事例

100年企業の命運を懸けた DX。停滞を乗り越え、現場が自走する業務基盤を築く

目次

  1. 分担した役割がかみ合わず、システム刷新が 5年以上停滞
  2. 重視したのは「SaaS のように使える」こと
  3. 見積もりから配送、請求までを FileMaker で一元管理
  4. 稼働後も改善を重ね、RPA や AI も活用

開発体制や役割分担の問題から、基幹システムの刷新プロジェクトが停滞していた株式会社エビヌマ。同社はその体制と進め方を見直し、Claris パートナーの株式会社ジェネコムと再出発した。現場の業務を部門横断で整理し、Claris FileMaker を使った販売管理システムを構築。見積もりから配送、請求までを連携し、紙や手作業による転記に依存していた業務を改めた。

1. 分担した役割がかみ合わず、システム刷新が 5年以上停滞

1924年創業、100年を超える歴史を持つ株式会社エビヌマは、企業の社員寮や宿直施設、保育園など向けの寝具を中心としたリース・レンタル事業を展開している。寝具のほか家具・家電なども取り扱い、商品の納品や回収、洗濯・乾燥、請求までを一貫して担う。保育園向けには約 4万2,000床以上を提供しており、乳幼児の安全を第一に考えて「うつぶせ寝のリスクを考慮した布団」を自社開発するなど、品質にこだわっている。

同社 専務取締役 海老沼 武司氏は、事業を広げてきた経緯について次のように話す。「高度経済成長期には、建設現場などで働く人が増え、寮向けの寝具需要が広がりました。昔も今も、働く人の助けになりたいという思いは変わりません」(海老沼 武司氏)

株式会社エビヌマ 専務取締役 海老沼 武司氏

そうした歴史を持つ同社の業務を長年支えてきたのが外部の開発会社の ERP(基幹システム)だった。しかしそれがサポート終了を迎えることとなり、事業継続のためにシステム移行が不可避となる。これまで蓄積したデータを表計算ソフトへ書き出すことも難しく、社内の業務手順も旧システムの仕様に合わせて固定化してしまっていたため、移行に大きな手間がかかることは明白だった。

開発・サポート体制の終了を見据え、同社は 2017年に Claris FileMaker のライセンスを取得し、外部の開発パートナーと新しい販売管理システムの構築に着手した。しかし、プロジェクトは 5年以上にわたって停滞した。同社 顧問 海老沼 仁司氏は、その原因の一つとして、発注側と開発側の役割認識の食い違いを挙げる。

「当社としては、パートナーにシステムを構築してもらうつもりでした。一方、パートナー側は、当社が内製し、その開発を支援するという認識だったようです。プロジェクトの前提となる役割分担が、最初からかみ合っていませんでした」(海老沼 仁司氏)。プロジェクト企画書は作られておらず、開発するシステムの規模や完成までのスケジュール、投資額、体制も明確ではなかった。誰が完成まで責任を持つのかも曖昧だったという。

やがて当初の開発パートナーとの契約が終了し、エビヌマは、既存の計画を継続するのか、別の基盤で白紙から作り直すのかという選択を迫られた。

株式会社エビヌマ 顧問 海老沼 仁司氏

2. 重視したのは「SaaS のように使える」こと

プロジェクトの再始動にあたり、海老沼 仁司氏が最初に行ったのは、開発要件、規模、投資額、スケジュール、役割分担などを明確にすることだった。そのうえで、新しい開発パートナーの選定を進めた。

前述のとおり、FileMaker のライセンスは取得済みで、一部のデータもテスト用に蓄積されていた。ローコード開発基盤としての実績も評価しており、FileMaker を継続使用すること自体にあまり迷いはなかったという。むしろ重要だったのは、誰とシステムを作るかだった。

複数の開発会社を比較し、対応の迅速さに加え、開発からクラウドでの運用まで任せられる点を評価して選んだのが、株式会社ジェネコムだ。

「当社は、システムを利用することに集中したいと考えていました。インフラの技術的な中身まで自社で管理するのではなく、SaaS のように使いたかったのです。そのためには、安心して任せられるパートナーが必要でした」(海老沼 仁司氏)

新システムはジェネコムのクラウド環境で運用し、サーバーの設定やセキュリティ、バックアップなども同社に委ねることにした。また、前回の単発的な支援契約から請負契約へ改め、開発範囲やスケジュール、費用をあらかじめ明確にした。

2023年、両社はプロジェクトを始動した。前回との大きな違いは、エビヌマ自身が部門横断のチームを組み、業務要件を主体的に固めたことである。

海老沼 仁司氏がプロジェクト全体を統括し、業務側の責任者には、工場のパート入社から部長にまで登り詰めた叩き上げのリーダーで、現場の痛みを誰よりも熟知する同社 本店営業部長 森谷 達朗氏が就任した。また、ジェネコムとの窓口を務めた同社 本店営業部 下山 愛実氏は、入社直後ながら各部門の要望を聞き、IT 未経験者の視点で業務を的確に言語化した。

「まずは営業、事務、配送などの各部署を回り、『この業務はどのように進めていますか』『この情報を入力した後はどうなりますか』と聞くところから始めました。システム開発の経験もなかったので、ジェネコムの方に教えてもらいながら、社内の業務とシステム開発の両方を学んでいきました」(下山氏)

株式会社エビヌマ 本店営業部 下山 愛実氏

ジェネコム側では、本社セールス部門 笛木 芽衣氏が営業窓口となり、関西支社 システム開発部門 システムエンジニアの鍬田 久美子氏が開発を担当した。

「エビヌマさんは、先に社内で業務要件を整理し、優先順位を決めてから相談してくださいました。判断も速かったため、開発に入った後の大きな手戻りを抑えることができました」(ジェネコム 笛木氏)

株式会社ジェネコム 本社 セールス部門 笛木 芽衣氏

このプロジェクトチームが、停滞していた販売管理システム開発を加速させた。開発項目とそれらの完了・未完了の状態を共有できるツールで進捗を可視化し、毎週または隔週で打ち合わせを重ねた。発注側が業務内容を言語化し、開発側がそれをシステムに落とし込むという役割分担を明確にしたことで、認識の食い違いや手戻りを防いだのだ。こうして 2024年夏、新しい販売管理システム「みんなのDX 販売管理」が本番稼働した。

「みんなのDX 販売管理」TOP メニュー。名称は、社内の情報共有基盤「みんなのひろば」に由来しており、「社内全体で DX を進める基盤にしたい」という現場の願いを込めて社員自らが命名した

3. 見積もりから配送、請求までを FileMaker で一元管理

Claris FileMaker Pro で構築された新システムでは、見積もり、受注、契約、配送、請求などを一元管理する。営業や事務、配送などの部署を中心に約 30人がシステムを利用している。現場側から「ボタンに色を付けて直感的にわかりやすくしてほしい」との要望があれば、すぐデザインの作り直しを依頼するというふうに、現場が使いやすいシステムになるよう心掛けている。

「以前は、営業が表計算ソフトで見積書を作り、受注内容を紙で事務担当者へ回していました。そこから、事務担当者が情報を改めてシステムへ入力していたのです。今は、見積もり時に顧客や商品、数量、単価をシステムに入力すれば、そのまま受注、契約、請求へ引き継げます」(海老沼 仁司氏)。寝具のリース・レンタル業に特有の利用期間、納品数・返品数などのデータも同システムで管理している。

契約一覧

さらに、今回新たにシステム化したのが配送業務である。週間配送スケジュールには、日々の納品、返品、洗濯・乾燥などの予定が表示される。現場別の積み込み内容だけでなく、商品ごとの合計数量も確認できるため、配送担当者は必要な商品を画面で確かめながら準備できる。

配送スケジュール

配送担当者向けには約 20台の iPad を配備し、Claris FileMaker Go を利用している。訪問先や作業内容を iPad で確認できるほか、納品・返品した数量を記録し、顧客の確認サインも現場で受けられるようになった。PC では見積もりや契約、請求の詳細まで扱う一方、iPad では配送先や商品といった現場で必要な情報に絞って表示するなど、利用者の使い勝手を細部まで考慮した設計になっている。

従来は、翌日の作業予定や積み込む商品を手書きや表計算ソフトで一覧にして確認していた。現在は受注情報が配送まで引き継がれるため、この作業が不要となり、配送部門では準備にかかる時間を 1日当たり約 30分削減した。「今では、以前どのように仕事をしていたのか思い出せないほど、業務の流れが変わっています」(森谷氏)

株式会社エビヌマ 本店営業部長 森谷 達朗氏

部門間の情報共有も大きく変わった。

「システム刷新前は、紙を印刷して手渡したり、メールで送り直したりと、部署間の連携に一手間かかっていました。今は、画面を開いた時点で最新の情報を確認できます。やり取りにかかる時間だけでなく、手間やストレスも減りました」(下山氏)

4. 稼働後も改善を重ね、RPA や AI も活用

FileMaker による販売管理システムの刷新に加え、請求書の電子配信、配送伝票の電子化、RPA 活用、人事や業務運営の見直しも進めた。これらを組み合わせた結果、2026年5月を前年同月と比べると、郵送する請求書は75%、配送の手書き伝票は 65% 減少。事務部門の残業は 95%、全社の残業は 55%削減されたという。

請求書画面。画面上の「請求書PDF」ボタンで出力することにより、手書きで行っていたときにあった人為的な転記ミスも根絶された

RPA は、販売管理システムの画面を PC 上で操作する仕組みとして導入。将来分のデータの一括入力や、指定した時間のメール送信なども自動化することができた。

「RPA はシステムの専門担当者がいなければ導入できないものだと思っていました。しかし、FileMaker の画面と操作手順が安定していたため、想像していた以上に導入しやすく、短期間で業務へ取り入れることができました」(海老沼 仁司氏)

システム稼働後も、現場からはデータをまとめて処理したいといった要望が上がっている。そうした声は下山氏が取りまとめ、社内の運用で対応するものと、ジェネコムへ改修を依頼するものを分類する。ジェネコムも、依頼された機能をそのまま作るのではなく、より少ない工数で目的を達成できる方法を提案している。エビヌマ社内では、利用者が必要なデータを検索・集計し、RPA と組み合わせて業務を改善する動きも生まれているという。

「以前であれば、新しい仕組みを導入しようとすると、『難しいのではないか』と構えてしまうところがありました。今回の経験を通じて、まずは試してみようと考えられるようになり、会社として改善を進める力がついたと感じています」(海老沼 仁司氏)

こうした変革の先に、エビヌマは AI の活用も見据えている。同社はすでに生成 AI を資料作成などに利用しており、今後は活用範囲を販売管理システムにも広げたい考えだ。ジェネコムの笛木氏も、その可能性を次のように語る。「販売管理システムには、経営に役立つデータが蓄積されています。AI と組み合わせれば、利用者が意識することなく、必要な情報を得られる仕組みも考えられます」

最後に海老沼 仁司氏は、基幹システムの刷新を考える企業に向けて、次のように語った。

「中小企業は、インフラや技術的な中身まで、すべてを自社で抱えるのは難しいと思います。だからこそ、クラウドファーストで考え、システムを利用することに集中した方がよいでしょう。自社で担うことと専門家に任せることを分けて、信頼できるパートナーと一緒に進めていくことが大切です」(海老沼 仁司氏)

体制や進め方、パートナーを見直し、一度は停滞したプロジェクトを本番稼働へつなげたエビヌマ。FileMaker は、古い基幹システムの代替にとどまらず、部門を越えた業務連携と継続的な改善を支える基盤となっている。

【編集後記】

今回の取材で印象に残ったのは、部門を横断して現場の業務を棚卸しし、信頼できる開発会社とともに着実にシステムを形にしていった点である。要件定義だけでなく、体制や開発の進め方にも、過去の経験が生かされている。また、稼働後も現場の要望を集め、運用で対応するものと改修が必要なものを分けながら改善を続けている。こうした現場主体の継続的な改善を、Claris FileMaker の柔軟性が支えていると感じた。

2026年11月11日(水)〜 13日(金)開催の「Claris カンファレンス 2026」に、エビヌマ様が登壇し、本事例について詳しくご紹介くださいます。

11月12日(木)12:20 -13:05
止まっていた 5年を動かした、創業 102年老舗企業の DX ― 基幹システム刷新と、事務部門残業 95%削減までの軌跡

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