事例

断念した開発プロジェクトが復活し、大幅な効率化と業務品質向上を実現

建築業を営む株式会社コウワは、以前は表計算ソフトであらゆる業務管理を行っていた。2013 年ごろ非効率性や入力ミスが課題となり、業務パッケージを導入。しかし、業務パッケージソフトウェアと実務との乖離に社員から不満が噴出し、新たにシステムをローコード開発プラットフォーム Claris FileMaker により構築することとなった。FileMakerの導入によりこれまで 4名の担当者が関わった入力や集計作業がボタン 1 つで完了するなど、大幅な効率化を実現した。

表計算ソフトでの業務管理を断念しシステム導入を決断

1975 年、建築資材販売業として大阪で創業した株式会社コウワは、自社でも防水工事・リフォーム工事・店舗内装工事などを手掛けるようになり事業を成長させた。現在は大阪と東京に拠点を持つ。社員数が 24 名(2021 年 4 月現在)ながら、建物のリニューアルや内装リフォームも行うほか、最近は防草・緑化事業も展開している。

建物のリニューアルや内装リフォームも行う

工事に関する業務では、受注管理をはじめ、原価管理、工程管理、資材発注など管理すべきことが多い。同社ではこれらすべてのデータ管理に表計算ソフトを活用していた。ただし、各部署では工事単位の管理を行っている一方で、経理部では顧客単位で管理がされていて工事単位の集計をしていなかったため、時に数字が合わないという事態が生じていた。さらに表計算ソフトでは、簡単に数字が書き換えられてしまい履歴も残せないため、間違いが発生し、その度に確認に忙殺された。このような課題を解決すべく 2013 年頃、監査役の会計士を中心にシステム構築の検討を始めた。その際、声を掛けられたのが、以前から会計士と面識があった山田氏である。IT エンジニアではなかったが、様々な業務経験を有し、システム活用について知見を持ち、実行力があったことなどが見込まれ招聘された。

山田氏(コウワ DX 推進室 室長)

2013 年 12 月 着任早々、山田氏はシステム開発を進めるため開発会社に見積もりを依頼。中小企業でも導入がしやすい Microsoft Access と Claris FileMaker を比較し、複数拠点で利用するニーズを満たすことができる Claris FileMaker を選択した。ところが、システム導入の中心人物であった会計士は、既に別のパッケージソフトの導入を考えており、現場に最適なカスタム App を構築する Claris FileMaker での導入についての理解が得られなかった。結局、会計士が推奨するパッケージソフトを導入し、全社で使い始めることとなった。

導入したパッケージに社員が反発し、Claris FileMaker による開発で再出発

会計士が推奨したパッケージは 2 ~ 3 年利用したものの、各部署から「使えない」と反発が起きる。

例えば、機能ごとに画面を切り替えなければならない操作が煩雑で、何度もクリックする必要があり手間がかかるなど、様々な不満が噴出した。さらに、工事の売上は請求実績と工事完成実績の 2 通りがあり、パッケージでは請求実績のみの管理基準となっている。しかし、同社は工事完成実績を基本にしているため、一旦パッケージに入力された数字を CSV でエクスポートし、人の手で表計算ソフトによる変換作業をしなければならなかった。工事担当者から経理に売上を報告するまで、実に 4 人がかりでその作業を行うことになり、転記入力を繰り返すため間違いも発生。パッケージを入れたために、かえって複雑さを増すことになってしまったのだ。事務担当者は匙を投げ、経営陣が「イメージが違う」と感じ始めたこともあり、徐々に風向きが変わりはじめた。山田氏は経営陣に対してカスタム App の重要性を説明したうえで Claris FileMaker で 顧客管理と工事管理システムのプロトタイプを試作し、プレゼンテーションを行った。その結果、Claris FileMaker によるアプリ開発が決定。プロトタイプの出来栄えを評価した経営陣からは、「(お前のプレゼンを聞く限りでは)FileMaker なら自社内でもできるのだろ?なら、お前がやれ」と言われてしまう。山田氏は、当初カスタム App の開発は、開発会社に依頼するつもりだったため、自分自身で開発をしなければならなくなり、そこから山田氏の新たな挑戦が始まった。

現場を知ることこそが重要な成功要素。15 分トレーニングで開発力アップ

過去に Claris FileMaker を使って人事評価システムを作成したことはあったものの、システムエンジニアやプログラマーとしての経験もない山田氏にとって、基幹系業務アプリケーションの構築は未知の領域。そこで、山田氏は、まず学べる場を探し求め、Claris 認定パートナーが開催するワークショップに参加したり、Claris の提供する有償トレーニングを受講した。Claris の年次カンファレンスの技術セッション等にも参加し、力を付けると同時に、相談できる人脈もつくり上げていった。

アプリ開発に当たっては、各部署の現場に出向き、業務手順を確認、現場での帳票作りなども率先して引き受けた。現場に入り込んで業務の流れをつかんだ上で、アプリ開発に着手した。実際に Claris FileMaker での開発を開始して不明点がでてくると、Claris 社が提供している有償のオンライン 15 分トレーニングを活用し、疑問点を解消。全部で 10 回以上利用したという。その際に山田氏が心掛けたのは、説明時間をできるだけ短くして、聞きたいことを聞く時間を増やすこと。予約の際に質問内容を事前に連絡しておき、説明もできる限り明確にするよう努めた。対応する Claris のエンジニアが「質問が明確にされてから予約されており、質問されるポイントも的確だった」と高く評価する。山田氏は、「FileMaker での開発はある意味では完全な正解が存在しないので、どうとでもできてしまいます。ただ、ちょっとした記述の仕方次第で、パフォーマンスなどアプリの品質が大きく変わります。そのあたりの構築ノウハウを教えてもらえて有意義でした。アプリを開発していく上で選択肢が増えました」と 15 分トレーニングを評価している。

コウワの業務は拠点ごとに複数の部署があり、それぞれ業務内容や進め方が異なる。そのため、アプリは部門ごとに段階的に作成することにした。最初に着手したのが東京の材料販売部門である。「この部門は古いパソコンに古いパッケージソフトを搭載して使っていました。万が一、それが壊れたら業務が滞ってしまうので、真っ先にこのシステムのリプレースから着手し 2019 年から稼働しています。実はその後、本当に旧システムが壊れてしまい、危機一髪のところで助かりました」(山田氏)。

現在は一部を除きほぼすべての部署で Claris FileMaker で開発した業務アプリが稼働しており、各アプリはそれぞれの業務プロセスに合わせて最適化され運用されている。例えば、工事管理システムでは、他部署では仕掛中の工事一覧を表示し、そこから工事台帳を表示する仕組みとなっているが、最初に着工予定リストを表示して欲しいという部署に対しては、異なるレイアウトが表示されるように作り込んだ。

最初に着手した東京の材料販売部門の画面。業務プロセスに合わせて最適化されている

現場に入り込んだアプリ開発をするうえで、山田氏が配慮したのは、以前利用していた表計算ソフトの工事台帳とレイアウトを変えないというこだわりである。全員が使う新しいアプリでレイアウトが大きく変わってしまうと使う人間の心理的な抵抗がストレスになるだけでなく、操作研修も必要となるからだ。現場に寄り添う形で完成させた業務アプリケーションは、部署によって温度差はあるものの、「操作のレクチャーを、遠隔で 20 分くらいしかやっていませんが、旧パッケージソフトに拒否反応を示した事務担当者もみるみる使えるようになっていきました」と山田氏は微笑む。

「ボタン 1 つで完了」 の裏に仕込まれた開発への情熱が生み出すチカラ

Claris FileMaker の導入により、アプリ本番稼働後も、現場での改善は続いているという。例えば、以前は工事担当者から経理部門に売上報告するまでに 4 人の関係者が担当するデータを書き換えていた作業が、各部門でアプリにデータ入力されていれば、ボタン 1 つで完了。転記ミスも間違いもなくなった。表計算ソフトの煩雑なデータ管理のため発生した未払いや入金漏れといったミスも撲滅に成功。さらに、以前は月次売上の確定に、月末で締めてから 20 日程度かかっていたが、現在は即時集計が出せるようになった。担当者別、部署別などの集計も簡単に出せるようになり、経営陣からも評価されているという。

経費精算申請の画面

操作ミスを減らし、社員の業務を楽にして会社のパフォーマンスを向上させる山田氏の改善への情熱は Claris FileMaker の学習意欲に直結し、さまざまな工夫を生み出している。例えば、Claris FileMaker はフィールドに入力する文字種を特定できる。表計算ソフトの時は数字や文字を入力する際に、大文字・小文字や、全角・半角を交えて入力してしまうケースがあり、検索が上手く機能しないことがあった。Claris FileMaker ではアプリ上で文字を制御しているので、データの整合性に関する問題もなくなった。

一方、ほとんどの部署がシステムを刷新できた中で、ビジネスプロセスが複雑な大阪の資材販売部門については本格稼働に至っていないという「現在のシステムのレイアウトはデザインがシンプルなので、これから開発する部門システムについては、さらに FileMaker を学び、使いやすいシステムにしたい」と意気込む山田氏。Claris FileMaker でのシステム開発で経験値を積んだからこその「次」が見えてくる。そんな山田氏にはもう 1 つ、直近で追加したい機能がある。

工事プロセスの中で、現場写真をモバイル端末で撮影するニーズがあるが、「現在、工事施工管理の担当者は撮影した写真を 表計算ソフトに張り付けるという面倒な作業をしているので、FileMaker と直接連携する機能が実装できれば工事施工管理の担当者はもっと積極的に新アプリを使うようになるはずです」(山田氏)

経験を通じてシステム設計や構築のアイデアがより洗練されていく山田氏の学びの進化と開発への情熱とともに、同社もデジタルトランスフォーメーションの実現へ向けて歩みを進めることだろう。

【編集後記】

2020 年、株式会社コウワの会計士が交代した。以前の会計士よりもシステムに詳しいこともあり、この交代によって同社では、Claris FileMaker によるアプリ開発が加速したという。さらに、新たな会計士の顧問先で表計算ソフトで業務管理を行っている会社が多くあり、そこにコウワのシステム導入事例を紹介し、2022 年 6 月に契約に至ったという。もしかすると、コウワに新たなビジネスが生まれるきっかけになるかもしれない。