事例

EC 運営の分断を解消。通販サイト「アンジェ web shop」の複数モール管理をワンストップ化

目次

  1. 運営システム継続の危機から再構築の決断へ
  2. 変化に強いローコード開発へ、再び舵を切る
  3. 夜間バッチ処理で、翌朝には最新実績を踏まえた発注が可能に
  4. AI 活用を含め、これからも進化を続ける

1. 運営システム継続の危機から再構築の決断へ

セレクチュアー株式会社は、インテリア雑貨やファッション、キッズアイテム の通販サイト「アンジェ web shop」の通販サイト「アンジェ」を運営する。取り扱うのは日々の暮らしを彩る雑貨が中心で、使いやすく暮らしにこだわりを大切にする女性を中心に支持を集めている。商品はアンジェのスタッフが実際に使い、良さを実感したものを紹介する。SNS などを通じた提案にも力を入れ、モノを売るだけでなく「価値を売ること」を一貫して重視してきた。こうした姿勢が評価され、2001年から楽天市場のインテリア部門で 9年連続「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー」を受賞するなど、多くのユーザを惹きつけている。

アンジェ web shop は、楽天や Yahoo! など複数の EC モールに出店している。各モールとのデータのやり取りは重要で、データの管理や送受信システムの運営は業務の要となっている。

同社はそのためのシステムを、創業時から 2015年まで Claris FileMaker を使って内製していた。しかし自社での内製が難しくなり、開発会社に依頼してフルスクラッチで開発したアプリケーションへと移行した。以来 10年間運用してきたものの、2023年に開発会社から撤退の通知を受ける。保守も機能追加もできなくなることから、新たなシステムの検討を迫られた。

2. 変化に強いローコード開発へ、再び舵を切る

EC サイトの受注業務は、出店先 EC モールの仕様に合わせる必要がある。しかもその仕様は頻繁に変わるため、全出店先の最新情報を把握し対応し続けるには相応の手間がかかる。そこで、この部分は、変化への対応を吸収してくれるオーダーマネジメントシステムに任せることにした。受注から在庫引当、メール送信、入金管理まで、一連の業務をこのシステムが担う。

とはいえ、オーダーマネジメントシステムが扱う商品データは必要最低限にとどまる。こだわりの商品をきめ細かに管理するには、別途商品マスターが欠かせない。加えて、EC サイトのコンテンツ管理、発注、在庫管理など、オーダーマネジメントシステムではカバーしきれない業務も数多くある。

そこでセレクチュアーは、これらの業務を支えるシステム基盤の選定に着手した。代表取締役社長の小田 聞平氏は、その基本方針をこう語る。

「現代はシステムをウォーターフォール型で作るというより、ローコード・ノーコードで作る時代だと考えています。当社が最初から精緻な要件定義を作れると思えませんでしたし、アジャイルで機能を追加していく開発方法の方が、実態に合うと判断しました」(小田氏)

セレクチュアー 代表取締役社長 小田 聞平氏

この方針のもと複数の開発会社を検討した結果、選ばれたのが Claris FileMaker を用いたアジャイル開発を得意とする株式会社 Freeandopen だ。同社は EC サイトの運営会社出身のメンバーが多く、EC 業務への理解の深さが開発をスムーズに進める原動力となった。

Freeandopen でエンジニア/マネージャーを務める服部 真明氏は、次のように振り返る。

「スタッフの皆さんはもともとシステムを活用されていたので、意思疎通がとても円滑でした。なかでも小田社長はシステムにも業務にも精通されていて、要件を細かく整理してくださったおかげで、非常に進めやすいプロジェクトになりました」。

小田氏がシステム関連や業務の両方に精通していたのには理由がある。小田氏はセレクチュアーの社長であると同時に、親会社である京王百貨店の EC 担当部長でもある。京王百貨店の EC システム開発プロジェクトを率いた経験を持ち、セレクチュアーに出向し現場スタッフとして働いた経歴もある。この現場経験こそが今回のプロジェクトを成功に導く土台となった。

アンジェ第 1 事業部 事業部長 田口 雅子氏は、「このタイミングで小田さんが社長として戻ってきてくれたことに、本当に助けられました。そうでなければ、ここまで早く、スムーズには進まなかったと思います」と語る。

アンジェ第 1 事業部 事業部長 田口 雅子氏

10年間使った旧システムは、自社の業務に合わせて作られていたものの、同社は週に 3回のペースで新商品をリリースし、1か月でおよそ 50~100商品 を新規登録する。担当者の作業量は、決して小さくなかった。

新システムの構築にあたり、まず要となる商品マスターを整備した。品番や価格といった基本情報に加え、担当者や販売条件など社内で管理したい細かな情報、商品写真や説明文などサイト掲載用のコンテンツまで、全てを一元的に管理できるようにした。

商品マスター画面

さらにモールごとに価格や訴求コメントを変更する場合のデータも一元管理できるようにしたうえで、各モールへワンクリックでコンテンツをアップロードできる仕組みを構築。また直接アップロードできないモールは CSV ファイルの出力もできるようにした。

商品の各モール対応画面

モールごとにアップロード方法は API や FTP など異なる。Freeandopen 加藤 尚樹氏の提案により、アップロード時に、成功、エラーなどのステータスを可視化する機能も加えた。

「API は結果がすぐわかりますが、FTP は時間がかかることもあります。特にセール期間は作業が集中し、エラーも起こりやすくなります。確認結果を待つ負担を軽減できると考え、ご提案しました」(加藤氏)

Freeandopen エンジニア 加藤 尚樹氏(左)、同社 エンジニア/マネージャー 服部 真明氏(右)

3. 夜間バッチ処理で、翌朝には最新実績を踏まえた発注が可能に

販売データのダウンロード業務も刷新した。夜間バッチ処理により始業時にはデータ反映が完了しているため、反映待ち時間(約 30分~ 1時間)がなくなり、発注業務をスムーズに開始できるようになった。購入が最も増える夜間の受注データが、翌々日にようやく集計に反映されることもあった。

新システムでは、オーダーマネジメントシステムから受注情報を夜間バッチで自動取得する仕組みに切り替えた。取得した情報は在庫データとあらかじめ設定した計算式に基づいて処理され、翌日の発注候補リストとして自動生成される。担当者は朝一番でリストを確認し、必要に応じて調整したうえで発注する。

「日中の操作が重くならないことを重視し、負荷の重い作業を夜間に回す設計をご提案しました」(服部氏)

結果として、直近の需要に即応した発注が可能になった。田口氏は「午前中の時点で、前夜の実績まで踏まえた発注をかけられるようになり、スピードが大きく上がりました」と評価する。

発注作業そのものも効率化した。発注書の PDF 自動生成・メール送信機能は継続しつつ、送信先を選択できるようになり、送信先を選択できるようになったことで、部署別の担当者への送信がスムーズになり、運用性が向上した。

各部署からも、「既存の業務の仕組みを大きく変えることなく無駄な工程を省き、ミスの削減や作業時間の短縮につながった」という声が寄せられている。一部の作業は新システムに一元化され、すべての業務ではないものの、現場の作業工数を着実に減らすことができた。また、商品マスターを SKU 単位(最小の管理単位)で管理できるようになったことで、情報の管理・運用がしやすくなり、日々の作業時間の短縮にもつながっている。

在庫管理の面でも改善が進んだ。在庫管理、返品管理、サンプル品管理などは、これまで旧システム内での遷移が複雑だった。データを一元管理・連携できる FileMaker へ集約することで、作業効率と運用性が向上した。

今回の移行は短期間で進める必要があった。そのためゼロベースでシステムを組み立てるのではなく、既存システムの良さを踏襲しながら、細部をブラッシュアップし、不要な機能や工程を整理することを重視した。「本格的な効率向上は今後の機能追加によってさらに進んでいきます」と田口氏は期待を寄せている。

一方で、今回の開発を機に、業務や機能の棚卸しを行い、必要なものと不要なものを整理できたこと自体も大きな成果だった。Freeandopen に相談しながら取捨選択を進められたことで、限られた期間でも判断しやすく、開発を円滑に進めることができたという。

4. AI 活用を含め、これからも進化を続ける

FileMaker の進化について、Freeandopen の加藤氏はこう語る。

「FileMaker は年々進化しています。例えば今回実装した API 機能は、私が使いはじめた頃のバージョン FileMaker 18 にはありませんでした。2026年6月10日にリリースされた最新版の FileMaker 2026 では、非常に多くの機能が追加されており、驚きました」

小田氏も次のように評価する。「FileMaker は安定して動作し、機能も充実しています。しかもそれが年々増強されていく点を高く評価しています。今後にも期待しています」

FileMaker の今回のバージョンアップでは、AI 活用の本格強化、災害復旧と事業継続(DRBC)・可用性の向上、開発効率の向上など、幅広い機能強化が行われた。なかでも注目されるのが AI 活用だ。

「AI については、回答の精度、そしていかに実業務にシームレスにつなげるかが難しいと感じています。ただ、FileMaker の中で AI を活用できるようになれば、さまざまな業務の効率化につながるはずです」(小田氏)

例えば、現状では新製品開発の参考程度にとどまっているユーザのレビューも、AI による自動集計・分析を組み合わせることで、より積極的に製品開発に活かせるようになると期待されている。

セレクチュアーは、今回構築した FileMaker 上のシステムに、AI 活用を含めさらに機能を追加していく計画だ。Freeandopen とともにシステムを磨き続け、よりよいサービスの提供を目指す。

【編集後記】

今回の取材で見えてきたのは「現場と開発会社が同じ方向を向くこと」の重要性だった。セレクチュアーは EC サイト運営の豊富な知見を持ち、Freeandopen はその深い業務理解を生かしてシステム化を支援した。両者が密な対話を重ねながら進めたことで、現場で本当に使われる仕組みが生まれている。

変化の激しい EC 業界において、日々の運営で培われる知見を取り込みながら柔軟にシステムを成長させていくことは、事業運営に欠かせないものだ。その姿勢を貫いたことこそが、今回のプロジェクト成功の最大の要因だったと言えるだろう。