事例

命を守るヘルメットメーカーが挑んだ「社員を育てる」人事 DX - ゼロから築いた独自評価システム

目次

  1. オージーケーカブトが FileMaker で実現した、人材評価の新しい形
  2. 人事評価制度をゼロから設計する必要があった
  3. 評価制度とシステムを同時に構築
  4. 分厚い仕様書よりも “動くソフトウェア” を - 圧倒的なクオリティへの執念
  5. FileMaker の柔軟性が制度進化を支える ━ 人事制度に組み込まれた少子化対策
  6. ISO9001 を支える人材マネジメント
  7. FileMaker が支える人材マネジメント
  8. 人事 DX は AI 活用へ

株式会社オージーケーカブトは、人の命を守る製品の開発を使命として、品質と安全を最優先にしたものづくりを続けるヘルメットメーカーである。一方で、企業の成長を支える人材マネジメントの強化という課題に直面し、2020年から Claris FileMaker を活用した人事評価システムの構築に取り組んでいる。

同社は既存のパッケージソフトではなくローコード開発プラットフォームによって、コンピテンシー評価・ポテンシャル評価・目標管理を組み合わせた独自の人事マネジメントツールを作成。さらに ISO9001 の品質マネジメントにも対応した人材管理の基盤ツールとして活用している。

本記事では、同社の人事 DX の取り組みと、FileMaker がどのように人材マネジメントを支えているのかを紹介する。

1. オージーケーカブトが FileMaker で実現した、人材評価の新しい形

株式会社オージーケーカブトは、大阪府東大阪市に本社を置くヘルメットメーカーで、1982年の設立以来、40年以上にわたり「人の命を守るセーフティーギア」の開発・製造を続けている。オートバイ用ヘルメット、自転車競技用ヘルメット、通学用・幼児用ヘルメットなど幅広い製品を展開し、日本国内だけでなく世界の市場でも高品質な製品を提供している。

同社のものづくりの根底にある理念は 「Quality of Heart(品質と心質)」。安全性を最優先にしながら、ユーザの声に耳を傾け、機能性とデザイン性を両立した製品開発を行うという思想だ。ヘルメットは事故が起きて初めて役割を果たす安全装備である。同社ではその万が一に備え、衝撃吸収試験や耐貫通試験、保持試験など厳しい安全性能試験を繰り返し実施し、世界各国の安全基準を満たす製品づくりを行っている。

オージーケーカブトのヘルメットは、モータースポーツやトライアスロンなど、競技分野のトップレベルの現場でも高い評価を受けている。レースに挑戦する選手の声を製品開発へフィードバックし、現場で得られるデータと研究開発の成果を融合し、安全性と機能性をさらに高めたヘルメットの開発に生かしている。

同社のヘルメットはプロスポーツだけでなく、日常生活の安全にも貢献している。子どもから高齢者まであらゆる世代の自転車利用者の安全を守るヘルメットを展開し、学校・自治体・企業と連携して普及啓発活動にも取り組んでいる。幼児向け製品では、保育園での頭部計測や、座談会などでの保護者へのヒアリングを通じ、快適性や被りやすさ、被せたくなるデザインを追求。さらに、愛媛県からの要請に応じ高校生の通学用ヘルメットを一斉供給するなど、全国の高校での導入実績も多く、交通安全文化の普及にも重要な役割を果たしている。

しかし、同社が守ろうとしているのはユーザの命だけではない。企業の成長を支える社員一人ひとりの成長もまた、同社にとって重要なテーマである。その人材育成と評価の仕組みをゼロから構築し、支える仕組みとして導入されたのが、ローコード開発プラットフォーム Claris FileMaker である。

2. 人事評価制度をゼロから設計する必要があった

オージーケーカブトが FileMaker を導入した背景には、人事評価制度の整備という課題があった。1982年の設立以来、製造業として成長してきた一方、同社ではこれまで体系的な人事評価制度が存在しておらず、社員の評価や成長を可視化する仕組みが十分に整備されていなかった。社員数が増え、組織が拡大するにつれて、評価の透明性や公平性を高める仕組みが必要になったのである。この一大プロジェクトをシステム面で推進したのが、同社 総務部係長 武内 一師氏だった。

人事評価制度を導入するにあたり、同社は一般的な人事パッケージソフトも検討した。しかし、既存のパッケージでは同社の成長を支える社員一人ひとりの評価方針を十分に記録できないという経営者の思いがあった。

同社が目指したのは、単なる業績評価ではない。

  • 目標達成度(パフォーマンス)
  • 将来性(ポテンシャル)
  • 仕事への取り組み姿勢
  • 社員の幸福追求

といった複数の要素を組み合わせて社員を評価する仕組みである。

さらに評価は数値だけで完結するものではない。社員がどのような姿勢で仕事に取り組み、どのような成長を遂げているのかという定性的な評価も重要である。こうした評価制度を実現するためには、自社の制度に合わせて評価項目を柔軟にカスタマイズできるシステムが必要だった。そのニーズに合致したのが、Claris FileMaker だったのである。

3. 評価制度とシステムを同時に構築

FileMaker の導入にあたり、同社は単にシステムを導入するのではなく、人事評価制度そのものをゼロから設計した。評価制度の設計には外部コンサルタントも参加し、社員の行動指針や評価基準を議論しながら制度を構築した。

評価の仕組みは主に次の要素で構成されている。

  • コンピテンシー(行動評価)
  • ポテンシャル(将来性)
  • 目標達成度

これらの評価項目は、社員の等級ごとに設定されている。同じ等級に属する社員には共通の評価項目が設定され、評価の公平性が保たれる仕組みとなっている。評価プロセスでは、上司とのフィードバック面談を実施する。面談では、目標達成度や業務への取り組み姿勢などを総合的に評価し、社員の成長につなげる。

こうした評価制度を支える基盤として、FileMaker をプラットフォームとして人事評価アプリケーションが開発された。開発を担当することになったのは同じく大阪に本社を構え、2011年から Claris パートナーに認定されているトップオフィスシステム株式会社だった。

4. 分厚い仕様書よりも “動くソフトウェア” を - 圧倒的なクオリティへの執念

ローコード開発ツールを人事システムのプラットフォームとして採用するには大きな理由があった。例えば、一旦決まった仕様を人事の再評価に従って変更するなど、システムは毎月のように変化し、アジャイル開発によってベストな状態になるまで改善されていく。つまり、人を守るヘルメットと同じように、人事システムにも妥協しない精神、

”Fight for Excellence” = “圧倒的なクオリティへの執念” を求めたためだった。

現場で意識されたのは、分厚い仕様書よりも “動くソフトウェア” だった。経営層が納得できる人事システムになるまで試行錯誤を重ね、トップオフィスシステムの開発担当者がそれにとことん付き合った。現在トップオフィスシステムで同社を担当する システム事業部 徳川 喜則氏は、「仕様変更で悩むよりも、変化への対応をする方が早い。それができるのが FileMaker の特長です。高い拡張性・柔軟性を備えたローコードツールを採用することで、システムに企業の独自性や強みを生かすことができます」と言う。

5. FileMaker の柔軟性が制度進化を支える ━ 人事制度に組み込まれた少子化対策

FileMaker で構築された人事システムには、社員情報管理や評価データ管理、等級管理、各種マスタ設定などの機能が集約されている。社員の個人情報や評価データはこのシステムに登録され、人事管理の基盤として活用されている。

特徴的なのは、評価制度の導入と FileMaker の導入が同時に進められたことである。同社にとって人事評価制度自体が新しい取り組みであったため、社員の間では人事評価の仕組みそのものが「FileMaker」という名前で認識されるようになった。

同社のシステムには、一見、不思議なマスタが存在している。それは、「家族手当(配偶者・親)マスタ」や「子供手当マスタ」だ。

同社では、少子化対策として社長の強い方針により大幅な子育て支援が用意されている。子どもが生まれると、第一子は毎月 1万円、第二子は毎月 2万円、第三子は毎月 3万円、つまり子どもが 3人いれば、毎月 6万円が給与に上乗せされる仕組みになっている。配偶者や親の扶養にも手当が加算され、家族を安心して生活できる環境づくりができあがっている。

このような、パッケージソフトであれば備考欄で済ませるしかないような独自の項目も、FileMaker なら独立した機能として、会社の想いをシステムに実装することができる。

人事管理システムメインメニュー画面。さまざまな項目があり、細かく評価できる

6. ISO9001 を支える人材マネジメント

社員が個人で目標設定をする風土がなかった同社では、人事システムの導入によって社員のモチベーションを維持し、また何をすべきなのかを明確化することによって普段の業務にも目標を持って取り組めるようになった。しかし導入当初は、手間のかかる情報の入力に現場からの抗議もあったという。

そこで武内氏は、社員説明会で同社の ISO への取り組みを説明した。

「品質マネジメントの国際規格である ISO9001 の考え方を踏まえ、従業員が必要な教育を受け、適切な能力を持つ人が業務に携わっていることを証明する必要があります。また、『誰が責任者か』を明確にすることです。そしてなにより、人の命に関わる製品の品質目標を管理する必要もありました。安全な製品を送り届けるメーカーとして求められる品質保証を、人材マネジメントの面から支えるこだわりのプラットフォームが必要だったのです」(武内氏)

同社では現在、人事システムにデータを入力する際は「FileMaker に入力しておいてください」という言葉が日常的に使われるようになるほど、評価制度が組織に浸透している。これは単なる IT システム導入ではなく、組織文化の変革でもあった。

7. FileMaker が支える人材マネジメント

現在、FileMaker の人事システムは人事評価だけでなく、社員情報管理にも活用され、人材評価と人事管理の中核システムとして位置付けられている。

年度始めには、会社全体の目標や年度目標が作成され、その目標に沿って、各部門の目標が設定され、上司から各社員へ目標設定が落とし込まれていく。必然的に各個人の目標は会社が目指すベクトルに沿って構成されるため、会社のビジョンを強く意識した人材マネジメントがなされる仕掛けになっている。社員は自分の目標や評価を理解し、次の成長に向けた行動を考えることができる。これによって、評価制度は単なる人事管理の仕組みではなく、社員の成長を支援するツールとして機能している。

現状の把握や目標を明確にすることで、社員一人ひとりの成長を促す

評価は、上司との面談を通じて社員一人ひとりにフィードバックが行われる。また、同僚などによる多面評価と経営層による 2次評価によって、定量分析と定性分析が行われている。

8. 人事 DX は AI 活用へ

複数のマスタで正規化された同社の人事情報は、データベースに保存される。過去の経験の蓄積や評価の蓄積、過去の評価コメントなどは将来の人材育成の礎になっていく。一方でデータが長年蓄積され膨大になることにより、読み手となるマネージャーにとって、過去の情報の検索や閲覧の負担が大きくなると想定している。

武内氏は、「人事システムは、5年経過しても完成ではありません。まだまだ細かい修正を加える必要があります。現在、人事システム以外でも、社内の DX チームでいろいろな取り組み方について探っています。人事情報をインターネット環境に接続して AI に学習させることはできませんが将来的に AI を活用してさらに人事 DX を推進していきたいです」と言う。

これを受けてトップオフィスシステムの徳川氏は、「最新の FileMaker であれば、ローカル LLM(大規模言語モデル)つまり、オフライン実行型 AI が実行できますので、インターネットに接続せずに AI が利用できます。データが外に漏れないため、安心して FileMaker × AI で 新しい未来が構築できます」と将来の展望を語る。

トップオフィスシステムは [ IT × WORK = HAPPY ] の理念を掲げ、クライアント企業の働き方を改革してきた。そしてオージーケーカブトでは、AI を含めた新しい取り組みに挑戦し、[ FileMaker × AI = HUMAN ] としてさらに “人を守る企業”として成長しようとしている。この 2つの理念の相乗効果によって、同社はさらに豊かに「Quality of Heart(品質と心質)」を育てていくことになるだろう

トップオフィスシステム株式会社 システム事業部 徳川 喜則氏(左)、株式会社オージーケーカブト 総務部 係長 武内 一師氏

【編集後記】

ヘルメットは事故の瞬間に人の命を守るものであり、その安全性は絶対に妥協できない。同社はこれまで、製品の研究開発や品質管理に多くの技術と時間を投資してきた。しかし企業の競争力を支えているのは製品だけではない。製品を生み出す社員の力こそが、企業の成長を支える原動力である。だからこそ同社は、人材の成長を支える仕組みづくりにも取り組んできた。同社の人事評価システムは、単なる業務効率化のための IT 導入ではない。社員の努力や挑戦を正しく評価し、次の成長につなげるための仕組みである。ヘルメットが人の命を守るように、人事制度は社員の成長を守る。そして、その仕組みを支えているのが Claris FileMaker なのだ。これからもオージーケーカブトは、ものづくりと人づくりの両面から挑戦を続け、100年企業として日本の老舗ヘルメットメーカーとして生き続けることに間違いない。

オージーケーカブトの挑戦は、ものづくり企業における新しい人材マネジメントのかたちを示している。