岡山に本社を構え、地質調査や地盤改良工事で日本の建築を足元から支える株式会社SANYU。同社は、長年利用してきた業務管理システムのサポート終了を機に、Claris FileMaker による基幹システムの刷新を決断した。驚くべきことに、その開発を担ったのは専門の IT 部門ではなく、総務担当の一社員だった。Claris 公式教材などによる独学と、Claris パートナーであるワンネス株式会社の伴走支援。この二人三脚によって、株式会社SANYU 総務担当 景山 伸一氏が開発者となり、会社の根幹をなすシステムの内製化が成し遂げられた。多くの企業が直面する旧システムからの乗り換え。市民開発者が実現した DX の軌跡を追う。
目次
- 年間 1 万 5,000 件の案件管理
- 旧システムのサポート終了。社内からは「システム不要論」も
- あえて「内製化」を提案した Claris パートナー
- 独学と実践でスキル習得。通常業務と開発を両立した 2 年間
- 効率化が、億単位の好影響をもたらした
- 内製化だからこそ実現できる、継続的なシステム改善
- 技術継承を見据え、Claris FileMaker と共に歩む未来
1. 年間 1 万 5,000 件の案件管理
株式会社SANYU は、建築・土木分野における地盤のプロフェッショナル集団だ。本社を置く岡山を拠点に、沖縄から関東まで全国 14 か所の営業所ネットワークを生かし、地質調査から解析、地盤改良工事、コンサルティングまで、地盤に関するあらゆるサービスを展開。「地盤をデザインするプロフェッショナル集団」として、創業から 40 年以上にわたり、地盤調査から改良工事に至る高い技術力で建築業界の信頼を集めてきた。2025 年 3 月には旧社名「三友土質エンジニアリング」から「SANYU」へと社名を変更し、さらなる事業拡大を目指している。
同社の業務の中心は、地質調査や地盤改良工事などの案件管理だ。その数は年間 1 万 5,000 件にも及ぶ。この膨大な案件情報を管理するため、同社では長らく独自の業務管理システムを利用してきた。しかし、このシステムが同社に大きな転機をもたらすことになる。
地盤補強工事の様子
2. 旧システムのサポート終了。社内からは「システム不要論」も
数年前、SANYU は長年利用してきた業務管理システムのベンダーサポートが終了するという事態に直面した。システムの継続利用が困難となり、全社的な業務フローの見直しを迫られたのだ。
この事態に対し、社内からは意外な声が上がった。「そもそもシステムは本当に必要なのか」「表計算ソフトで管理すればよいのではないか」というシステム不要論だ。しかし、現場の実情は異なっていた。総務担当の主任であり、今回のシステム開発を一手に担った景山 伸一氏は当時をこう振り返る。
「年間約 1 万 5,000 件もの案件を表計算ソフトで管理するのは現実的ではありません。請求書 1 枚発行するのも困難になりますし、何よりデータの整合性を保てない。現場の業務を守るためには、新たなシステムが不可欠でした」(景山氏)
しかし、ゼロからシステムを開発するには莫大なコストがかかる。限られた予算の中で、いかにして業務の根幹をなすシステムを再構築するか。この難題を解決する鍵となったのが、Claris FileMaker との出会いだった。
3. あえて「内製化」を提案した Claris パートナー
FileMaker 導入のきっかけは、SANYU のグループ会社での利用実績だった。「FileMaker という名前は、親会社で使っているという噂を耳にしたこともあり、昔から知っていました」と景山氏。しかし、具体的な導入プロセスは未知数だった。そこで景山氏は、地元岡山で Claris FileMaker を扱う複数の開発会社をリストアップし、比較検討を行った。その中から選ばれたのが、Claris パートナーであるワンネス株式会社(岡山市)だった。
当初、SANYU 側は一般的な受託開発を想定していたが、ワンネス株式会社 代表取締役 吉田 敏之氏からの提案は意外なものだった。「SANYU 様は過去のシステム運用の経験から、ベンダーに完全に依存する形ではなく、自社で柔軟に改修できる形を望んでいました。そこで、私たちが開発を請け負うのではなく、景山様が開発者となり、我々がそのプロセスを支援する『内製開発支援』という形をご提案したのです」(ワンネス 吉田氏)
この提案は、開発コストを抑えつつ、将来にわたって自社でシステムを維持・改善していくためのノウハウを蓄積したいという SANYU のニーズと完全に合致。景山氏を開発担当者とし、ワンネス社が伴走する形で、新たな基幹システム開発プロジェクトがスタートした。
株式会社SANYU 総務担当 景山 伸一氏
4. 独学と実践でスキル習得。通常業務と開発を両立した 2 年間
景山氏は社内 SE の経験こそあれど、Claris FileMaker に触れるのはこれが初めて。しかも、総務としての通常業務と並行して開発を進めなければならない。無謀とも思える挑戦だったが、独学での徹底的な学習によって課題を克服していった。
「自費で Claris FileMaker Pro を購入し、まずは『FileMaker Master Book(現:Claris FileMaker ガイドブック)』を手に基本的なレイアウトの作り方から学び始めました。その後は Web の記事やサンプルコードを参考にしながら、一つひとつ課題をクリアしていく。まさに実践を通じた独学でした」(景山氏)
開発スケジュールを立てても、日々の総務業務の対応に追われ、計画通りに進まない。夜間や業務の合間を縫って開発を進める日々が続いた。この困難な状況を支えたのが、ワンネス社の吉田氏による伴走支援だった。チャットやメールでいつでも質問できる環境が用意され、時には画面を共有しながら具体的なスクリプトの組み方を指導してもらうこともあった。景山氏は、こうした専門家の手厚いサポートがあったからこそ、一人での開発を乗り越えられたと語る。
約 2 年間にわたる試行錯誤の末、旧システムのサポートが完全に終了する半年前の 2023 年 10 月、ついに新システムは本番稼働を迎えた。
5. 効率化が、億単位の好影響をもたらした
景山氏が構築した新システム「JARO’S(ジャローズ)」は、SANYU の業務フローに最適化された基幹システムだ。「JARO’S」とは、親しみやすさと岡山弁の「〜じゃろう」を掛け合わせ、社長が命名した愛称である。全国 14 拠点、約 100 名の事務・営業担当者が日々利用し、特に請求の締め日には 30 名以上が同時にアクセスするという。
システムの中心となるのは、年間約 1 万 5,000 件に及ぶ案件情報を管理する「物件台帳」だ。ここから見積書、受発注、売上、仕入れといった関連情報がすべて紐づけられている。旧システムでは画面遷移が煩雑だったが、新システムではタブ形式を採用し、関連情報へスムーズにアクセスできるようになった。
物件管理画面。管理項目ごとにタブで分けて管理することで見やすく画面遷移しやすいレイアウトに
JARO’S 導入によって最も効率化されたのが、請求書発行業務だ。「以前は紙での郵送が基本でしたが、新システムではメールでの送付機能を標準搭載しました。FileMaker のスクリプト機能で請求書を PDF 化し、メールに自動添付して送信します。これにより、印刷や封入作業が不要になり、月 2 万円以上の郵送代も削減できました。何より、ボタン 1 つで送付できるようになったことで、担当者の負担は劇的に軽減されています」(景山氏)
さらに、見積もりの確度を管理する「追跡機能」も大きな成果を上げた。各見積もりがどの程度の確度で受注につながりそうか、その信頼度をデータとして蓄積・共有。この情報を基に営業戦略を立てることで、年間で約 3 億円もの売上増につながるなど、経営にも大きなインパクトを与えている。
6. 内製化だからこそ実現できる、継続的なシステム改善
SANYU のシステム開発は、稼働して終わりというものではない。内製化の最大のメリットは、現場のニーズに合わせて継続的にシステムを改善できることにある。その象徴が、稼働後に追加された「承認システム」だ。
「例えば、当初はなかった稟議システムを追加しました。Claris 公式サイトで無料で提供されている業種別サンプル App を参考に、弊社の業務フローに合わせてカスタマイズしたものです。以前は申請の進捗状況がわからず、総務に『あの件はどうなっていますか』という問い合わせが頻繁に来ていました。今では全社員がこのシステムで各種申請を行い、誰がどこまで承認したかが一目瞭然になったため、そうした問い合わせは一切なくなりました」(景山氏)
煩雑になりがちな承認フローも一目でわかるように
他にも、社員の安否確認を行うためのショートメール送信システムや、法改正に対応するための社用車アルコールチェック記録システムなど、現場から上がってくる大小さまざまな課題に対し、景山氏は次々と新たな機能を実装している。外部ベンダーに依頼すれば時間もコストもかかるような改修が、内製であれば即座に対応できる。このスピード感こそが、変化の激しいビジネス環境において大きな競争力となっているのだ。
7. 技術継承を見据え、Claris FileMaker と共に歩む未来
現在、システム開発をほぼ一人で担っている景山氏は、今後の課題として「技術の継承」を挙げる。自身に何かあったときにシステムが止まることがないよう、今後は開発スキルを持つ新たな人材を育成し、チームでシステムを維持・発展させていく体制構築の必要性を強く感じている。
FileMaker は、その学習のしやすさから技術継承にも適していると景山氏は考えている。「FileMaker は、特別なプログラミング知識がなくても、比較的に容易にシステムが組めることを私自身が体感しました。必要なのは、業務を改善したいという強い意志。それさえあれば、教材やパートナーの支援を活用することで、誰でも開発者になる道が開かれています」(景山氏)
旧システムのサポート終了という危機を、内製化という挑戦で乗り越えた SANYU。その成功は、地方の中小企業が DX を推進する上での一つの理想的なモデルケースと言えるだろう。
株式会社SANYU 総務担当 景山 伸一氏、ワンネス株式会社 代表取締役 吉田 敏之氏
【編集後記】
「システムは要らないのでは」という逆風のなか、通常業務と並行しながら独学で開発を進めた景山氏の情熱は素晴らしいものだ。そして、その挑戦を技術の面で支え、自走できるように導いたワンネスの「内製開発支援」というアプローチ。これは、単にシステムを納品するだけでは得られない、企業にとって最も価値ある財産=「自ら課題を解決する力」を育むことの重要性を示している。この事例は、DX の主役はあくまで現場にいる一人ひとりなのだと改めて教えてくれた。
【セッションをオンデマンドでご視聴いただけます】
本事例は、Claris カンファレンス 2025 の成功事例セッションとして発表されました。セッションの録画を Claris カンファレンス 2025 オンデマンド配信でご視聴いただけます。ご視聴には登録が必要です。ご登録はこちらから。