
目次
- 表計算ソフトに頼ったデータ管理方法の改善に挑む
- 自社業務に合わせたシステムの開発に FileMaker を選択
- スタッフや派遣先に加え、寮やリース品も管理
- データの一元管理により大幅な効率化とコスト削減を実現
- 派遣スタッフが 10 倍以上に増えても同一システムで管理可能
1. 表計算ソフトに頼ったデータ管理方法の改善に挑む
株式会社アスタリスクは、愛知県豊橋市に本社を構える人材派遣会社である。同県の豊田市と安城市にも営業所があり、三河地方に多い製造業を中心に企業が求める人材を紹介している。全国から多くの人材を集め、派遣スタッフを社員が丁寧にフォローアップ。10 万人以上の登録者から、依頼のあった企業に最適な人材をスピーディーに提案する。
アスタリスクは従来、派遣スタッフの管理を表計算ソフトで行っていた。株式会社アスタリスク 豊橋営業所 所長 古橋 友彦氏は、当時の様子を次のように語っている。「派遣業務は、お客様である派遣先と派遣スタッフ、さらに派遣元である当社の三者がかかわります。それぞれに契約関係が生じ、この契約書の管理が重要になります。派遣スタッフは基本的に有期雇用で定期的に更新を繰り返すため、その管理も必要です。私が入社した当時はこれらを、各営業担当者が表計算ソフトで管理していました。当時は登録者数も管理可能な範囲だったためなんとかなっていましたが、管理に手間がかかる上、担当者によって少しずつフォーマットが違うケースもあり、管理方法として疑問を感じていました」

(左から)株式会社アスタリスク 豊橋営業所 所長 古橋 友彦氏、同 豊橋営業所 事務長 宮川 直樹氏、株式会社 Freeandopen 代表 兼子 佳也氏
古橋氏は以前小売業で勤務していたときに、業務管理システムの開発にかかわった経験もあったので、見かねて管理帳票や業務プロセスの整理に取り組むことにした。表計算ソフトのフォーマットを統一し、個人でのデータ管理から複数人で台帳を共有して管理する方法に変更。関数を使って契約書を簡単に作成できるようにするなど、少しずつ改善は進んだ。しかし台帳形式では 1 人がファイルを使っているとその間、他の人が利用できないなど、別の不便が発生した。その頃、同じように課題を感じていた株式会社アスタリスク 代表 加藤 雄一氏が、システムの導入を決断。新たなシステムを導入し、表計算ソフトのデータを移行して使い始めた。しかしそれも思ったような効果が出ず、活用は広がらなかった。
2. 自社業務に合わせたシステムの開発に FileMaker を選択
そんなとき、古橋氏は Claris パートナーである株式会社 Freeandopen 代表 兼子 佳也氏に相談することを思いつく。古橋氏は前職で Claris FileMaker を利用していたが、そのシステムを構築していたのが Freeandopen であり、担当者が兼子氏だったのである。古橋氏は兼子氏について、「当時私は直営店のマネージャーで、兼子さんが受注管理と在庫管理システムを開発していました。人柄がすばらしく、当時から信頼していました」と語る。
Freeandopen は主に小売業の生産管理や商品管理を中心に Claris FileMaker で業務アプリケーションを開発している。人材派遣会社でのアプリケーション開発の経験はなかったが、古橋氏が「(兼子氏なら)必ずや自分たちのやりたいことを具現化してくれる」と全幅の信頼のもと、アスタリスク代表の加藤氏に推薦。実際に加藤氏と兼子氏が面談し、委託開発が決定した。
開発にあたって、営業業務面を古橋氏が、経理・事務業務面を豊橋営業所 事務長の宮川 直樹氏が中心となって要望をとりまとめ、Freeandopen に伝えた。宮川氏は「兼子さんは聴く力がすごい。元々派遣スタッフの管理から始まったシステムですが、物件や派遣スタッフに提供している寮、リース品の管理など新しい要望が次々と出てきました。兼子さんもまったくやったことがない分野の話も多かったと思いますが、きちんと要望を聴いて、さらにご自身でも調べて形にしてくれました。経理の社員の間でも兼子さんへの信頼は絶大です」と絶賛する。
古橋氏も、「兼子さんはヒアリングをしっかりしてくれるだけでなく、話を聴いた上でできないことはできないとはっきり言ってくれます。ただできないと言うだけでなく代案を提案してくれたり、我々が想定していなかった問題も事前に注意喚起してくれたりと、頼りになります」と語っている。
開発は 2013 年から始まった。最初に着手したのが、取引先(派遣先)とこちら側の登録スタッフをマッチングするためのシステムである。兼子氏は、「表計算ソフトで管理していた登録スタッフの情報や取引先情報などの移行からスタートしました。そのうえでマッチングシステムを構築し、その後契約書の作成と管理を構築。移行も随時機能を追加しています」と説明する。
3. スタッフや派遣先に加え、寮やリース品も管理
アスタリスクのシステムは、派遣人材管理、派遣取引先管理、派遣人材業務引合せ管理(契約書等)、物件管理、リース管理、給与管理、支給控除管理、取引先請求書管理などを包括している。

派遣スタッフの管理から、物件、スタッフへ貸与中の寮やリース品の管理まで行える
物件管理は寮や駐車場など不動産物件の管理システムだ。アスタリスクでは、自社で持つアパートや借り上げアパートなどを寮として派遣スタッフに貸与するケースも多い。また、車や携帯電話などをリースで提供するサービスも行っており、それらの管理も Claris FileMaker で行っている。宮川氏は、「寮や駐車場を 1,500 ~ 2,000 件、車も 400 台近く扱っています。誰にどの物件を貸しているかを把握し、利用料をそれぞれ給料から差し引かなければなりません。その件数は月間 5,000 ~ 6,000 件にのぼります。とてもアナログでは管理できません」と語る。

スタッフが利用中の物件管理画面
派遣スタッフの登録手順は次の通り。まず応募があると求人チームの事務スタッフが個人情報を入力する。応募者が近隣にいる場合は直接、遠方の場合はオンラインで面接を行い、希望条件や経験、スキルなどをヒアリング。お互い合意のうえ、同社の派遣スタッフとして、システムに登録する。契約書は各スタッフの管理画面から作成できるようになっており、WEB 上で契約書を取り交わすこともできる。一方、派遣先は同じ会社でも工場や複数の事業所がある場合が多いため、場所ごとに管理。それぞれの求人条件を登録スタッフとマッチングし派遣先を決定する。
各派遣スタッフの管理画面では、給与や各種保険、派遣先や業務、通勤の距離や手段、教育訓練、寮やリース品などが細かく記録されており、それぞれの履歴も把握できるようになっている。給与については昇給の記録も記載されている。
不動産やリース品については、物件からの照会も可能だ。それぞれの部屋や車の現在の利用者はもちろん、履歴も管理できるようになっている。

社外からもシステムを利用できるように PHP で作成した Web ページも用意。API で Claris FileMaker と連携しており、営業担当者は顧客先など社外から iPhone で各種情報を閲覧できる。派遣スタッフ向けの Web ページとして個人用のマイページも用意。マイページでは給与明細や契約書、アスタリスクからのお知らせなどを閲覧できるようになっている。

スタッフ閲覧用のマイページ
4. データの一元管理により大幅な効率化とコスト削減を実現
Claris FileMaker でシステム化をした効果として、第一に事務作業の集中処理が可能になったことが挙げられる。従来、営業担当者が各自で行っていた入力作業を事務部門で集中して行うことで、営業担当者は営業活動に専念できるようになった。古橋氏は、「現在 1,000 人以上のスタッフを派遣しており、以前の手作業管理のままだったとすると、とても仕事が回りません。派遣スタッフがこれだけ増えても対応できるようになったのは、このシステムがあるからだと思います」と評価している。
派遣先や勤務状況、給与だけでなく、寮やリース品の使用状況などがすべて一元管理されていることによって、先に寮費などを差し引くといった複雑な給与計算もほぼ自動で行えるようになった。「現在お客様が 300 社以上あり、登録スタッフ数も 2 万人を超えています。管理する不動産やリース品も多く、とてもアナログでは処理できません。必要なデータがすべて一元管理できていることで、言葉では言い表せないほど効率化できていると思います」(宮川氏)。
雇用契約書がボタン操作で簡単に作成できるようになったことも大きい。さらに給与明細を含めた書類での通知を郵送から PDF での配布に変えたことで、手間もコストも大幅に削減できている。
契約更新時期が近づいているスタッフに関してはその情報が赤字で表示され、期限が近いことがすぐにわかるようになっている。「更新の意思もマイページで確認できるようになり、簡単なボタン操作で契約更新にかかわる業務ができるようになりました。半自動的に契約管理ができるようになって、とても便利になりました」(古橋氏)。

契約管理画面。契約切れの場合は赤字で表記される
アスタリスクのシステムは、すっきりとわかりやすい画面レイアウトも印象的だ。機能を追加すると同時に、常に使いやすさを追求して改善を続けており、特にトップページは当初とまったく異なる。宮川氏は、「項目が増えて見づらくなったら兼子さんが新たなレイアウトを提案してくれるので、いつも画面が見やすく、わかりやすく助かっています」と語る。
5. 派遣スタッフが 10 倍以上に増えても同一システムで管理可能
Claris FileMaker について古橋氏は次のように語る。「数年前、一度別システムへの切り替えを検討したことがあります。しかし、開発スピードや画面の見やすさが今ひとつで、当社には合わないと感じました。結局その話はなくなり、FileMaker を継続して利用することになりました。派遣業務はかなり特殊な上、当社はスタッフに多様なサービスを提供しています。その複雑な管理を行うには、自社の業務に合わせた開発がスピーディーにできる FileMaker が向いていると思います」。
また兼子氏は Claris FileMaker について、「FileMaker はミニマムスタートが可能です。開発を始めたときのスタッフ数は 70 人だったのですが、現在は 1,000 人を超えています。それでも同じシステムで処理できます。処理件数が増えても問題なく動き、機能をどんどん変化させていけるところが FileMaker のすごいところです。打ち合わせしながら、簡単に修正できるスピード感は他にはありません」と語る。
現在開発中の機能に、派遣スタッフに対する給与の前払いサービスがある。マイページでの前払い申請から、社内の承認、支給、当月給与からの天引きといった一連の流れを、Claris FileMaker で実装する予定だ。また、開発を検討している機能として、派遣スタッフの健康診断の管理がある。現在表計算ソフトで作成した用紙を印刷して配布しているが、それを Claris FileMaker とマイページを使うことでペーパーレス化したいと考えている。
当初アスタリスク内では古橋氏と宮川氏が中心となって開発を進めたが、最近は他のスタッフも参加し全社的に取り組む体制になっている。兼子氏も細かい操作性などは現場の担当者との打ち合わせ、大枠の機能などについては古橋氏や宮川氏と協議するなど臨機応変に対応し、効率良く改善が進んでいる。
これからもアスタリスクのシステムは、進化を続けるだろう。
【編集後記】
スモールスタートからシステムを大きく育てることができるのは、Claris FileMaker の大きな特長の 1 つである。アスタリスクのシステムは、その典型例と言える。会社が成長するにつれ、登録スタッフ数も管理すべきデータも増えていったが、Claris FileMaker で業務を自動化していくことで効率化を実現。社員数をそこまで増やさずとも管理できる体制を整えていった。開発会社 Freeandopen への信頼も厚く、その良好な関係性からまた良いアイデアが生まれ、改善が進んでいる。自社の課題解決のため、システムのアウトソースを考えている企業にとって参考になる成功例と感じた。