事例

利用者もスタッフもハッピーに!デイサービスを支えるシステムを内製化

利用する高齢者の意欲を高め、家族やスタッフにも「ハピネス」を

株式会社 CLOVER (クローバーグループ)は、「事業を通じて人々を幸せに~ Happiness (ハピネス)を提供する~」という経営理念を掲げ、高齢者向けのデイサービスを中心に、発達障害児向け放課後等デイサービス、地域創生事業、介護事業におけるコンサルティングサービスなどを手がけている。

クローバーグループが運営する通所介護事業デイサービスは、東京都心部を中心に 12 施設。施設スタッフが出勤の際、子どもを連れてくることを許可しており、施設利用者が子どもと積極的にコミュニケーションを図る機会を作っている。スタッフの勤務条件の改善を含め、施設を利用する高齢者のメンタルケアにも配慮したユニークな取り組みだ。

今回取材した デイサービスクローバー学芸大学では 1 階が高齢者向け、2 階が子ども向けと、厚生労働省が推進する共生型デイサービスとして運営されている。一般に介護施設の床は清掃しやすいようなクッションフロアが多いが、ここではフローリング床暖房を装備。照明も蛍光灯の白色ではなく暖かい色合いで、家庭的な落ち着いた雰囲気の空間となっている。

同グループのデイサービスは、利用者だけでなく家族やスタッフのハピネスも追求する点に大きな特徴がある。CLOVER 取締役ファウンダー 野口 潔 氏は、「私たちは、要介護度が進んだ方でもできるだけ在宅で長くご家族と一緒に暮らせるように、サービスを提供しています。単にお世話をするだけでなく、高齢の利用者の方で自立し、『自分でやりたい』という意欲を高めてもらえるような環境を作ることを目指しています」と語る。

サービスの一環で、希望する利用者には夕食を提供しており、調理スタッフが利用者と一緒に季節の献立を考えたり、一緒に料理をすることもあるという。夕食を摂った利用者は歯磨きを済ませて帰宅するので、家族の負担も減る。

日々の活動や献立は、利用者の希望やスタッフのアイデアで組み立てられ、現場への権限委譲が進んでいる。スタッフはマニュアルに沿った運営を貫くのでなく、利用者の様子を見て工夫しながら業務に当たっている。そのように柔軟に仕事が進められるので、働く側のやりがいも大きい。

「基本的な方向性は本部で決めますが、運営はかなりの部分を現場に任せています。経験豊かなスタッフは利用者さん一人ひとりの状態や性格などもよく把握しているので、現場に任せた方が良いサービスが提供できます」(野口氏)。

フローリング床暖房を装備した家庭的な環境で打ち合わせする野口 潔 氏(左)と デイサービスクローバー学芸大学の統括責任者 扇 貴之 氏(右)

理想のサービスを目指し、システム内製化を決断

同社は 2011 年 4 月にデイサービスクローバー千駄ヶ谷を開設し、介護事業を始めた。当時は、予約管理に表計算ソフトを使用し、各種記録は紙に手書きで行っていた。しかし、複雑な予約を管理するには表計算ソフトには限界があり、紙での記録や管理もかなり手間がかかっていた。

そこで専用のシステム導入の検討を始める。その頃、多くのソフトウェアベンダーが介護保険請求システムを販売していたが、サービス向上という目的を軸に設計されたアプリケーションはなく、野口氏の意向に沿えるシステムはなかったという。

「システムとは単に記録するためのものではなく、サービスをアシストするためのものであるべき」という考えを持つ野口氏は、理想のシステムを内製することを考え始めた。

当初から現場の利便性を考慮し、iPad で使えるモバイルアプリ導入を想定。iOS でのネイティブアプリ開発を勉強しはじめ、2012 年 椿山荘東京で開催された FileMaker カンファレンス (現在の Claris Engage Japan )にも参加する。そこで介護の現場で iPad で使えるカスタムアプリを展開するには FileMaker が最適だと直感し、FileMaker でのアプリ開発についての学習を開始した。

ローコード開発ができる FileMaker ならやりたいことが実現できそうと感じた野口氏は、表計算ソフトでのデータ活用に習熟していたこともあり、データを活用したサービスの実現に向けて動き出す。早朝午前4時に起床して出勤前にアプリ開発に没頭する生活を続けること6か月、理想のアプリを現場に導入した。

野口氏が作り上げたアプリ「 HappyCare 」。スタッフのシフト作成から売上管理まで、多くのアプリを内製開発

業務効率化だけでなく、利用者家族との信頼醸成も実現

手書き時代からの運営を知る、クローバーグループ エリアマネージャー 兼 デイサービスクローバー学芸大学の統括責任者 扇 貴之 氏は、「紙から iPad に移行したことで非常に見やすく、業務への負担も軽減されました。例えば、利用者の様子を家族に知らせるための連絡帳は、来所人数分を紙に書く必要があり非常に非効率でした。今は iPad 上のアプリで簡単に入力された情報が印刷できるので、とても楽になりました。また、従来は多くの書類をそれぞれファイリングしていたため、必要な書類をファイルから探してから記入をしていましたが、今では iPad ひとつで業務が完結するので効率的になっています」と効果を語る。

さらに野口氏は、家族との連絡帳に写真を添付することが、家族との信頼の絆に大きな違いを生み出すという。デイサービスでは一般的に家族が利用者の毎日の様子を見ることは少ない。そこで連絡帳に利用者の写真を添付して、家族に利用者の施設での活動を見てもらうことで、安心してサービスを利用してもらっている。「この積み重ねが信頼感を醸成します。大切なご家族の一員をお預かりする以上、どんな様子だったかを伝えることが重要です。ゲストやそのご家族に喜んでいただく究極のサービスを追求するためには、デジタル技術の活用は不可欠です」(野口氏)。加えて、連絡帳には血圧、体温、食事、水分摂取量、トイレ回数、活動報告などのデータも記載されているため、病院に通院する際、持って行く利用者もいるという。

紙から iPad へすべて移行することが良いわけではない

一見、iPad の導入でペーパーレス化に大きく舵を切ったかと思われるかもしれないが、そうではない。クローバーグループでは、デジタル化する部分と紙を維持している部分を明確に分けているという。

「連絡帳はデジタルデータで写真も含めてすべて紙は不要な状態ですが、ご家族との報告書は必ず紙に印刷してファイリングしてお渡しし、スタッフとの交換日記のような仕組みで双方がコメントを入れるため、毎回ご家庭に持ち帰っていただいています。

本来であれば、システムから家族のスマートフォンに “特変無し” という報告でよいのかもしれません。幼稚園であれば、保護者の方の世代はすべてスマートフォンを使われますので、写真付きの報告書を送付すれば受け入れられるでしょう。しかし私たちのサービスを受けられる方々は高齢であり、預けていただいている娘さんや息子さんも 50 〜 60 歳台になります。長い時間大切なご家族を預けて信頼していただくわけですから、こちらも利用者さんが楽しんで過ごされていることをしっかり伝えるべきだと思っています。そこで紙は必要だと思います。

デジタル化すると冷たく感じるものは手書きが良いですし、ご家族が見られるよう写真付きの報告書が好まれます。働くスタッフに対しても、介護現場に必要なトレーニングを厳しく行うよりも、楽しい写真を取ろうとするモチベーションを維持できるようなツールを提供することの方が、よほど重要です。そういう意味で、iPad と FileMaker アプリが果たす役割は大きいと思います」(野口氏)

家族との連絡帳の作成画面。印刷してファイリングし送迎時にご家族へお渡しする交換日記形式の仕組み。システムで入力できる箇所は行うが、吹き出しや利用者家族からのコメントなど、あえて手書きすることで温かみを残している

月次報告書でケアマネジャーとの情報共有も実現

経営コンサルタントとしての経験を持つ野口氏が特に時間をかけて開発をしたのが、ケアマネジャー向けの月次利用報告書の作成アプリだ。ケアマネジャーは施設に利用者を紹介する立場にあり、いわばクローバーにとっては営業先担当者とも言える。そのため、ケアマネジャーとの関係向上は施設の稼働率アップに欠かせない。

一般的にケアマネジャーへの報告書は、報告を受けたケアマネジャーが、利用状況や目標達成度、利用者の変化を確認したり、利用者家族を訪問する際の情報確認に使うため、的確に作成する必要がある。しかし経験が浅いスタッフだと、必要な事項をそこまで細かく把握できていないケースも多い。野口氏が作成したアプリを使えば、写真入りの見やすい報告書を誰でも簡単に作成でき、ケアマネジャーとの関係性の向上に役立つ。

「経験が長く知識のあるスタッフがしていることを、経験が浅くても誰でもできるようにテクノロジーを使って支援することで、サービスに携わる地域関係者の皆様に貢献していくことが経営の役割だと思っています」と野口氏。

月次利用報告書の作成画面。文字の色を変更できるほか、季節に合わせたイラストの挿入、利用者の様子を撮影した写真の追加もできるなど、豊富な機能が実装されている

求む! 介護現場の DX 人材

野口氏の目下の課題は、システムの機能強化のアイデアがたくさんあるにもかかわらず、それを作成する時間がないことだ。また、現在のシステムをブラッシュアップし、コンサルティングサービスを含めて外部に提供することも考えている。クローバーグループには現在、開発者が 1 人いるものの、さらにアプリ開発者を増やしていきたいと言う。

「 ローコード開発プラットフォームの FileMaker はプログラミング言語の実務経験がなくてもアプリ開発ができるので、入社時の開発経験は問いません。むしろ既存のやり方に疑問を持ち、工夫して改善したいと考える人を求めています。プログラミングなどの情報系の学校を出ていなくても DX 人材になれるのです。当社には多くの現場があり、試行錯誤できる環境があるので、やりがいがあるはずです。3 年から 5 年もすれば、一生もののスキルが得られるでしょう。ぜひ私たちと介護現場で DX を実現させましょう!」(野口氏)

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iPad を手にする 扇氏(左) と Mac で開発を続ける野口氏(右)

【編集後記】

アプリ画面の左上には、四葉のクローバーをモチーフにしたグループのロゴがあしらわれている。

カスタマーリレーションシップ(Customer Relationship)の C と R の間に愛(LOVE)がある CLOVER 。さらに、四つ葉についた水滴には、「小さなことにも気づくことができる思いやりのある人になろう」という願いを込めており、目配り、気配りができて、お客様との間に愛があるサービスを目指しているそうだ。

本取材で現場に入って感じたのは、そこは”施設”というよりも”家” だった、ということだ。テレビがあり、キッチンがあり、居間で談笑しながらリビングでくつろぐ利用者の方々を目にし、そこで介助をしているスタッフも家族の一員に見えた。まさに愛(LOVE)がある”家”だった。報告書の作成事務作業に追われたりすることなく、スタッフが働ける介護の現場を支えているのが FileMaker だとすれば、私たちもその家族の一員になれたようで嬉しい気持ちになった。