事例

「属人的・アナログ依存」から「効率的・データのフル活用」へ。ガス配送・点検にかかわる作業を進化

目次

  1. 属人化と紙依存。早急な現場改善が課題
  2. 導入の決め手はネットワークアクセス機能と iPhone との親和性
  3. 1 人で行っていた配送計画立案が複数名で可能に
  4. 作業は iPhone で完結、ドライバーからも好評価
  5. 収集・蓄積したデータで業務を効率化すると共に新たな活用も
  6. 内製化にもチャレンジし、さらなる活用を目指す

1. 属人化と紙依存。早急な現場改善が課題

ニイミ産業株式会社は、愛知県名古屋市の北東に隣接する春日井市に本社を構え、LP ガスの販売を中心に、ガソリンスタンドの運営やリフォーム、ファインセラミックス製造など多彩な事業を手がけている。1964 年には日本初となる「陶磁器焼成炉(ニイミ式ガス炉)」を開発。東海地方に多い窯業に LP ガスを供給する事業として大きく発展した。その後、家庭用の食器をはじめとした陶器製品が安価な中国製などに置き換わるにつれ、工業用ガスの供給に事業を転換していった。現在、家庭用 LP ガス販売も行っているが、LP ガスの売上の約半分は工業用が占める。

ニイミ産業株式会社 産業エネルギーソリューション部門 常務取締役 北野 秀樹氏は、「当社は工業用の比重が多いのが特徴です。一般家庭向けが多い他の LP ガス事業者とビジネスモデルが異なるため、業務の管理や分析に使うシステムを市販のパッケージではまかなえないという課題がありました」と語る。

特に困っていたのが工業用 LP ガス配送計画の立案と、現場での手書きによる記録作業、そしてその記録をシステムに入力する作業である。LP ガスの配送先は約 350 か所あり、配送先の事業所の休日や配送間隔もまちまちだ。ガスの種類によって配送できる車種は異なり、積載容量も複数ある。それらの条件に配送場所やガス残量など、多くの要素を勘案しながら、12 名のドライバーに適切な車を割り当てて配送先を指示しなければならない。その難しい業務ができるのは、社内でただ 1 人、ニイミ産業株式会社 業務部 次長 荻原 由起夫氏であった。北野氏は、「他にできる人がいないので彼は休むこともできず、夜間の対応もやってもらっていたので、大変だったと思います」と語る。

配送先ではドライバーが顧客名や配送先、充てん量、点検結果などを手書きで記録し、ドライバーの帰社後その紙をすべて回収し事務員が PC に入力していた。提出がない場合は催促をする。また、別拠点からは FAX で送ってもらう。記録を集めるのにこうしたかなりの手間がかかっていた。入力作業には毎日 2 時間程度かかっていた。

2. 導入の決め手はネットワークアクセス機能と iPhone との親和性

この課題を解決するため、業務管理や分析にデータベース管理ソフトを使っていたが、複数で同時にアクセスできないという難点があり他の手段を探すことにした。さまざまな選択肢を模索するなかで出会ったのが、Claris FileMaker である。

「ネットワークアクセスができることと、iPhone との親和性です。当社では社員全員に iPhone を配布しています。高価な専用端末を使わなくても現場業務ができると考え、より詳しく知りたいと Claris に連絡しました」(北野氏)。

そして Claris から紹介されたのが、株式会社ジュッポーワークスである。ジュッポーワークスは FileMaker 3.0 の頃から、FileMaker を中心に IT ソリューションを幅広く展開してきた経験豊富な開発会社だ。同社の印象を北野氏は、「打ち合わせをしていくなかで柔軟に対応してもらえたので、安心して任せられると感じました」と語っている。

株式会社ジュッポーワークス 取締役 永井 求氏はニイミ産業との開発について、「要望のヒアリングと提案のキャッチボールをしながら、機能を増やしていきました。当初の構想からはかなり形が変わっています」と語る。

開発にあたっては、配送計画業務を一手に担っていた荻原氏が、さまざまな資料を渡し微に入り細を穿(うが)って説明をした。荻原氏は、「説明用に用意した手書きメモを使って説明しました。LP ガスの業務をご存じないなかで、よく対応してただけたと感心しています。とても助けられました」と評価している。

開発を担当した株式会社ジュッポーワークス 開発 仲西 美幸氏は、「業務が専門的で難しかったのですが、多くの資料をいただき、私のつたない質問にも丁寧に答えてくださいました。業務内容を理解してほしいという熱意が感じられ、気持ちのよいやりとりができました。FileMaker は詳細な作り込みをする前の段階で画面を見ながら確認してもらえるので、やり取りをしながら精度を上げていけるところが今回の開発にマッチしていたと思います」と語っている。

3. 1 人で行っていた配送計画立案が複数名で可能に

今回開発した「バルク配送システム」は、配送計画の立案とドライバーによる現場での入力、データの確認や集計、活用という 3 つの要素で構成されている。

「配送計画」のトップ画面は、エリアごとに地図で示されており、色分けがされている。予測残量が少ない順に、赤、オレンジ、黄、緑で表示され、優先すべきエリアがすぐにわかる。

開発した「バルク配送システム」。配送計画のトップ画面は見やすく色分けされている

エリアをクリックすると、配送先一覧へ。事業所の休日や配送間隔、残量など複数の条件に該当する配送先だけが表示される。その配送先もエリア表示同様バックが赤、オレンジ、黄、緑で色分けされており、優先度がわかる。また前回の処理時に何らかの理由でエラーが出たところは現在庫量に「ERR」と表示されるので、確認のために足を運ぶ、という具合に予定を立てていく。(グレーは担当割り当て済みの配送先)

タンクローリーは配送途中でガスを充てんしながら配送を行うため、立案する際はタンクローリーの積載容量に収まるよう配送先を選び、 1 日の流れを組み立てていく。配送先が条件に合わせて選択され、1 回の充てんで配送可能な総量も自動的に計算されるため、比較的容易に計画が立案できるようになった。

荻原氏は、「これまでは自分 1 人で配送計画を作っていたのですが、他に 2 名ができるようになり、休日がとれるようになりました」と喜んでいる。

4. 作業は iPhone で完結、ドライバーからも好評価

ドライバーが朝 iPhone のアプリを起動すると、乗車車両とその日の配送先一覧が表示される。出発の際にはオドメーター(走行距離計)を iPhone で撮影。現在メーターの数字は手入力しているが、時刻は自動で入力される。「ドライバーの拘束時間の規制が厳しくなっているので、時間や走行距離を正しく把握するため、この機能をつけました」(北野氏)。

配送先に到着すると、客先にあるニイミ産業所有のタンクの QR コードを読み取る。すると配送先情報が自動的に入力される。その後充てん開始時の残量を入力し、充てんを開始。充てんには 20 分程度かかるため、その間設備点検を行う。設備点検ボタンをタップし、表示される点検項目ごとに合否を選択して入力。項目をタップすると点検方法や判定基準が表示されるため、業務に慣れていない新人にもわかりやすい。

QRコードの貼られたバルク貯槽

ドライバーが iPhone からログインすると、その日の配送先が表示される。充てん開始画面から、設備点検項目までの UI もシンプルで業務フローが明確だ

充てんが終了すると、充てん量を印刷したレシートが出力される。レシートを撮影し、その値を入力。モバイルプリンタで納品書を出力し顧客に手渡す。顧客には iPhone で受領サインをもらうという流れだ。

ドライバーの反応について荻原氏は、「ドライバーは 50 代が多く、70 代もいます。やり方を変えるのは、当初抵抗もありました。しかし、今まで毎回お客さんの社名など含めて全部伝票に手書きをしていたのが QRコードを撮影するだけでよくなったので、今ではこっちの方が楽と好評です」と語る。

モバイルプリンタと伝票

5. 収集・蓄積したデータで業務を効率化すると共に新たな活用も

iPhone アプリに入力されたデータはリアルタイムで転送。以前はドライバーから紙を集めて入力しなければわからなかった情報が、即時に把握できるようになった。毎日 2 時間かけていた集計も、オドメーターやレシートなどの証憑画像と入力数字に齟齬(そご)がないかを確認するだけでよくなり、3 分程度で済むようになった。

FileMaker に蓄積されたデータを分析することで、顧客のガスの使用状況を可視化できるようにもなった。客先のタンクからガスの残量データを 3 時間おきに自動転送しており、それをもとに 1 日あたりの使用量を計算。カレンダー形式で可視化できるようにした。

このデータは配送計画の立案に利用されているが、同時に顧客の使用傾向の変化などを把握するのにも役立っている。「カレンダーを見ると、忙しい季節や曜日ごとの傾向などを容易に気づけます。お客様自身が把握されていないことも多いので、これらの傾向を伝えて新しい提案ができるようになりました」(荻原氏)。さらに蓄積したデータを使って、よりコスト効率の高い配送ルートの探求にも取り組んでいる。

他にガソリンスタンドで利用する「オートガススタンド充てん記録管理システム」も開発した。ニイミ産業ではタクシー向けに LP ガスのスタンドを 2 か所運営しており、これまでこの伝票も手書きだった。特に大変だったのがタクシー会社ごとの集計作業である。9 割以上が契約会社の車であり、すべての伝票を会社ごとに分けて表計算ソフトに入力し、それを集計して毎月請求していた。「既にバルク配送システムができていたので、同じようにできないかとジュッポーワークスに相談し、開発してもらいました」(荻原氏)。

現在はタクシーに搭載した QR コードを読み取るだけで会社や車番を自動入力できるようになり、本社でのデータ入力や集計作業も不要となった。なお、この端末は iPad を利用している。

「オートガススタンド充てん記録管理システム」の画面。バルク配送システムの UI を上手く横展開し、見やすく使いやすいシステムとなっている

6. 内製化にもチャレンジし、さらなる活用を目指す

ニイミ産業は現在、年 1 回の設備点検用システムの内製化にチャレンジしている。自社および客先に設置してあるタンクなど多数の設備が対象となる。従来パッケージソフトを利用していたが、点検項目や内容が頻繁に変わることもあり、カスタマイズをしても使いにくかった。そこで点検内容や項目の変更にも即時に対応できるよう、FileMaker での内製化に挑戦することに。現在ジュッポーワークスの支援を受けながら、自社での開発を進めている。

開発を担当するニイミ産業株式会社 管理部 主任 丹羽 和代氏は、「FileMaker での開発は初めてでした。Claris の YouTube 公式サブチャンネル『FileMaker の自習室』で学習したり、セミナーを受けたりして学んでいます。ジュッポーワークスとは定期的に行うミーティングで疑問に答えてもらえるので、とても助かっています」と語る。

同社では、他にも客先に設置したタンクの管理やガス工事の管理などに FileMaker を活用していきたいと考えている。北野氏は、「パッケージソフトはパッケージソフトのやり方に合わせなければなりませんが、FileMaker は自分たちのやり方に合わせて管理やデータ活用ができます」と FileMaker の魅力を語り、これからもさまざまな業務に活用していく意欲を見せてくれた。

(左から)株式会社ジュッポーワークス 開発 仲西 美幸氏、取締役 永井 求氏、ニイミ産業株式会社 産業エネルギーソリューション部門 常務取締役 北野 秀樹氏、管理部 主任 丹羽 和代氏、業務部 次長 荻原 由起夫氏

【編集後記】

業務システムの開発には発注元と開発会社の協働が欠かせないが、お互いへの信頼関係をどう築いていくかはとても重要なプロセスだ。例えば、発注元の専門的で複雑な業務を開発会社の担当者が把握するのは時間がかかるし、その会社独自の考え方を理解してもらうには発注元の熱意や的確な説明なくしてはできない。一方システムで何ができるか、どうすればより効果的で効率的な使い方ができるかは開発会社の得意とするところであるが、発注元の目指すところを理解することで、はじめて最適解が提示できる。今回の事例は、それらのプロセスを重視し丁寧なコミュニケーションをとって強固な協働体制を敷くことで、両社の熱意と技術力が優れた形となって結実したケースだと感じた。

2025 年 11 月 5 日(水)〜 7 日(金)開催の「Claris カンファレンス 2025」に、ニイミ産業株式会社の北野氏が登壇し、本事例について詳しくご紹介くださいます。
11 月 5 日(水)17 : 40 〜 18 : 25
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