事例

音楽を愛し奏でる全ての人へ音楽への想いを紡ぐ。アフターコロナへの序奏は IT とのアンサンブル

創業 70 年目に発生した想定外

クラシック音楽やジャズ音楽ファンの方ならご存知の方も多い老舗企業、株式会社 KAJIMOTO(旧:梶本音楽事務所)は、1951 年の創設。以来、外国人アーティストの招聘、邦人アーティストの海外派遣など音楽を通じた海外と日本の橋渡しとして活動を続け、日本の音楽ファンを魅了し続けている。伝説の大ピアニスト、ウラディーミル・ホロヴィッツの初の日本公演を行ったことでも知られている。

2005 年より KAJIMOTO が企画制作、アーティストの招聘を担い、東京国際フォーラムにて開催されている音楽の祭典「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」※1 ※2 では、「クラシック音楽を万人のものにする」をコンセプトに、赤ちゃんからクラシック通までピクニック気分で楽しめ、国内外の一流の演奏を低料金で提供することで、日本人により身近でカジュアルな音楽シーンを提供し続けている。このイベントは、開催 3 年目の2007 年には来場者数 100 万人を超え、2019 年までに延べ 866 万人の来場者数を記録。世界最大級の音楽祭に成長している。

※1 「ラ・フォル・ジュルネ」(La Folle Journee) とは、フランス語で「バカ騒ぎの日、狂おしい日、熱狂の日」という意味。

※2 2018 年より「ラ・フォル・ジュルネTOKYO」に名称変更

過去の公演は、Apple Music :「ラ・フォル・ジュルネ」(La Folle Journee) でも聴くことができる。

2020 年の開催を目前に発生したのが、新型コロナウイルス感染症だった。2020 年 3 月頃から日本に第一波が訪れると、大型のイベントのみならず、企画するコンサートが軒並み中止となり、新型コロナウイルスの世界的な蔓延により海外からの入国規制が続き、海外からのアーティスト招聘もできなくなった。

いつの時代でも音楽を楽しむ気持ちが途絶えることはない。しかし感染症の脅威を前に創業 70 年の老舗企業もさすがに大きな打撃を被った。これまでのべ 2,000 人以上のアーティストのマネジメントを手がけた実績を持つ同社にとっても新型コロナウイルスの影響は大きく、2021 年に予定していた年間公演も大半が中止となり、現在もアフターコロナへ向けた模索が続いている。

システム名は ” BOLERO ”

KAJIMOTO は、東京銀座の本社のほか、パリ・北京・上海にもオフィスを構えており、全オフィスでテレワークに移行するなど、業務対応は速やかに行われた。というのも、KAJIMOTO では、Claris FileMaker で基幹業務システムを構築しており、海外公演や地方公演などで出張が多いスタッフが働きやすい、リモートワーク環境が整っていた。

現在、各公演のスケジュール進行や、経費管理、タスク管理など根幹に関わる業務を Claris FileMaker プラットフォーム上で開発した基幹業務システムで運用している。

システム名は、”BOLERO” 。

Concert Management System "BOLERO"

BOLERO (ボレロ) は、映画・ドラマ・アニメ・CM などでも多く採用されており、誰もが一度は聞いたことのある音楽だ。曲中、2 つの 16 小節のリズムが繰り返され、楽器を変えながらメロディを奏でる有名な舞曲であり、演奏する人や楽器によって幾万通りの音楽に生まれ変わる。

KAJIMOTO の基幹システムは、まさにこの BOLERO のように機能する。一つの公演を管理する裏で、見積・請求管理、出演者管理、顧客管理、出演者ツアー旅程管理など多くの事務作業が次々に発生する。大手旅行会社が同時多発的に複数のツアーを一括管理する規模の仕組みに近しい。イベントの繰り返しではあるものの、演奏するアーティストやオーケストラの人数によってプロジェクトの規模は小さくも大きくもなり、またイベントごとに使われる項目や管理データは異なる。 アーティストの旅程管理は、まさに旅行会社の旅程管理システムそのもので、世界のアーティストを含めた年間処理数はイベントの数に比例する。さらにイベントのチケットの管理を含めてプロジェクトを管理することになるため、管理する項目と手配・精算は旅行会社以上である。

世界各地に置かれたオフィスで BOLERO が使われ、KAJIMOTO の基幹業務を支えている FileMaker について梶本 尚嗣副社長は次のように語る。

「会社の基幹システムとして FileMaker を利用していますが、社会の状況が急速に変化していく中で、時代に合わせてアップデートし続けることができる FileMaker の柔軟性にはとても助けられています。」

オンライン化された招待状送信システム。チラシも PDF 化され電子メールに添付。印刷費用・郵送費用が削減された。

基幹業務システムを進化させて作業時間が 3 分の 1 に

KAJITOMO の請求業務の複雑さは、公演業務の特殊性による。公演の規模、会場、アーティストの出演回数等によって、請求の内訳や金額が変化する。誰に、どのタイミングで、どの勘定科目として支払うのかをシステムごとに入力する必要もあり、社内全体として大きな負担となっていた。この状況を打破しようと、梶本副社長は、Claris Partner で KAJIMOTO のアプリ開発を支える考学舎 坂本氏に相談し、二人三脚で BOLERO と既存の経理システムの連携、およびプロジェクトの可視化に取組んだ。

「KAJIMOTO が企画する公演は、数年単位で準備が必要なものも多数あります。そのため、年度をまたいで運用をおこなう必要性がありシステムにも柔軟な対応が求められます」と梶本氏。

「システム連携により、登録データの確認作業を削減できました。スピーディーな情報共有や支払い管理を実現し、コスト削減や時間削減にも寄与できました」と開発を担当した坂本氏は嬉しそうに語る。

他でも最近大きな進化があったという。広報の原澤 曜子氏は、

「招待客の管理においても大幅な作業時間の短縮が実現できました。これまでスタッフ 2 人がかりで 6 時間ほどかかっていた作業も、1/3 まで短縮できるようになりました。テレワークに移行したことで、自宅からメールで招待状を送付できる点もとても助かっています。 BOLERO に招待管理システムを組込む前は、招待状を紙に印刷し、招待客ひとりずつに封入をおこない、さらに招待状と一緒に公演のチラシも送付していましたので、大きな負担になっていました。招待管理システムの構築によって、メールで招待状を一括送信できるようになり効率化されました。郵送費用や印刷に関わるコスト削減だけみても大幅なコスト削減になっています」

さらに、招待客の出欠席もオンライン化されたことにより、早期に欠席情報を把握することができるようになり、当初の予定よりも多く当日券数の拡張に繋げることで利益率改善にも役立つほか、来場時も QR コードを利用し iPad を使って非接触での受付ができ、招待者の来場記録を把握することも可能になったという。

コンサート会場での招待者の受付確認は iPad で可能に

BOLERO の進化は続く…. 変革を起こし、多くの世代にクラシック音楽を。

今後の展開について、梶本副社長は次のように語ってくれた。

「 FileMaker で開発したシステム ”BOLERO” の改良によって今まで以上にアーティストのマネジメントに集中できています。効率化によって生まれた時間で、クラシック音楽のハードルを下げ、多くの世代に音楽の楽しさを届けていくことに注力していきたいと思います。

私たちが手がけているラ・フォル・ジュルネ TOKYO では、0 歳から参加できるコンサートでベビーカーOK。最短 45 分の短いプログラムを朝から晩まで気軽にハシゴできる音楽祭です。このイベントのように、大人から子供までカジュアルにクラシックを楽しんでいただく機会をこれからも増やしていきたいと思います。」

高さ 18m、幅 30m、長さ 36m、500 人収容可能な可動式コンサートホール「アーク・ノヴァ」

編集後記】

コロナ禍で大きな影響を受けた音楽業界。とくに海外招聘ツアーの難しいところは、日本がコロナ禍から抜け出しても、アーティストが居住する国やツアーを実施する国々でも影響を受けるところだ。そのような厳しい状況においても、アフターコロナを見据え、今自分達にできることを模索している姿に、組織としての柔軟性と音楽への愛を感じた。

KAJIMOTO では、所属/招聘アーティストによる特定の場所で実施するクローズド公演や、協賛公演のほか、子ども向けに音楽の魅力を伝える教育プログラムを実施。また、学生を含む 25 歳以下の若い世代や車いすなどを利用する高齢者や障がいをお持ちの方々が、クラシック音楽に触れられる機会を提供するプロジェクト等も実施しているという。クラシック音楽を通じた SDGs への取り組みとして、「3. すべての人に健康と福祉を」「4. 質の高い教育をみんなに」「10. 人や国の不平等をなくそう」に取り組んでいる。

東日本大震災からの復興を音楽を通して支援しようと、世界的に有名なスイスのルツェルン・フェスティバルの働きかけで可動式コンサートホール「アーク・ノヴァ」が誕生し、2013 年には宮城県の松島町、2014 年には宮城県仙台市、2015 年には福島県福島市、2017 年には東京ミッドタウンでコンサートが開かれている。この取組みは、国内外のメディアに広く取り上げられ、東北と世界をつなぐ音楽祭となった。

KAJIMOTO の取り組みに協賛される方は、是非こちらまでお問い合わせください