュニケーションセンター (MDCC)

MDCC を運営するのは、株式会社サポータス(本社:東京都千代田区)、Claris Partner として 2012 年からFileMaker の開発を手掛けている IT 企業です。

「通常、コールセンターの委託ではお客様企業のシステムをそのまま使うことが多いのですが、MDCC のコンセプトは、業務効率化と業務改善。今までのやり方をそのまま踏襲するのではなく、サポータス流の業務改善をお客様に提供しています。その根幹にあるのが、FileMaker です」 (永江社長)

永江氏はコンサル出身で 2010 年に株式会社サポータスを設立し、当初から Claris FileMaker プラットフォームを採用して業務プロセスのコンサルティングを提供してきました。現在は、東京本社、仙台・新潟で R&D センター、品川・大阪・宮崎 で BPO センターを運営し、現在 160 名の社員が勤務しています。この宮崎 BPO センターは、2019 年 7 月に都城市からオフィス譲渡の打診があり、同年 12 月に宮崎県から認定を受け、約 1 億円の投資を行ってリノベーションして、2020 年 9 月に開設しました。

“愛”から生まれた宮崎センター

宮崎 BPO センターの開設のきっかけは、一人の社員の恋愛でした。インタビュー取材で明かされたのは、サポータス経営陣のある社員への熱い気持ちです。

現在は MDCC のエンジニアチームを率いる平田さん。2017 年に 2 年間 IT を学ぶことを目的に上京。遠距離恋愛を続けながら、サポータスで約束の 2 年が過ぎ、お付き合いされていた彼女との恋愛を成就させるため「彼女のいる宮崎へ戻りたい」と決めたそうです。そのとき永江氏から、
「2 年間一生懸命努力して、一緒にやってきた仲間だし、せっかく学んだ FileMaker の知識を活かせるように、小さくてもいいなら地元のマンションを借りてあげるから、サポータスの支店を出さないか?」
という打診を受けます。

「東京に出るときには想像もしていなかった事態に、本当に驚きました。まさか彼女の住む宮崎で自分の会社のオフィスが作られるなんて…」 と当時を振り返ります。

ちなみに、その彼女さんとも今でも? という記者の質問に、「はい。無事結婚して、今一緒に暮らしています」という満面の笑みで回答してくれました。

MDCC エンジニアチーム 平田さん

期を同じくして、宮崎:都城市にあったサポータス社のクライアント企業が運営する BPO センターの事業譲渡の話が持ち上がりました。点と点がつながった瞬間です。BPO センターを任されていた塩屋さんと平田さんが合流し、サポータス宮崎支店が誕生しました。

永江氏は、当時の BPO センターに足を運んで驚いたといいます。元百貨店の建物をオフィスビルに改装したスペースに入居しており、天井が低く、窓もない環境で 40 名以上のスタッフが勤務している様子は、まさに蟹工船を連想させるものでした。 まず最初に手を付けるべきは、労働環境の改善。新しいオフィスに移動するべきだと決断します。そして宮崎県:都城市への協力を仰いでいるうちに、郊外にある物件を紹介されました。

“インスタ映え”するオフィスを

「もともと、ある通信会社のマニュアル制作を担っていた建物で、かなり老朽化していたので躯体だけそのままに内装は全てやり直しました。目指したのは、働く社員がリラックスできて、心地よいオフィス。カフェテリアから霧島山を撮影できるインスタ映えするオフィスを作りたい」と投資を決断したそうです。

記者が実際にセンターを訪問し、遠くに霞む霧島山を見ながら周辺に広がる田園風景をみると、本当にリラックスでき、「本当にインスタ映えしますね。こんな場所で休憩しながら仕事をしてみたいですね…」とつぶやくと、「冬は静かなんですけど、夏は朝夕、セミとカエルの大合唱で都会の人は、うるさいって思われるみたいですよ。慣れれば大丈夫ですけどね」と平田さんが笑顔で答えてくれました。

MDCCの夕暮れ時

市街地から車で 30 分 こんな場所に人が集まるの?

インスタ映えする田園風景が広がる敷地…たしかに魅力的ではある。がこんな場所に人が集まるのか?という質問を 塩屋センター長にぶつけてみました。

「コールセンターは非常に離職率が高い業種と言われていますが、幸いなことに MDCC では離職率はとても低いんです。短期のスポット業務がはいってくると、人が人を呼んでくる感覚で、従業員同士で周りに声がけして人を集めてくれたりするのです。『どげんかせんといかん』って 東国原 元宮崎県知事も表現されていたのを記憶されている方も多いと思いますが、宮崎県民って、みんなで助け合う精神なんですよ。
当センターでは、20 歳代から 60 歳代まで働いていますけど、本当にみんな仲良く年齢関係なく助け合いながら仕事をしています。地方都市で求人が限られているなかで、大学や専門学校を卒業して、I ターンという形で地元に戻ってこられる企業がここにあるっていうことは、地元でもとても歓迎されています。従業員の 9 割以上を都城市から採用していますし、これから新卒の採用も計画していますので、本当に恵まれた環境だと思います。 

サポータスであれば、平田さんのように、東京本社に勤務して、また宮崎に帰ってきて仕事することもできますから東京でしばらく仕事をしたいエンジニア志向の方も大歓迎です。」

MDCC センター長 塩屋さん

開発部隊がそこにいる安心

MDCC では他の BPO センターとは異なる強みがいくつかあります。サポータス創業メンバーであり執行役員を務める永瀬氏によると、例えば、今まで申し込み情報を手書き郵送で受け付けていたお客様が、MDCC に委託し、AI と OCR を活用して自動で FileMaker 側にデータを取り込むようにしたことで業務処理効率が変わったと評価されているそうです。
他の例では、Excel でデータを管理されていたお客様が MDCC に委託し、Claris FileMaker プラットフォームに移行したことにより、FileMaker からボタンひとつで発信業務ができるようになりました。対応速度が上がっただけでなく、リアルタイムに情報共有ができるようになったことで本社も含めて業務効率が上がったとコメントをいただいているそうです。

顕著な例は、応札した都城市コロナ助成金のコールセンター業務です。まさに即時スタートという状況下で、開発チームとコールセンターが連携しながら画面を設計・改善して、翌日からの運用開始に漕ぎ着けました。
これが、システム会社とコールセンターが別会社であったり、別の拠点である場合、システム仕様書から始まり、動作確認テストなどでどうしても立ち上げまでに日数を要することになります。FileMaker でのローコード開発で、しかも同じ建物内に開発チームがいるため、画面設計を実際に運用する担当者と協議しながら迅速に開発することが可能でした。コールセンターのスタッフが翌日から電話をかけながら使用し、業務を効率化するための自動化機能や、必要な帳票、報告用データ集計レポート機能など、必要な機能はすぐに追加してもらうことができました。
まさに、ローコード開発ツールを使ったアジャイル開発と、人材を即時に集めて業務を開始できる MDCC のチームワークにより成功したプロジェクトだと言えるでしょう。

アウトソーシングといえば、与えられた業務を指示通りにオペレーションするタイプの事業者が多いといいます。一方で、サポータス社では、顧客に寄り添い、業務を根底から見直して FileMaker を活用し、システム改善を行うことを強みとして、様々な業種業態に対して BPO アウトソーシングを引き受けています。

地方と都市を結び、企業と企業を結び、企業と人を結び、人と人を結ぶ。新たなイノベーションを起こし、未来へと結ぶ MDCC 宮崎デジタルコミュニケーションセンターの今後に大いに期待したいと思います。

同じ拠点で行われている FileMaker 開発

(編集後記)

日本国内では、少子高齢化の進行等による人口減少傾向があるなか、都市部では、人手不足の状態が顕在化しており、IT 業界では人手不足に陥っている。また、地方都市では、若者を中心とした人材流出が続くことも合わせ、人材確保の困難が深刻化している。地域人材流出の原因となっている雇用機会の視点では、賃金水準などの労働条件面のミスマッチ、職種・業種等でみたときの選択肢の乏しさ、地元企業の良さがよく知られていないことなどを背景として、若者の人材流出が起きている。
今回のサポータス社の取り組みは、まさに日本国内の地方で抱えている課題:地方創生における雇用創出 を解決する糸口である。今回取材した 平田さんがインタビュー中に語ってくれたの話題の中には、親や家族の関係、地元への愛着、そして、習得した IT 知識の活用があった。 希望する職業で地方で勤務したいという願いを叶えるためには、サポータス社のような IT 企業が積極的に BPO アウトソーシング業務を獲得し、地方のセンターへ業務を分散させることで、継続的な雇用機会を生み出し、地方創生の一助になるに違いない。
地方での雇用は、医療、福祉、教育、文化施設、環境分野など偏りが多いなか、地元人材を活用して雇用機会を創出し、都城から日本を元気にする取り組みから目が離せない。