事例

学習開始からわずか 3 か月の学生たちがアプリケーションを作成

医療と IT、異なる領域のリテラシーを身に着ける人材を育成

東京医療保健大学は、医療分野において時代の求める豊かな人間性と教養を備えた人材の育成を目指している。その中で医療情報学科は、医学知識と情報処理技術の両方を学び、医療情報通信技術者を育成している。医療情報学科 で講師を務める 駒崎 俊剛 氏は同学科について、

「医療者と IT エンジニアの通訳になれるような人材を育成しています。片方にフォーカスをあてる卒業生もいますが、専門性の異なる医療者と IT エンジニアの中間のところで通訳として専門性を発揮する人が多いです。例えば高齢者施設を設立する際に、『診療報酬』についての知識があれば、追加費用の請求が認められる要件を満たした設備を用意するなど、経営の安定に寄与します」と語る。

医療情報学科 3 年生の必修科目「医療情報ゼミ Ⅰ ・ Ⅱ 」の駒崎先生のクラスには 9 名の学生が在籍し、これまでに学んだ IT知識 と医療の知識を活用したアプリケーションのプロトタイプ作成を目指す。

駒崎 俊剛 先生(東京医療保健大学 医療保健学部 医療情報学科 講師)とゼミの学生たち

1、2年生では、JavaScript や C#、SQL といった ITを学んでおり、3年のこのゼミでは GUI を学ぶため ローコード開発プラットフォーム Claris FileMaker を採用している。 今年度は 4 チームに分かれて、FileMaker を使ったアプリケーション作成の課題が出された。なお、作成するアプリのテーマは特に医療利用に限定されておらず自由だ。

夏休み前に駒崎先生による FileMaker についての簡単なレクチャーと、Claris が 六本木ヒルズで開催する参加無料の ハンズオンセミナー への参加登録や Web 教材など、学び方の紹介を受けた上で、夏休み中は各自で自習。10 月から開発をスタートさせ、2022 年 10 月 31 日に各チームが作成したアプリケーションの発表を行った。

術式検索、電子カルテ、日程管理……各チームが成果を発表

最初にプレゼンテーションを行ったのは、長瀬 裕海 さん、早川 拓樹 さん、松浦 直人 さんの 3 名。テーマは「課題スケジュールソリューション」である。高校生が学校や塾で利用することを想定しており、科目名を選択して提出期間と課題範囲を入力すると、リストに登録される。締め切りの 2 日前になると提出期限が赤く表示され注意を促すようになっている。「課題を管理することでスケジュールに余裕を持った提出を促し、自己管理能力の底上げも望めるのではないかと考え開発しました」(松浦さん)

2 組目は、渡邊 樹 さんと古川 佳歩 さん。テーマは「術式検索ソリューション」である。術式とは手術名のことで、レセプト(診療報酬明細書)を作成する際に必要な知識だ。機能はシンプルで、部位名や病名を入力すると関連する手術名一覧が表示され、選択すると詳細を確認できる。「病院実習での体験を基に考案しました。レセプトの書き方によって診療報酬が大きく変わることを学びましたが、その技術を習得するにはかなりの経験と知識が必要です。手術は点数が高いので、その術式がすぐにわかれば便利だと考え開発しました」(渡邊さん)

3 組目は、反中 咲希 さんと小宮 りさ さんで、テーマは「スマホで見る電子カルテ」である。患者本人や家族が電子カルテの一部を閲覧できるようにすることで、病後の健康管理に役立つと考え開発した。年齢や身長、体重、血圧などの基本的な健康情報に加え、病名や次回の予約などをスマホから閲覧可能となっている。「医師用カルテでは患者情報、医師情報、疾病情報が閲覧可能で入力もできます。一方、患者カルテでは患者情報の閲覧のみ可能です。双方の患者 ID をつなぐことで、両方で閲覧可能にしました」(反中さん)

4 組目は、小原 弥己 さんと田中 千里 さんによる「スケジュール管理ソリューション」である。家族や友人と予定を共有するためのアプリケーションで、既存の予定共有サービスでは共有相手と同一イベントを予定すると、重複表示されてしまうことに課題を感じ、その改善を目指した。「個人的なスケジュール管理だけでなく、患者さんと医療従事者との予定調整にも対応可能と考えています」(小原さん)

それぞれのチームが開発したアプリについて発表を行った

各チームの発表後には質疑応答が行われ、ゼミ生から質問、機能や使い方に関する改善提案などが活発に寄せられた。さらに駒崎先生が議論の整理や技術的なアドバイスを行い、充実した発表会は終了した。

開発をすぐに形にできる、それが ローコード開発ツール Claris FileMaker の利点

発表会後、駒崎先生と 9 人の学生に FileMaker についてインタビューを実施した。

駒崎先生が授業で FileMaker を教え始めたのは 2012 年から。今回のようなゼミで教え始めたのは 2017 年からである。その理由を駒崎先生は、次のように語る。

「病院で医師が医療情報システムから取り出したデータを学会発表に使ったり、経営陣に整理したレポートを提出するようなケースで ファイルメーカーを使っており、自分たちですぐにやりたいことができて良いと、医療機関に就職した卒業生から聞いていました」

駒崎先生自身も学生時代から FileMaker をよく利用しており、その良さを学生に体験して欲しいという思っていたところ、2016年に FileMaker キャンパスプログラムの存在を知り、早速 FileMaker キャンパスプログラムへ申請し、2017年から学内の端末に FileMaker をインストールし利用できる環境を整えた。FileMaker を学習に活用することについて、駒崎先生は次のように評価する。

「他のデータベースに比べて画像ファイルを扱いやすい点、作ったものをすぐに確認できる点、工数が少なく容易にアプリを作成できる点などが学びやすいポイントです。 iPhone や iPad 上 で利用できる FileMaker Go が使えるようになってからは、iPhone の GPS や カメラ機能をほぼコードを書かなくても簡単に自分の作ったアプリ上で使えるようになり、非常に便利です」

また、東京医療保健大学では他の開発言語・環境( JavaScript 、SQL言語 )も学習されており、FileMaker はこれらの IT 知識を応用できる柔軟なアプリケーションととらえて、授業で積極的に活用している。

学生の所持するPC端末に Claris FileMaker Pro がインストールしアプリを開発しており、学生が作成したアプリは FileMaker Go を通じて iPhone や iPad といったモバイル機器で確認できる。

授業では Claris FileMaker Pro を利用し、各自が開発を行う

実際に FileMaker を使って開発を行った感想を田中さんは、

「 ファイルメーカー での開発はすぐに形になるので、どんどん意見を取り入れて改善できます。2 年生の時に C# での開発を学びましたが、それに比べると格段に楽でした」と語る。また長瀬さんは、

「私はアプリケーションの全体を構想してから個々の画面を考えて作るタイプなのですが、ファイルメーカーはそのような作り方に適していて開発しやすかったです」と語る。

インタビューに答える学生たち

習熟度に関わらず達成感を得られ、高度なソリューションも作成可能

FileMaker の利点は、学生の FileMaker の習熟度に関わらず、実際に途中でも動作するアプリを作成できることだと駒崎先生は、次のように説明する。

「例えば、表計算ソフトで管理されているデータを一行ごとにカード形式で表示したいとします。まだスクリプトを学習していない学生でも、このデータを FileMaker Pro へインポートし、GUI でレイアウトを設計すれば達成できます。さらに、このアプリに検索専用の画面を加える、印刷専用画面を用意する、これらの画面の切り替えをボタンで行うといった機能を追加する場合も、日本語のスクリプトを選択するだけで良く、ほぼコードを書かずに実現できます。この段階からさらに条件スクリプトやカスタム関数、変数などを学べば、より高度なソリューションを作ることも可能です」

FileMaker なら他の開発言語・環境よりも早く動くソフトウェアに触れて達成感を味わえ、プログラミング学習でありがちな、『コードが書けないからソリューションが作れず挫折する』ことを回避できるのだ。

「 ファイルメーカー は、情報系の学科のようにデータベースそのものを学ぶ目的以外にも活用できます。学問分野を問わず、データの管理が必要になったとき、ファイルメーカー は類似の開発プラットフォーム群よりも学習時間や開発コストが相対的に少ない。その分、限られた授業時間内で、行いたいことや活用法の検討、実際のデータ活用により多くの時間を割くことができます」(駒崎先生)

アイデア次第で様々なソリューションを手軽に作成できる FileMaker の教育価値は、無限大だ。

前述の通り、東京医療保健大学 医療情報学科は、2017年 から継続的に Claris が教育機関向けにライセンスを無償提供する「FileMaker キャンパスプログラム」を利用しており、最新のバージョン FileMaker 19 のライセンス費用も無償となっている。FileMaker キャンパスプログラムでは、要望に応じて非常勤講師の派遣や講師補助の支援も行なっているため、必ずしも教員自身が FileMaker の指導ができるほどの経験がなくても導入が可能。ローコードによるアジャイル開発で、コミュニケーション能力向上の教育効果が期待でき、社会で即戦力となる人材を育成するためのツールとして Claris FileMaker は評価されている。

授業に活用してみたい教育機関は、FileMaker キャンパスプログラムの導入を検討しない手はないだろう。

FileMaker キャンパスプログラムの詳細はこちら

【編集後記】

Claris FileMaker は、ローコード開発の操作性の視点から世界中の医療機関で導入されており、スタンフォードをはじめとした世界でトップレベルのメディカルスクールや、日本国内でも大学病院の9割で利用されている。臨床研究の分野では、Claris FileMaker は世界中の医療者から高い評価を得ているといえる。

一方で日本国内の病院の電子カルテの多くは、レガシープラットフォームで稼働し続けており API に対応できないシステムも多く、個別カスタマイズには膨大な費用と時間が発生するなど、外部の電子カルテベンダー側の構造的問題でイノベーションが起きづらい環境に陥っている。日本の医療 IT を進化させるためには、臨床に携わる医師と 医療IT を支えるエンジニアが協力していく必要があり、このような医療と IT を知る人材を育成する東京医療保健大学 医療情報学科は、まさに時代が求める人材を輩出していく重要な役割を担っている。