事例

巣鴨商店街の靴店が iPad でデータ管理

靴を見立てる専門家であるシューフィッターの資格をスタッフ全員が持つ、アルプスシューズ。顧客管理のデジタル化を図ったきっかけや、その効果、またこのコロナ禍での新しい取り組みについて、社長の小林徹司さんにうかがいました。

デジタル化のきっかけは、幼馴染の声。

私が現在社長を務めるアルプスシューズは、 1971 年、巣鴨に「歩いて健康」「おしゃれ心」の 2 つのテーマを掲げて創業しました。
以来 50 年にわたり、シューフィッティングの専門家であるシューフィッターが、ソムリエのように最適な靴を見立てて提案、販売しています。創業者である会長が長野県の出身であり、毎日見ていた日本アルプスの山々や長野の地を忘れないように、というところから名付けられたのが社名の由来です。

※シューフィッター:お客さまの健康管理の一翼を担う自覚を持ち、足に関する基礎知識と靴合わせの技能を習得し、足の疾病予防の観点から正しく合った靴を提案するシューフィッティングの専門家

今でこそ社長業をしていますが、大学を卒業してからは、銀行で働いていました。その後 30 歳で退職し、家業のアルプスシューズに就職し、埼玉県の小手指町や練馬区光が丘の店舗を任されました。基本的に靴屋は固定客のリピーターが少ないため、当時まだなかった顧客カルテカードを作り始め、お客さまの氏名、住所などの個人情報から購入履歴、足の情報などを記載し、管理していました。しかし、日に日にカードは増えて検索しづらくなり、管理にかかる手間がどんどん負担になってきたんです。その数は、最終的に 7,000 枚にものぼりました。この時、顧客データをデジタル化する必要性を痛感しましたね。

そこで 1998 年頃、幼馴染である、現在は 一般社団法人全日本ピアノ指導者協会 の専務理事をしている福田成康さんに相談しました。以前から「 FileMaker でデータを管理すると便利だ」という話を聞いていたんです。ちょうどいいタイミングだ!と思い、すぐにパソコンを購入し FileMaker で顧客管理のシステムを作ってもらいました。ここからアルプスシューズのデータ管理がはじまりました。

2011 年に、巣鴨本店に異動した後は、本店でも顧客管理を始めました。しかし、本店の来店客数、頻度は支店とは比べ物にならず、データの入力や管理が追いつかなかったんです。また FileMaker 導入から年数も経ち、システムが業務の現状に沿わない状態になっていました。システムを改良し、より顧客データのデジタル化を進めるために、東京都中小企業振興公社が進めていたデータ活用サポートプログラムに応募。 FileMaker の専門家にシステム改修を依頼し、バージョンアップを図りました。
おかげで、お客さまごとの購入履歴はもちろんのこと、足の形の特徴や、歩き方の癖などの入力も可能になりました。システムも使いやすくなり、より詳細な情報も記載できるため、検索性も大幅に上がりました。結果、データ登録の件数も飛躍的に伸び、データのデジタル化がさらに進みました。

お客様の足の細かな情報まで記入できるように工夫。

DM を効果的に送れるようになったのも、デジタル化の成果の一つです。顧客管理データをもとに、来店の見込みのあるお客さまから優先的に郵送することができるようになり、コスト削減と同時に来店確度の高いお客様に絞った案内ができるようになりました。

このように、デジタル化やデータ活用を進め、新しい店舗のあり方を模索していた矢先に、コロナ禍が襲いかかります。毎日多くの観光客や地元の方々で賑わっていた巣鴨商店街は人の往来が激減し、大きく事業全体の見直し、経営方針の転換を強いられました。

コロナ禍をバネに、これまでなかった新しい取り組みへ。

店舗が巣鴨とげぬき地蔵の目の前にあるという地域柄、 60 歳以上のお客さまが大半を占めているため、コロナ禍が及ぼすダメージは大きなものでした。単に靴を販売する靴屋からの脱却と、これまでにない新しい価値を提供するための施策を考えなければ、経営の存続が危ぶまれる状況でした。これまでは、お客さまの足の特徴から、我々シューフィッターが適した靴をご提案するにとどまっていましたが、2020 年からは、理学療法士や整体師の方とも連携して、インソールを活用した外反母趾、腰や膝の痛みなどの改善や、予防のためのサポートを実施しています。
また、今後は新しい取り組みとして、店内に歩行スペースを設置してお客さまの歩き方を iPhone で撮影し、分析したデータをもとに、インソールと靴を提案しながら歩き方のカウンセリングを行ない、「足元からの健康」をサポートしたいと考えています。性別、年齢、健康状態、疾患などによって歩き方は人によって大きく違うため、新しい技術を活用して、足だけでなく身体全体の健康状態も考慮したサポートを実現したいと考えています。

さらに、ご来店いただけるお客さまの年齢層を拡大するために、スイスのアルプスで生まれたブランド「On」など 海外で人気のシューズブランドの品揃えも充実させました。またリカバリーシューズのパイオニアでファッションアイテムとしても注目の「ウーフォスサンダル」も扱い始めました。 さらに SNS を活用した情報発信もはじめ、これまで届かなかった年齢層の方にも、私たちの存在や取り組みを知っていただけるようになりました。反響もよく、新しい可能性を感じています。また、現在私小林はシューフィッターの資格で最上位ランクである「マスタークラス」を受講中です。現在は都内で 2 名、全国でも 11 名ほどしかいません。来年には認定される予定で、都内で 3 人目、同時に認定される予定の方とあわせて全国でも 30 余名の中に名を連ねることになります。靴選び、シューフィッティング、歩行分析と一生勉強ですが、プロとして、他の企業との差別化を図っていきたいですね。

SNSでの発信にも取り組み、フォロワーも増加中。

このように新しい取り組みを検討し、進めていますが、その背景には FileMaker で培ってきた、新しい技術やデジタル化に対しての実績と前向きな姿勢があります。システムの利用に比較的疎かった私でも、実際に触って慣れることでスムーズに覚えた技術やスキルをすぐに実践できるのが FileMaker のいいところだと思っています。まだまだ使いこなしているわけではありませんが、裏を返せばまだポテンシャルを秘めているということ。(笑)予算も多くはないですが、その分、知恵を絞って工夫し、店舗を盛り上げていきたいですね。

新しい取り組みについて嬉しそうに語る、小林社長。

シューフィッターとして、経営者として、試行錯誤を繰り返していく。

アルプスシューズの経営のみならず、靴業界全体のためにできることにも注力をしています。そのひとつが、シューフィッター養成講座の講師です。後進のシューフィッターのために、自分が学んできたことや経験で培ってきたことを伝えていける楽しみがありますね。私自身、勉強中の身ですので、講師を務めさせていただくことから、学ぶことも多くあるんです。シューフィッターの有資格者が増えれば、靴業界そのものの盛り上がりにもなりますし、その方々からの提案を通して、 1 人でも多くのお客さまに歩くことの楽しさや、自分にあった靴の選び方、履き方を知っていただきたいと考えています。

アルプスシューズは、新規のお客さまだけでなく、ご紹介で来店いただくお客さまも多いんです。理学療法士、整体師の方々とのご縁もあり、新しい取り組みにご協力いただいています。こんなご縁をさらに広げていくことが今後の目標のひとつでもあります。そのため、気軽に遊びにくる気持ちでぜひお店にきてほしいですね。そのきっかけから、また新しいつながりが生まれ、これまでにない提案も実現できると思っています。あれこれと試行錯誤しながら、普通の靴屋ができないことを自分たちの手で生み出していきたいですね。

編集後記】
お年寄りが多く集まることから 「おばあちゃんの原宿」とも呼ばれる巣鴨地蔵通り商店街。そして巣鴨のシンボル的存在になっている「高岩寺」(通称:「とげぬき地蔵」)の目の前に店舗を構えるアルプスシューズを改革しながら、パンデミックによる来店客の激減に直面しながらも、自分たちにできることは何かを常に考えている小林社長。単なる靴の販売にとどまらず、お客様のためになにができるかを考えて、差別化を図ろうという取り組み、進化の裏側には 新しい技術への前向きな姿勢がありました。
Withコロナの時代を生き抜く経営者としての手腕だけでなく、取材当日に訪問させて頂いた取材スタッフの足の特徴や悩みを靴の外からでも言い当て、それぞれに合った靴を即座に紹介してくれるシューフィッターの真髄にも脱帽でした。
■アルプスシューズ ホームページ http://www.alpsshoes.com/
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