事例

伝統産業でもDX〜日本の畳文化を海外へ

TATAMISERが運営する http://japanese-tatamimat.com

日本の伝統産業である畳の販売を手がける株式会社 TATAMISER。畳の使用機会の減少にともない、多くの畳販売会社が売上減少に苦しむ中、TATAMISER は米国・中東・東南アジアなどの海外顧客に畳を販売し、売上を伸ばしている。当然、外国人を雇用しているのかとおもいきや、雇っていないという。海外との顧客対応はローコード開発ツールで自ら開発し効率化。ローコード開発で DX を実現している代表取締役社長である淡路 光彦さんにお話をうかがった。

きっかけは勉強会の友人から。

私が代表を務める株式会社 TATAMISER では、日本の伝統的な敷物である畳を販売しています。年々畳の生産量が減ってきており、斜陽産業といわれることもありますが、当社では、順調に売上を伸ばしています。その理由は海外からの注文の増加です。 SNS やブログの発信効果もあり、約 3 年前から海外への販売量が増えてきており、北米や、シンガポール、ドバイといった国々から EC サイトに数多くの注文をいただいています。高級ホテルの内装として使用するニーズや、日本が大好きで自宅に和文化を取り入れたい個人の方からのオーダーが増え、海外からの需要が大きくなっています。

もともと EC サイトに興味を持ったのは、2005 年頃でした。この時期にインターネット販売が普及しだして、私もいち早く参入。所属している商工会議所主催のインターネット通販の勉強会に通いつつ、手探りの状態からスタートしました。当初の予想に反して、注文される商品は、サイズの決まった既製品の畳よりも「部屋のサイズに合った畳が欲しい」というサイズオーダーの商品が多かったです。そのため、部屋のサイズの確認や、最適な畳のサイズ、それにともなう変更など電卓を使用して見積作成していました。当初はそれでもなんとか成り立っていましたが、注文が増えてくるにつれて、どうにかして効率よく進められないかと問題意識が芽生えました。

そんな中、当時勉強会でご一緒していた、封筒の製造販売をされている方から、FileMaker の存在を教えていただきました。学びの機会をいただいたのは、封筒の製造・販売を営んでいる緑屋紙工株式会社の藪野社長です。藪野さんはオーダーメイドの封筒の注文や、見積もり、レイアウト制作を FileMaker で行なっていました。それをお聞きして、封筒と畳、業種は違いますが構造的には同じかもしれない、畳にも応用ができるのではないかと考え始めたんです。 2006 年から、FileMaker を購入し、書籍やインターネットを参考に勉強に着手。その中でも Claris 社が各地で提供するトレーニングやカンファレンス (現在は Claris Engage) では、基礎的な部分から、最新の技術まで幅広く勉強させていただきましたね。 注文を効率的に処理したいと構築しはじめたアプリ開発ですが、最初からこうしたいというアプリの完成形があったというより、「お客さまのご要望に応えるには」という視点で次々に FileMaker を学びながら新機能を追加していきました。

業務改善によって、海外対応もスムーズに。

小さくスタートした畳の見積書作成アプリは、少しずつ改良を加え、今では多くの業務を処理することができるようになって、様々な点で業務が効率化されています。電卓を使用して計算していた畳のサイズ計算も、敷き詰める部屋のサイズや、広さの面積を入力するだけで、自動的に図面計算ができるようになりました。これにより、レイアウトの制作や、時間のかかっていた見積書作成・請求書・納品書などの対応時間も 1/10 以下に短縮できました。

自動的に図面計算される畳の見積書作成アプリ

外国人スタッフを雇うよりも翻訳会社でテンプレート化

注文は、日本語だけでなく英語でも対応しますが、毎回、英語で手書きのメールを返信するわけではありません。日本語で対応するべき文章のテンプレートを翻訳会社に委託して翻訳してもらい、そのテンプレートをもとに FileMaker 上の処理で自動的に英語に置換する形式にしています。こうすることで英語が苦手でも、しっかりとした英文で外出先からでも辞書を使わずに即返信ができますからね。
さらに、お客さまから注文いただいた際、取引先の工房へ畳の注文内容に合わせて個別の業務依頼をする必要がありますが、それもボタンひとつで注文書を作成できるように開発しました。畳の工房は FAX での注文書を希望しているため、eFAX の機能を埋め込んでボタンひとつで FAX 送信ができるような機能も付け加えました。

英語フォーマットでは cm からインチへ計算されて Email テンプレートが仕上がる

アフターサービス営業支援システムも後日機能追加

おかげさまで毎日多くのお見積りをお客さまに送付するのですが、見積送付されたすべての方から畳のご注文をいただけるわけではありません。そのような方々に対して FileMaker でリマインドメールのフォーマットを作り、条件抽出して送付可能にしています。また、畳には、交換を推奨する時期があります。これまでのご注文履歴から、 1 年、2 年、3年、5年と経過しているお客さまに対して、それぞれ異なったフォローアップの連絡も差し上げるようにしています。これにより購入していただいたお客さまに対してもきめ細やかな対応ができるようになりました。

SNS やブログに力を入れて、海外からの注文が増えてきましたが、スムーズに対応できるのは、FileMaker で業務の効率化を進められたおかげだと思っています。そしてその FileMaker の魅力はやはり、「こういうことができたらいいのにな」という機能を自分の手で作り上げていくこと。さまざまな業種がある中で自分の業種にあったオリジナル機能を自分で実現できるというのは心強い。とはいえ、アプリの製作は、1 回でしっくりくるものができあがらないことのほうが多いんです。それでも FileMaker ならば、すぐに調整できるので改善へのハードルが低くなって、アプリ開発に取り組みやすいんです。

今は、 DX がどの業界でも推し進められていますが、振り返ってみると、私がこれまでやってきたことは DX と呼べるものだったとあらためて感じます。実際は、いかに効率よく働くことができるかということを突き詰めただけだったんですが(笑)。時間に余裕ができると、趣味のウィンドサーフィンをする余裕もできましたし、FileMaker なら ウィンドサーフィンに行った先でも注文を受ければ、テンプレートを使って海外へも返信できてしまいますからね。

株式会社 TATAMISER 代表取締役社長 淡路 光彦さん。手に持っているのは和室のない家庭の猫も畳でくつろげる "猫専用置き畳コット" 。

畳文化をさらに海外へ発信していきたい

海外に畳を販売するということは、リビングでも靴を脱がない文化の人達を相手にするということなんです。やはり畳は、靴を脱いで座ってもらうものですので、段差をつけて高い空間である小上がりのセットで販売したり、畳ベッドなどの商品開発などの工夫をおこなって日本の畳文化を紹介していきたいですね。日本の旅館に宿泊された際に畳の良さを知っていただいた外国人の方々も多くいらっしゃいますので、より外国の住宅環境でも使いやすい畳を提供できるように頑張っていきたいと思います。

編集後記】

FileMaker を独学で勉強しているとお話ししてくださった淡路さん。実際のシステムを見せていただくと、驚いたのはプロ顔負けの整った UI と業務を限りなく自動化しているその効率性。どうすれば、お客様に満足していただけるのか?どうしたら今よりも、もっと効率的に仕事ができるのか? 常に興味を持って新しいことにチャレンジする姿勢と、思いついた改善案をいますぐに実行するという行動力が デジタルトランスフォーメーションを実現し、新しい販路で売上拡大に繋がったのだとお話を聞いて実感した。業務の効率化で生まれた時間で、さらに FileMaker の機能が追加されるか、淡路さんのウィンドサーフィンが上達するか、それとも新しい製品サービスが生まれるのか? 淡路さんの次なる挑戦に期待が広がる。