事例

時代のニーズに合わせて変化する長野県の製造業が選んだインハウス開発

製造現場で使用する書類を電子化し、業務効率を実現した樫山工業株式会社。そのシステムを開発したのは、プログラミング経験のない 1 人の社員でした。インハウス開発から、スムーズな導入の秘訣、開発会社との連携についてお聞きしました。お話をうかがったのは、樫山工業株式会社 システム企画室の上原さんと、開発コンサルティングを行なった株式会社ライジングサン・コンサルティングの岩佐さんです。

ペーパーレス化された製造現場

製造現場のペーパーレス化で業務効率化を図る。

長野県に本社をかまえる樫山工業株式会社は、真空を生みだす機器「真空ポンプ」の製造を行なっています。
真空ポンプは、半導体を製造する際に不可欠な機器です。私たちの身近にあるディスプレイやスマートフォンにも半導体が使われていますが、国内の半導体メーカーではほぼ樫山工業の真空ポンプが使われているほど大きなシェアを占めており、樫山工業の真空機器の生産量は 5 年間( 2012 年〜 2017 年)で 4 倍以上に増加したといいます。

製造の方式には同じ工程を一人が担当する「ライン生産方式」と一人で複数の工程を担う「セル生産方式」の 2 種類があり、樫山工業では、セル生産方式を採用しています。スタッフ一人ひとりに作業台があり、それぞれが責任を持って製品の大部分を組み立てていく方法です。製品特性上、単に組み立てるだけではなく、検証用に記録しておくべき数値や、複雑な計算をする過程があり、以前は紙に手書きで記入していました。紙ベースで情報を管理していた時期を上原さんはこう振り返ります。

「手書きで記載するため、記載漏れ、煩雑性が課題になっていました。また、手書きのデータをスキャンし、データ入力をしていたため、分析可能なデータになるまでのタイムロスが生じていました。さらに製造過程で必要な計算式そのものも複雑なので、もっと効率化できないかと感じていました。」

また、社内の受注や会計、生産管理を担っている基幹システムも 20 年以上も継続して使っていたので、書類の電子化をきっかけに、より使いやすく効率的なシステムに改善しようと社内から声が上がったそうです。

樫山工業株式会社 システム企画室 上原さん

2015 年、基幹システムの改修の一環として、紙の書類を電子化するためのプロジェクトがスタートしました。

「システム開発やプログラミングの経験がない中、わからないなりに調べて試作品を開発しました。まずは一般的なプログラミング言語を使い、タブレット端末で動くデモ用の UI を作ってみたんです。しかし、この開発プラットフォームだと技術的な難易度が非常に高く、また開発工数的にも、社内開発者で手に負えるようなコストでは収まらないと思いました。
その後、様々なプラットフォームや開発ツールを調べて FileMaker に出会いました。無料体験版を使ってみると、直感的な操作で『自分の力で作れそう』と思い、 FileMaker を導入しました。インターネットやテキストで勉強しながら開発を進め、約半年で電子化を実現する アプリが完成しました。」(上原さん)

FileMaker で構築したアプリに関して、機能としては問題ないものの、本当にこの構造で正しいのか不安があった上原さん。また、処理するデータの種類や量が次第に多くなってきたため、一度リレーションやアプリ内の構造をプロのエンジニアにチェックしてもらいたいと考えました。 2017 年、上原さんは、 FileMaker カンファレンス(現 Claris Engage)にスピーカーとして登壇していた株式会社ライジングサン・システムコンサルティングの岩佐さんに出会います。岩佐さんにインハウス開発のサポートとしてプロジェクトに加わってもらいました。

アジャイル開発の成功に必要なのは、当事者意識。

岩佐さんの技術支援を受け、基幹システムとのリレーションを強化。上原さんが開発した FileMaker アプリも岩佐さんに確認してもらい、エラーが出にくいように、より洗練された構造に改善を進めます。その結果、書類の電子化の効果は数値としても表れてきました。

ひと目で活用する機能がわかる UI

製品製造時のデータ入力も短縮化

「当初の目標どおり、手書き業務を削減し業務効率が上がりました。さらに書類管理をやめたことで、用紙の購入や、廃棄コストも削減しました。具体的な数値にすると、年間 1100 時間削減、330 万円のコスト削減を実現しました。」

現場スタッフから反発の声も・・・

「 iPad 上のアプリよりも使い慣れた紙の書類のほうがいい、という社員は多くいましたね。できるだけスムーズに移行していただくためにも、導入後のヒアリングとレスポンスには力を入れました。私ともうひとりの担当の 2 人で、使い心地を確認し、現場の意見を尊重して、すぐ反映するようにしました。意見を反映した結果がどうであれ、自分の意見がしっかり届いていると理解していただければ、アプリの改良も押し付けられたものではなく、現場でつくっていくアプリになっていくんです。今では、完全に定着して逆にアプリがないと仕事が回らないという状況になっていますね。」(上原さん)

現場の社員を巻き込んで、当事者意識を持ってもらうことにより、スムーズな導入を実現しました。

セル生産方式を採用し iPadを作業台に導入している樫山工業株式会社の工場

FileMaker の特徴であるアジャイル開発は、製造業とも相性がいいのではと岩佐さんは言います。

「製造業に携わる方々は『改善』の文化があるので、納品して終わりのような感覚があまりないのではないでしょうか。日々の作業や業務の中でも、今以上に良くなるツールや手法があれば、積極的に取り入れていく風土があると思います。また、自分たちでできるところはできるだけ自分たちでやってみる『自前主義』がアジャイル開発と相性がいい。まずは挑戦してみる、試してみる。これがインハウス開発がうまくいく秘訣かもしれません。もし失敗しても知見が溜まっていくので、次に活かせます。

樫山工業さんとのお仕事は、とてもスムーズです。上原さんが、エンドユーザである社員の方々の要望をまとめ、実現したいことを整理してくれるだけでなく、ある程度 FileMaker で形にしてくれるんです。どのような課題を解決したいか、背景は何かということまで共有していただけるので、こちらとしてもイメージしやすく、素早く改善、実装できます。」(岩佐さん)

作業台に設置された iPad アプリ (FileMaker Go) で計算や記録をしながら組み立てていく

インハウス開発成功への近道は、まず手を動かすこと。

「これからは、別部署にも FileMaker の実装を進めていきたいです。これまでは生産部門では、 FileMaker と基幹システムの連携を実現し、業務の効率化が進みました。しかし製品加工を担当している部門では、いまだに旧式の基幹システムを利用しています。FileMaker の利用範囲が広がれば、より効率的に業務を進めることが期待できます。基幹システムを提供している大手のベンダーさんとの連携はなかなか大変な部分もありますが、ぜひ実現したいです。」(上原さん)

最後に、インハウス開発を検討している方に向けて、上原さんからメッセージを頂きました。

「インハウス開発に必要なことは、実際に手を動かすこと。簡単なようですが、意外にもできている企業は少ないと思います。外部に発注すれば時間と費用がかかりますが、社内で進めることができると、業務に精通した人間が、その業務に適したシステムを生みだすことが可能です。最初から完璧を目指さなくともいいんです。一度作ってみて、試して、また作ってみる。その繰り返しをいかにスピーディにおこなえるか。どうしても難しい部分だけ、プロにお願いすればいいと思います。まずはやってみること。これが一番の近道だと私は信じています。」

(編集後記)

FileMaker を活用して、紙の書類をなくし業務効率を改善した樫山工業さん。プロジェクトを主導する上原さんが話されていた「まずは手を動かすこと」、まずは自分で挑戦してみて試行錯誤し、改善していく。アジャイル開発が可能な FileMaker と、非常に相性の良い考え方でインハウス開発を成功させられたことがよくわかりました。すべてをインハウスで自己完結させるのではなく、開発会社の支援を受けながら分業し、現場のニーズに応えていくという進め方も、インハウス開発成功の大きなポイントだと改めて感じました。