事例

生徒数延べ 1 万人のデータを管理。通信制高等学校の教務を網羅するシステムを自前で開発

駿台甲府小学校・中学校・高等学校は、山梨県甲府市にある 12 年一貫教育の私立小学校・中学校・高等学校だ。駿台予備学校を中心に幼稚園から小中高等学校、専門学校、大学・大学院を持つ総合的な教育機関へと発展した「駿台」グループに属し、県内で唯一の美術系専門学科「美術デザイン科」を持つことでも知られる。

運営は学校法人駿台甲府学園で、学校法人駿河台大学・駿台予備学校(学校法人駿河台学園)とは姉妹関係にある。1980 年 4 月 駿台甲府高等学校を開校。1993 年 4 月に 駿台甲府中学校を開校、2002 年 4 月には駿台甲府小学校を開校し、高等学校通信制課程は 2000 年に開設された。

全日制とカリキュラムや学び方が異なる通信制は、全国に広がる生徒の管理をする必要があり、全日制と同じ方法では学籍や成績の管理が十分にできないという課題があった。通信制高校は日本国内に約 250 校あまりで全日制の約 4880 校と比較して市場が狭いため市販アプリケーションも少なく、同校は自らローコード開発にてアプリを作成することとし、その開発プラットフォームとして、Claris FileMaker を選んだ。本システムを開発した駿台甲府高等学校 通信制課程 教諭 小宮山 修 氏と、管理を担当する総務部 総務課 堀内 亮 氏に話を聞いた。

通信制開設にあたり、新教務システムの構築が急務

駿台甲府高等学校は、同校が所属する駿河台学園グループ全体の教育理念である「愛情教育」に加え、駿台甲府独自の「チャレンジング・スピリット」を軸に教育を実践。山梨県内トップの進学校を目指すと同時に、世界で活躍するアスリートの輩出も目指している。全日制の普通科と美術デザイン科に加え通信制を設置。通信制は日々のレポート学習、登校して学ぶスクーリング、定期テストを組み合わせたカリキュラムとなっており、本校の他に国内 10 か所以上に学習センターを設けて全国各地に在住する生徒に対応する。

駿台甲府高等学校 通信制課程 特別活動の授業風景

データベース無しに成り立たない通信制高校の履修管理

同学園が設置する全日制小中高の学籍や成績の管理は、すでに全国で多くの稼働実績がある駿台グループの関連会社が開発した教務支援システムで運用している。しかし、クラスや学年単位で学ぶ全日制と通信制ではカリキュラムが全く異なるため、同じシステムでは全ての業務をカバーしきれない。クラス単位ではなく、個人単位でのきめ細かな指導や学習状況把握が必要になるからだ。以前の通信制は働きながら学ぶ人が多かった。しかし、現在は全日制の高校に進学したが学校の雰囲気に馴染めないなど、何らかの理由で転学するケースが増加している。その場合は高校卒業資格を得るために足りない単位を通信制で修得することになる。そのため、個人ごとに受講する科目や修得すべき単位数や在籍する期間も異なっている。単位制であるため、留年という考え方もない。それを管理するためには新たなシステムが必要だった。

システムの内製化が可能で安定性が高い FileMaker を選択

通信制課程が新たに設置されたのは 2000 年のことだ。設立当初から関わる情報科教諭の小宮山氏は、教務システムを自ら作ろうと取り組み始めた。その時に選んだシステムが、ローコード開発プラットフォーム Claris FileMaker である。その選定理由を小宮山氏は次のように語る。「通信制の設置が決まったものの、生徒が何人来るかわからない中で、システムを外注する予算はありません。その中でやりたいことを実現するためには、PC で使える Claris FileMaker か Microsoft Access くらいしか選択肢が思いつきませんでした。しかしデータが増えるなどの要因で動作が不安定になり不意の事故でデータが消失するようでは困ります。その点 FileMaker は安定しており、そのようなことはありません。現在まで 20 年以上使っていますが、ずっと安定稼働しています」

左から、堀内 亮 氏(駿台甲府高等学校 総務部 総務課)、小宮山 修 氏(駿台甲府高等学校 通信制課程 教諭)

小宮山氏が FileMaker で作成した「学籍成績管理システム」は、通信制課程の設立時に原型が作られ、現在まで拡張と修正を加えながら成長を続けている。小宮山氏は、「FileMaker 5.5 から使い始めました。バージョン 7 で多テーブル構造を取り入れ、リレーショナル・データベースに変わり非常に良くなったと感じています。昔の FileMaker のままだったら、今日まで継続して使ってこられなかったでしょう。 FileMaker の良いところは、データベースの構造が変わるほどバージョンアップしても、昔のデータが使い続けられるところです」と語る。

新しいバージョンが発売されても旧バージョンからのデータ移行で互換性が保たれており、これまで蓄積した資産を活かしながらより便利な機能を付加し、システムを成長させることができる。

FileMaker で作成した「システムメニュー画面」

20 年間、ワンプラットフォームでの運用を通してシステムを成長

学籍成績管理システムは、入学手続き、成績や学費、就学支援金などの管理をはじめ、履修科目の登録、各種証明書の作成、指導要録の作成、スクーリングと定期試験の教室割など、通信制課程の教務に必要な機能を網羅している。小宮山氏は、「その半分以上は、データを登録して一定の処理をしてから出力するという単純なものです。ただ、たまにそれだけでは済まない複雑な処理が必要となるものもあり、それらによってかなりの自動化を実現してきました」と語る。

その 1 つが進学時に必要な「調査書」の作成である。調査書とは、各科目の年次ごとの成績や評定平均、出欠や部活動、学校行事といった学校生活の記録を記した非常に重要でミスが許されないものだが、自動生成以前は 1 人分の作成に 1 ~ 2 時間を要していた。

「生徒のデータを調べて評定平均などの数値を割り出し、間違いがないか何重にもチェックして印刷していました。全日制は学年単位で履修科目がほぼ決まっていますが、通信制は生徒ごとに履修科目が全く違うし、以前の学校の成績との紐付け作業もあるので、非常に手間がかかっていました。現在生徒数は延べ 1 万人、データにすると 40 万レコードにも及びますが、そこから自動的に必要なデータを抜き出して自動生成できるようになり、大幅な効率化とコスト削減を実現しました」(小宮山氏)

成績管理メニュー画面

また、生徒の増加に加えて、コロナ禍により教室の収容生徒数を制限したことで、受講生の厳密な人数制限が必要となったスクーリングや定期試験の時間割も自動化。生徒の履修科目に応じて受講・受験できるクラスを割り振っていき、定員に達したら別の時間の同じクラスを割り振る仕組みを作成した。誰がどの教室のどのクラスを受講・受験するかの割り振りを FileMaker によって自動化できた。小宮山氏は、「人の手では数時間かかるような面倒な作業を、 FileMaker ならものの 5 分程度できれいに処理してくれます」と語る。

さらには、日々変わる生徒のレポート提出状況やスクーリング受講履歴を生徒個人のスマートフォンに一斉送信する機能なども追加。連絡業務の効率化やスピードアップも実現している。

担当教科の先生がレポート内容を丁寧に教えてくれる。写真は化学の授業風景

ハウジングサービスから FileMaker Cloud へ

学籍成績管理システムは、当初から約 10 年間ほどは校内のサーバに格納していたが、学校の各種システムをすべてデータセンターにハウジングすることとなり、同システムも同じデータセンターに格納することとなった。しかし通信制の規模が全国に拡大するにつれて、課題が起きた。データセンターとのネットワーク接続は生徒の個人情報や成績などの機微情報を扱うため、そのアクセスが校内からに限られていた。通信制が全国に持つ学習センターから都度データを本部に送ってもらい、本部で入力しなければならなかった。また、そのデータセンターは FileMaker の管理は業務対象外だった。

「FileMaker のインストールやアップグレードはもちろん、バックアップも自前で運用管理していました。

そんな時、Claris 社がサービス提供している FileMaker Cloud を知り、これならセキュリティを考慮して全国からアクセスできるし、サーバのメンテナンスも不要になるのではないかと考えました」(小宮山氏)。そこで Claris 社にコンタクトを取り、 2 時間程度のテレビ会議で、Claris 法人営業本部のエンジニアに FileMaker Cloud に関するセキュリティやパフォーマンスなど疑問点を質問。その結果、課題が解消し、FileMaker Cloudへの移行を決断した。

移行について小宮山氏は、「数十万件のデータがあったので不安もありましたが、Claris のサポートのお陰で容易かつ無事に FileMaker Cloud へ移行できました。校外の拠点から安全にアクセス可能になったうえ、メンテナンスも不要になり助かっています」と語る。また、全校の IT 管理を担い、今回の調達を担当した堀内氏は、「システム移行計画の詳細については小宮山教諭と Claris 社にお任せし、両者の橋渡しをしました。Claris のご担当者の方には移行に伴う設定の細かな疑問にも丁寧に回答をいただき、納得したうえで計画を進めることができ、安心した導入につなげられました」と語っている。

順調に成長し、通信制の教務を一手に担ってきた学籍成績管理システムだが、課題もある。小宮山氏が一人で開発・運用を担ってきたことから、後継者が育っていないのだ。いずれ小宮山氏が引退する日が到来し、その後メンテナンスできる後継者がいなければ、システムを利用できなくなってしまう。その日に備え、小宮山氏は詳細な運用マニュアルを作成。引継ぎのための資料を用意した。小宮山氏は、「近い将来、後継者にバトンタッチし、高度な機能追加は Claris パートナーに任せる必要がある」と語る。

小宮山氏力作の175ページにわたるマニュアル資料

駿台甲府高等学校は学校全体として、これまでも授業や課題管理、生徒の学習サポート、進学指導や学校事務などのさまざまな面で IT 活用を進めてきた。堀内氏は、「最近では、個々の生徒に最適な“苦手分野克服”学習メニューを生成する AI 教材や、いつでもどこでも質問できるオンライン質問システムなどを導入し、高校生の学習をさらに強力にバックアップする環境が整備されました。」と語る。今後も IT を活用することで、学校事務の効率化や高度化を進め、授業や生徒支援の質の向上を目指していく。

【編集後記】

現在日本の高校生は約 300 万人、そのうち通信制に通う生徒は 20 万人強だ。文部科学省が 2020 年に調査を始めた 1948 年以降で初めて通信制の生徒が 20 万人を超えた。年によって増減がありながら、 1995 年以降は一貫して増加。一方で高校生の総数が 1990 年には 550 万人を超えていたことから考えると、通信制に通う生徒の比率が大きく伸びているのがわかる。これに比例して通信制の高等学校も増え、特に私立の通信制の伸びが大きく、1995 年が 93 校だったのに対し、現在は 253 校にのぼる。

このように高校生の選択肢として存在感を増している通信制だが、全日制に比べれば数は少ないため、市販のアプリケーションに選択肢が少ないという課題がある。駿台甲府高等学校は、この課題に果敢に挑み、外注するのではなくシステム内製化という方法で解決し、大幅な効率化を実現してきた。現在、後継者が不在という課題に直面しているが、そもそもこのシステムが使えなくなれば、一番困るのは多くの通信制の生徒たちだ。そのことをもっとも良くわかっているのは、小宮山氏であり、同僚たちだろう。これまで同様知恵を絞り、必ずや乗り切ってくれるはずだ。