事例

リハビリ施設での電子カルテ導入でサービス向上

介護施設を運営し、オーダーメイドの電子カルテ導入で、業務の効率化だけでなく、サービスの質の向上も実現した株式会社楽楽館。抱えていた課題から、電子カルテ導入の背景、その効果まで代表取締役社長石川 敬治さんと開発に携わった株式会社イエスウィキャンの川口洋一さんにうかがいました。

手書きのシートが業務の負担に。

千葉県松戸市・流山市においてデイサービス、リハビリテーション施設を運営する株式会社楽楽館。「介護をとおして生きがいを創造する」というミッションを掲げて高齢者の健康を支え、豊かな暮らしの実現をサポートしています。創業者である代表取締役社長の石川 敬治さんが義母の介護をきっかけに始めたデイサービスですが、今ではデイサービスと通所型リハビリテーション合わせて 5 施設を展開し、地域の高齢者の方に親しまれています。そのひとつ、”楽楽館パワリハスタジオ”は、通所型リハビリテーション施設として身体機能の維持や回復を目的とした高齢者が日々通っており、自立支援や介護予防の支えとなっています。

パワリハスタジオでは主に、利用者がさまざまな機器を使って体を動かす機能訓練を実施します。スタッフは、利用者の当日の体調や、体温、血圧などのバイタルデータをはじめ、利用者によって異なる訓練の負荷の重量や速さの数値、実施した機能訓練の実績を記録します。

利用者の状態に合わせた機能訓練を実施。

電子カルテ導入前は、すべての記録を手書きでシートに記入し、その後あらためて PC の表計算ソフトに入力していました。また情報共有は、利用者対応が終わった後のカンファレンスで行われていました。
各利用者は平均 2 〜 3 時間ほどかけて運動し、スタッフはサポートしながら並行して紙に記録する必要がありましたが、記録項目も多く、手一杯の状態でした。また、記録したデータは紙として蓄積されていくものの、連続した記録としては読み取りづらいという課題もあり、カンファレンスの場があってもそれだけで十分な情報共有ができていたか疑問があったといいます。

そんな状況の中、社長の石川さんは、効率よく利用者の利用データを記録できないかと考え始めます。

「この事業を始める前に長年 IT企業に勤めていましたので、データベースを活用すれば、より良くなることは、イメージできていました。いくつかあるパッケージソフトや開発プラットフォームをみた結果、最適だなと感じたのが FileMaker でした。」

蓄積されたデータ利用が、利用者へのサービス向上につながる。

新たなシステム開発に向けて 3 社から提案を受けた石川さん。その中で株式会社イエスウィキャン に開発委託することに決めました。その理由は意外にも開発に携わる「人」に着目したものでした。「一番の決め手は、 イエスウィキャンの社員の方々の人柄です。この人たちなら、私たちが実現したい意図を汲み取ってくれて、実現したいシステムを開発してくれると思ったんです。難しい課題であっても、最後まで寄り添ってくれる気がしたので、 イエスウィキャンさんにお願いしようと決めました。」

楽楽館を訪問した イエスウィキャンの川口 洋一さんは、「困ったときや、課題に直面した時、お客さまは不安です。その不安に対して、一緒に立ち向かってスピーディーに課題を解決することが私たちの役割のひとつ。そこを評価してくださったのは嬉しいですね。」と嬉しそうに話してくれました。

3 か月の開発期間を経て、楽楽館の業務にフィットしたシステムを構築。石川さんは、画面設計にあたり、ユーザーの使いやすさに徹底的にこだわり、何度も修正を依頼したといいます。

「やはりいちばん大切なのは、使い勝手がいいこと。実際に使用するスタッフは、毎日このシステムを使用します。小さなことでも、使いづらさが積み重なるととても大きなストレスになります。スタッフが毎日使っても気にならないか?画面の配置や遷移は現場での仕様に即しているか?スムーズにおこなえるか?を重点的に見ていきました。」

イエスウィキャンの川口さんも次のように語ります。
「システムの本番稼働後も、実際の現場で使用していただいてからフィードバックをいただき、改良しました。例えば、iPad で動画を撮影すると、どうしても容量が大きくなりますが、それでもレスポンスを良くするためのシステム改善を行なったり、施設利用者のアセスメントシートや、ケアマネージャーさんへの報告機能などを追加しました。一度納品した後も改良できるのが、 ローコード開発プラットフォーム FileMaker ならではですね。」

利用者対応に集中できるよう、使いやすさにこだわった UI。当日だけでなく過去の記録も一目でわかる。

今では iPad をカートに設置し、利用者とともにリハビリ器具を順にまわって、機能訓練をひとつ終えるごとに素早く結果を入力することができるようになりました。手間なくスピーディーに次の機能訓練に臨めるので、当初 iPad 導入に戸惑っていたスタッフも、今となっては手放せない存在になっているとのこと。何度も転記する手間も省けるので、施設利用者と向き合う時間を今まで以上に確保できるようになった、と現場からも高い評価が得られているそうです。さらに効果を感じたのが、蓄積データの重要性をスタッフが理解してくれたことだと石川さんは語ります。

iPad の利用で情報リテラシーが向上

iPad を使った利用者の情報入力の目的の一つが、カンファレンスを主体としたスタッフ間の情報共有だといいます。利用者の毎日の様子を電子カルテに入れ、カンファレンスで議論した内容も記録することで、情報共有の質が向上、どのスタッフがどの利用者に対応しても、スムーズにサービスを提供できるようになったとのこと。
「パソコンに慣れてないスタッフも多く、ブラインドタッチも当然出来ないし文章もサラサラ入力できない。ところが徐々に利用者のデータが溜まってくるとその人の状況がよく分かってくるということが身に染みて分かってきたみたいで、データ入力の重要性がわかったようです。

紙で管理していても、昨年の資料を引っ張り出してグラフ化することもできるのですが、そんな時間はとても割けないので、紙に記録した情報は埋もれたままです。結局、すぐ見られる数枚の紙と記憶の範囲で自分なりの判断を下すことにならざるを得ないですよね。ところが過去の情報がすぐに iPad から見られるようになると履歴データに基づいた判断で行動するようになる。こうしたデータ活用への理解が深まるにつれ、データ入力の重要性も現場に浸透してきたのです。

利用者のデータが蓄積されると、経過を可視化できるようになり、その方の運動機能が向上してきているのか、そうでないのか。現状を把握できるようになったため、現場の対応レベルやサービスが一段と向上しました。その効果が予想以上に出てきているので、FileMaker と iPad を導入してよかったと改めて思います。」

電子カルテにデータを蓄積することにより、紙では見えにくかった利用者のバイタルの変化などをケアマネージャーに報告できるようになったことも、FileMaker 導入の効果の一つだと言います。訓練実績を実施単位の報告だけでなく、連続したデータとして経過報告できることはケアマネージャーからも評価されています。

iPad で記録したデータは、変化のわかりやすい一覧とグラフの帳票に出力してケアマネージャーへの報告に活用している。

どうしても Fax は排除できない。でも FileMaker で効率化はできる。

介護業界は残念ながらまだ Faxの利用が多く、ケアマネジャーへの報告はいまだに Fax が使われています。
「以前は Word で様式を作っておき、そこに手入力をして、プリントアウトしたものを Fax で送信するという作業をしていました。FileMaker の電子カルテを導入してからは、電子カルテから直接 Fax 送信できるようになり、帳票印刷と Fax 送信の手作業は簡略化されました。」

小さいことを少しずつでも効率化することができるのが FileMaker の特徴でもあります。FileMaker の機能を使えば、Fax をやめて電子メールや他のデータ共有システムの利用に切り替えることは簡単ですが、ケアマネージャー側が電子メールでの対応を受け付けておらず、どうしても Fax の利用をやめる訳にはいかないとのこと。電子メールへの切り替えでさらなる通信コストと時間短縮を実現するためには、介護業界全体の電子化が必要なようです。

より高齢者の暮らしに寄りそう事業を。

最後に石川さんは、「どれだけ健康維持に努めていても、病気や怪我をきっかけにして、体が動かなくなってしまうことも多く、常駐サポートできる施設に入る利用者さまもいらっしゃいます。今後は、そういう方々をサポートできるよう、老人ホームやグループホームなど新しく施設を増やしていくことを考えています。そうなると、また新しいシステムが必要になってくるでしょう。電子カルテの導入を進めてきたように、利用者さまのことを第一に考え、必要なシステムや仕組むづくりを進めていきたいですね。」と今後の事業の展開を語ってくれました。

編集後記】
介護の現場で利用者と接する一方でスタッフがパソコンに向かってキーボードを打ち続けていたら、利用者よりもパソコンと話をするスタッフが多い施設という印象を与えかねません。石川さんは、現場のスタッフにはできるだけ利用者さんの対応をしている時間を長くして欲しいという想いで、今回の電子カルテ導入を進めたそうです。「事務処理のために手が取られて利用者の対応に十分な時間が割けませんっていうのは絶対やってほしくない。それよりも、利用者の対応を充実させたい」とおっしゃっていました。楽楽館のスタッフの年齢は 30 〜 50歳代と幅広いですが、紙を中心に運用してきたスタッフが多いなかで iPad と FileMaker を導入して見事に電子カルテ化し、蓄積されたデータを利用して、利用者へのサービス向上につなげています。そこには、利用者はもちろんのこと、スタッフの方々の働き方まで考えた施設を追求する信念がありました。楽楽館のような施設が増えていくと、介護現場の工夫が増え、介護の未来はもっともっと明るくなるのではないでしょうか。

この事例は、こちらの Web セミナーでもご紹介しています。
「リハビリテーション施設でのデータ活用のためのシステム事例」
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