目次
- FileMaker 2026 はなぜ重要なリリースなのか
- 事業継続計画(BCP)に応える──Standby Server と FileMaker Server Remote Backup
- 30 以上の改善で開発者生産性を飛躍的に高める
- AI 時代の業務アプリ基盤として──AI 対応アーキテクチャの強化
- コンプライアンスとプラットフォーム安定性の強化
- アップグレード前に確認すべきポイント
- まとめ
1. FileMaker 2026 はなぜ重要なリリースなのか
ローコード開発プラットフォーム Claris FileMaker の最新版、Claris FileMaker 2026(内部バージョン 26)が2026年6月10日にリリースされました。本バージョンより、年号表記と内部バージョン番号が一致しました。これまで FileMaker 2025 の内部バージョンは「22」でしたが、FileMaker 2026 からは「26」となります。
今回のリリースは、「開発者の生産性と QOL の向上」「エンドユーザ体験とアクセシビリティ」「安定性、スケーラビリティ、プラットフォームサポート」「AI 対応アーキテクチャ」「災害復旧と事業継続」という 5大テーマのもと、30以上の機能強化が実施されています。単なる機能追加にとどまらず、エンタープライズ規模の信頼性基盤と、AI 活用の実用段階への移行を同時に実現する、FileMaker 史上最もバランスの取れたメジャーアップデートです。
本記事では、アップグレードを強く推奨すべき観点を、具体的な機能とともに詳しく解説します。
2. 事業継続計画(BCP)に応える ─ Standby Server と FileMaker Server Remote Backup
Standby Server でサーバー障害に即座に対応
FileMaker 2026 最大の新機能のひとつが Standby Server(スタンバイサーバー)です。プライマリとスタンバイの 2台構成で動作し、SSH トンネルを介してデータブロックが継続的に同期されます。プライマリサーバーに障害が発生した場合でも、Claris FileMaker Admin Console の「Standby Server」セクションから数クリックで切り替えが完了し、データベースエンジンが即座に起動して運用を再開できます。
- Admin Console から一元管理
- データ同期間隔: 5分
- 同一 OS ファミリー間のみ対応(macOS→macOS、Windows→Windows、Linux→Linux)
- ホスト名を使用している場合は、切り替え後の DNS 手動対応が必要
注意:セカンダリサーバーへの切り替えは手動操作であり、自動フェイルオーバーではありません。業務停止が許されないミッションクリティカルな環境を対象とした選択肢として、導入前に運用フローと担当者の設計が必要です。
Standby Server は、Claris FileMaker Server 評価版をダウンロードすると 45日間稼働します。稼働状況をテストしたい方は、
こちらから評価版をお申し込みください。
FileMaker Server Remote Backup でオンプレミス環境のデータ保護を強化
Claris FileMaker Cloud と同等のスナップショット技術をオンプレミスの FileMaker Server でも利用可能になりました。暗号化されたクラウドバックアップにより、ランサムウェア攻撃、物理障害、盗難、自然災害など、あらゆるリスクへの備えが強化されます。ストレージ使用量が 80% および 100% に達した時点で チームマネージャ権限ユーザへ自動通知が届くため、管理者の見落としリスクも最小化されます。
3. 30 以上の改善で開発者生産性を飛躍的に高める
永続データ保存(Persistent Data Storage)──全く新しいデータの保管場所
FileMaker 2026 で開発者から特に注目を集めているのが、永続データ保存です。JavaScript ライブラリや HTML などをFileMaker のファイル本体の内部(XML カタログ)に名前付きで保管できる、これまでにない新しい保存領域です。
値を一時的あるいは永続的に保存する方法としては、従来から変数やグローバルフィールド、テーブルへの保存などがありました。FileMaker 2026では、それらに加えて、ファイルに紐づくデータを永続的に保持するための新たな選択肢として「永続データ保存」が利用できます。専用のテーブルやレコードを用意することなく、FileMaker を終了した後も同じ値を保持できます。
主な活用シーン:
- AI に渡す共通プロンプト(要約用・分類用・問い合わせ回答用など)の管理
- インターネット非接続環境での Web ビューア用 JavaScript/CSS ライブラリの埋め込み
- カスタム App のバージョン番号・内部ビルド番号の保持
- アドオン・モジュールの内部設定値やメタデータの格納
[永続データを構成] スクリプトステップで登録・管理し、GetPersistentData 関数で Web ビューアや計算式から参照します。永続データ保存はレコードデータではないため、FileMaker Data Migration Tool(DMT)では移行対象に含まれません。一方で、ファイルのクローン (データなしのコピー) を作成する場合、永続データ保存エントリはクローンに含まれます。本番運用時はこれらの仕様を意識した上で移行作業を行う必要があります。
参考情報:
永続データはファイルを複製・配布した際に一緒に移動します。API キーや業務ノウハウを含むプロンプトを保存する場合は、配布前の削除・初期化スクリプトを必ず用意してください。命名規則(例:ai.prompt、webviewer.library)を最初から設定しておくことも強く推奨されます。(出典:Claris FileMaker 2026 深掘り特集: 永続データ保存: 株式会社寿商会 ブログ 2026年6月10日)
その他の主要な開発者向け改善(一部抜粋)
4. AI 時代の業務アプリ基盤として── AI 対応アーキテクチャの強化
── Google Gemini 対応で AI 機能がより身近に
FileMaker 2026 では、テキスト生成および埋め込み操作の AI モデルプロバイダとしてGoogle Gemini が正式にサポートされました。Google アカウントがあれば無料枠で API キーを発行でき、FileMaker の AI 機能を試す最初のステップとして大きな意義を持ちます。
── RAG の強化──業務データを AI に活かす
RAG(検索拡張生成)は、業務資料や社内データから質問に関連する情報を検索し、それを AI に与えることで、より実務に即した回答を生成するための仕組みです。FileMaker 2026 ではこの RAG に関連する機能も強化されています。
スキャンした PDF ファイルやイメージベースの PDF ファイルからテキストを抽出できるようになったほか、異なる AI モデルサーバーから RAG スペースをインポートできるようになりました。これにより、RAG スペースへのデータ登録(チャンキングやベクトル化を伴う処理)は専用サーバーで行い、実際の利用は本番サーバーで行うといった、サーバーの分離が可能になります。
また、チャンキングサイズが可変になったほか、JSONL ベースのチャンキングにも対応するなど、実データにより適した形で RAG を活用できるようになっています。
── フィールドアノテーションで AI 精度を高める
フィールドアノテーションは、新たに追加されたオプションを利用してフィールドに関する説明を登録することで、そのフィールドの「意味」を AI に伝えるための注釈を DDL(データ定義言語)レベルで付与できる機能です。テーブル名やフィールド名の命名規則を変更することなく AI の文脈理解を強化し、ハルシネーション(AI による誤った回答)の低減に貢献します。
── イメージキャプション
イメージキャプション機能では、画像を Claris AI Model Server に送信するだけで内容の説明文を生成することができます。(Salesforce 製 BLIP モデル使用)
その他、AI モデルサーバーをよりセキュアに運用いただくため、FileMaker 2026 ではデフォルトで API キー認証が必須になりました。無効化した場合は Admin Console 上で明示的な警告が表示されます。
5. コンプライアンスとプラットフォーム安定性の強化
FileMaker WebDirect WCAG 2.1 準拠に向けた改善で公共・医療・教育分野へ
FileMaker WebDirect に対してWCAG ( Web Content Accessibility Guidelines ) 2.1 準拠に向けた大規模改善が実施されました。スクリーンリーダーのサポート強化とセマンティック HTMLの改善により、FileMaker 2025 で約 10件存在した検証エラーが FileMaker 2026 ではほぼゼロになっています。
Admin Console で設定の オン / オフが可能で、既存ソリューションの改修は不要です。官公庁・医療・福祉・教育など、法的なアクセシビリティ要件を持つ組織への導入障壁が大幅に下がりました。日本においても公共機関・医療・福祉分野でのアクセシビリティ要件への関心が高まっており、競争優位性の向上に直結するポイントです。
サービス自動再起動と FileMaker スクリプトエンジン ( FMSE ) プロセス 並列処理強化
FileMaker Data API・OData・Web 公開エンジン(WPE) がクラッシュ後に自動再起動するアーキテクチャが導入されました。管理者の介入なしにサービスが回復し、すべての再起動イベントはログに記録されるため、AI を活用したログ分析も容易になります。
FileMaker Server 上でスクリプトを並列実行できる FileMaker スクリプトエンジン ( FMSE ) プロセス数も増加し、搭載 RAM と CPU に基づいて Admin Console で最大プロセス数を設定できます(高性能機で2〜3プロセス並列が目安)。AI 自動化・バージョン管理などサーバー側処理の増大に対応できる信頼性基盤が整いました。
対応プラットフォームの拡充
- macOS:Tahoe 26 および Sequoia 15 をサポート
- Windows Server:2025 を追加サポート(Windows Server 2019 はサポート終了)
- OpenSSL / Tomcat / Node.js などサードパーティ製コンポーネントのアップデートを迅速化
- Claris FileMaker Go の改善:FileMaker 26 の新機能が FileMaker Go でも利用可能、和暦の日本語カレンダー表示のバグも修正
6. アップグレード前に確認すべきポイント
FileMaker 2026 の新機能を最大限に活用するために、以下の互換性を事前に確認してください。
接続可能バージョンの組み合わせ
FileMaker Server 2026 に接続可能なクライアントは Claris FileMaker Pro / Go 2026(v26)と 2025(v22) のみです。古いクライアントが残っている環境では、FileMaker Server を先にアップグレードすると接続不能になる可能性があります。
推奨アップグレード手順:
- すべてのクライアントを FileMaker Pro 2026 および FileMaker Go 2026 に更新
- 全クライアントの更新を確認
- FileMaker Server を 2026 にアップグレード
FileMaker Server 2023 以下をご利用の場合は、いったん FileMaker Server 2024 を経由する段階移行をご検討ください。現場に FileMaker Pro 19 / FileMaker Go 19 が残っているケースでは特に注意が必要です。もし、なんらかの理由でアップグレードできないユーザがいる場合には、FileMaker WebDirect によるアクセスをご検討ください。
FileMaker Pro / FileMaker Pro Advanced のシステム条件一覧
7. まとめ
Claris FileMaker 2026 は、エンタープライズ信頼性・開発者生産性・AI 対応という 3つの側面を同時に強化した、ローコード開発プラットフォームの新しいスタンダードです。
ローコード開発プラットフォームに求められる要件が急速に高度化するなか、Claris FileMaker 2026 はその変化に正面から応えるリリースとなっています。業務アプリの AI 対応・BCP 対策・開発コスト削減を同時に実現できるこの機会に、ぜひアップグレードをご検討ください。
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