事例

屋上緑化で環境保全に取り組む。業務の一元管理で売上高が 1.6 倍に

目次

  1. 既存システムからクラウドストレージ内の検索に課題
  2. 既存システムとクラウド、両方の利点を得る
  3. データベース統合により全社の情報共有を実現
  4. 生産性が 1.4 倍、一人当たりの売上高が 1.6 倍に

1. 既存システムからクラウドストレージ内の検索に課題

近年、深刻になっていく気候変動問題を受け、さまざまな分野で環境対応が求められている。その 1 つが緑化の推進だ。特に都市部はヒートアイランド現象などにより熱帯夜やゲリラ豪雨が増加しており、気温の上昇を抑えるため、平地だけでなくビルの屋上や壁面の緑化が推奨されている。東京都のように一定規模以上の施設については敷地内や建物の緑化を義務づける自治体もある。

屋上緑化システム株式会社は兵庫県神戸市に本社を置き、このように導入が進むビルの屋上緑化と壁面緑化に特化したビジネスを行っている。水を一切与えずに雨水のみで緑化が維持可能な無潅水システムや、壁面の形状や依頼者のイメージに合わせた壁面緑化システム、初年度の自主点検、引き渡し後 3 年間の枯れ保証など、高品質な商品・サービスにより多くのリピート注文を得て、屋上緑化累計 2,000 件以上、納入面積 46 万 ㎡ 以上の実績を誇る。

BtoB の業態の同社にとって、リピート顧客の確保につながる顧客管理は極めて重要だ。創業以来、その管理は手作業で行ってきたが、顧客が増えるにつれ困難に。その解決策として業務のシステム化が必要と考えた屋上緑化システム株式会社 代表取締役社長 北村 公一氏は、プログラミング言語を使える知人に依頼して独自の顧客管理システムと営業支援システムを開発、導入した。

その後 2018 年にはクラウドストレージサービスの「Box」を導入。情報共有が容易になった反面、Box に保存した文書を社内の管理ソフトから検索するというスキームが、システム的に時間がかかるという課題が新たに生じた。

2. 既存システムとクラウド、両方の利点を得る

この課題を解決するため、まずは市販のパッケージやクラウドサービスを調査。しかし、なかなか同社のビジネスモデルに適合するシステムが見つからなかった。

例えば、同社の事業は建築業の一種となり、商流の中での立ち位置が複雑だ。建築業界は施主、設計事務所、元請の施工会社(ゼネコン)、一次請けの施工会社(サブコン)、その下の各社というように階層が深い。同社はゼネコンから直接受注する場合もあれば、サブコンから受注する場合もあり、関係性も一律ではない。また設計事務所と金銭的なやりとりが発生することはほとんどないが、業者選定には影響力を持つため、各事務所の把握も重要となる。

一般的な顧客管理ソフトや営業支援ソフトでは、このような複雑な商流をすべて管理することは難しい。逆に建築系のシステムでは、同社の業務には不要な機能が多すぎた。

しばらくの間、最初の顧客管理と営業支援の 2 つのシステムを改良しながら使い続けていたが、やはり Boxも使いたい。北村氏は技術に明るい知人に相談したところ、その知人の会社が導入していた Claris FileMaker を勧められた。

そこで北村氏が自ら調べ、Claris 公式サイトの「FileMaker 開発見積依頼」を使って複数の認定パートナーに自社の希望や条件を提示して見積を募ったのが 2021 年のことだった。そして出会ったのが、Claris パートナーのトップオフィスシステム株式会社である。北村氏は、「見積依頼サイトで建築系の経験があるところを探し、予算など概要を連絡しました。このサイトで良い会社に出会えました」と語っている。

屋上緑化システム株式会社 代表取締役社長 北村 公一 氏

トップオフィスシステムは大阪市に本社を置く、FileMaker による業務改善や働き方改革に強みを持つシステム開発会社である。顧客とのコミュニケーションを密にし、顧客と一体となってプロジェクトを進める姿勢を大切にしている。

屋上緑化システムはトップオフィスシステムに要件を説明し、FileMaker なら課題を解決するシステムが作れると確信してリプレイスを決定した。開発にあたっては、既存システムを元に北村氏がコンセプトを伝え、実際の開発は屋上緑化システム 事務担当 遠藤 真由美氏と、トップオフィスシステム システム事業部 櫻庭 宏枝氏が協力して進めた。

遠藤氏は、「社員全員を代表する気持ちで、みんなが使いやすいようにと心がけました」と語る。またトップオフィスシステムの櫻庭氏は、「建築系は他のお客様も担当した経験がありますが、各社管理方法がまちまちです。そのためご要望を細かく伺いながら機能を実装していきました」と振り返る。

3. データベース統合により全社の情報共有を実現

屋上緑化システムはもともと、旧顧客管理システムと営業支援システムにはある程度満足していたものの、不便を感じる点もあった。

その 1 つがデータが連動していないことだ。営業支援システム側の「見込み客」は、受注すると「顧客」へと扱いが変わる。そして顧客管理システムに「顧客」のデータを移行しなければならないが、データ連動をしていないため、営業支援システム側と同じ顧客情報をもう一度顧客管理システムに入力する必要があった。また営業支援システムは各営業担当者が個別に管理をしていたため、他の担当者の案件内容を閲覧することが困難で情報共有が難しかった。

そこで FileMaker 導入時に両システムのデータベースを一元化。受注後は「成約」ボタンを押すことで、営業支援画面で入力済みのデータを顧客管理画面でも閲覧可能にした。これにより二重入力の手間がなくなり、情報の行き違いなどの人的ミスもなくなった。さらに顧客管理画面で入力した施工の記録や写真が営業支援画面からも閲覧可能になったことで、前回工事の内容を踏まえた営業や、類似案件を参考にした提案などができ、より効果的な営業活動も実現している。

営業支援システム(上)と顧客管理システム(下)の企業管理画面。入力の手間が省けるだけでなく案件の社内共有がスムーズに

特に工夫した機能として北村氏が挙げるのが、設計事務所と施工会社の各担当営業を連携させるものだ。同社はほとんどの場合施工会社から受注するが、その選定において、設計事務所の意向も一定の影響力を持つ。そのため、設計事務所へ「あと一押し」の営業を希望するケースや、それを受けた施工担当営業のフォローが必要なケースがある。そこで、各案件について営業支援画面でそれらの要望がわかるようにした。

また、今回新たに付加した機能に、トップオフィスシステムが提案した「見積書作成」がある。

従来、見積書は各担当者がそれぞれ表計算ソフトで作成していた。そのため全社管理が難しく、顧客からの問い合わせに他の担当が回答できないという課題があった。また、別途営業支援システムに入力する必要もあり、営業担当者の負担は大きかった。

「新規案件は入力するようお願いしても、なかなか入力してくれないという問題がありました。しかし、見積書は必ず作成するので、この機能を一体とすることで問題が解決し、情報の共有ができ、入力の重複もなくなりました」(遠藤氏)。北村氏も「情報の重要性は折に触れて伝えており、徐々に情報が入力されるようになってきました。それにつれて情報共有が進み、営業担当者も自律的に動くようになってきています」と語る。

また、昨今は資材の値上がりが激しく、古い原価データで見積りを作ってしまうと原価割れしかねない。会社としてリアルタイムの原価管理が求められていた。そこで新たに原価マスタを用意し、修正も容易にできるようにした。見積作成時に原価を表示し、営業担当者がそれを見ながら各案件の事情を勘案しつつ見積書を作るようにした。これにより精度の高い見積りが可能となり、営業担当者も別途表計算ソフトで原価を管理する必要がなくなった。

さらに、実行予算と実際原価の差分を星取表でランク付けできるようにしたことで、案件の評価が一目で誰にでもわかるようになった。「赤字案件がすぐわかるので、営業担当者も自ら振り返ることができ、施工情報などを確認しながら何が課題だったのか考えられるようになりました」(北村氏)。

当初からの課題であった社内管理システムから Box へのスムーズな連携は、Claris Connect を使って実現。営業管理システムの案件画面でその案件に紐(ひも)付く Box フォルダを、ワンクリックで作成できるようになった。基本的なフォルダは自動で作成し、後から追加も可能。スムーズな検索と閲覧が可能になった。Box に保存した施工写真などのデータは簡単に検索できるようになり、写真付きの提案書なども簡単に作成できるようになっている。

さらに遠藤氏は検索性の高さを評価する。「以前はお客様から問い合わせがあっても電話口で即答できず、営業に確認して折り返しで回答していました。今はその場でお話を聞きながらデータ検索して回答できるようになり、お客様からの信頼感も高まっていると感じています」

4. 生産性が 1.4 倍、一人当たりの売上高が 1.6 倍に

FileMaker で開発された新システム導入前の 2022 年と導入後の 2024 年で同社の営業実績を比較すると、生産性が 1.4 倍、一人当たりの売上高が 1.6 倍にも向上した。それだけ売上を伸ばしながら働き方改革も推進し、月 1 回の週休 3 日制も実現している。さらに新規事業も始動した。もちろん新規事業の管理にも FileMaker を活用しており、FileMaker で構築した顧客管理/営業管理システムをもとに作成されている。最小限の新規投資でスタートを切ることができた。

北村氏は、「(営業実績の向上は)システムだけの影響ではないと思いますが、確実に良い効果は出ています。新規の太陽光発電事業をスムーズにスタートできたのも、このシステムのおかげです」と語っている。

現在、各システムに登録されているデータ件数は、営業支援システムが 6,350 件、顧客管理システムが2,560 件(2025 年 6 月現在)にも上る。その増加は急激で、顧客管理システムは年間約 200 件ずつ増えている。

案件数の増加に伴い、管理システムにも常に機能が追加され成長を続けている。例えば前述の利益率の星取表もその 1 つである。さらに、入金管理機能を付加し、回収が終わるまでを確実に把握できるようになった。

新たな機能として北村氏が期待するのは、AI を活用した自動発注だ。図面から必要な資材をリストアップし発注を自動化できればと考えている。また、遠藤氏は個別案件の管理だけでなく、屋根全体を把握・管理できないかと考えている。

「CO2 削減といった目標に対し、屋根全体のうちの緑化面積がわかれば、余りのスペースには太陽光システムを提案するといったことが可能になるかもしれません。業務効率化システムが、会社がさらに成長するきっかけになっていると実感します」(遠藤氏)。

(左から)屋上緑化システム株式会社 遠藤 真由美 氏、北村氏、トップオフィスシステム株式会社 櫻庭 宏枝 氏

【編集後記】

屋上緑化システムの新システムにはそれぞれ名前が付いており、営業支援が「ピラミッド」、顧客管理が「ナイル」という。ピラミッドは建築業界の営業のピラミッド構造をイメージしており、ナイルはナイル川のように長く顧客とお付き合いしたいという考えの表れだ。その思想を体現した今回のシステムは、記事中に紹介した機能以外にも、かゆいところに手が届く検索性能などの秀逸な機能が満載だ。これからも顧客との関係構築に大きく役立つに違いない。