事例

複雑な子育て支援新制度に対応する書類作成を自動化。富田幼稚園のさらなる挑戦とは

目次

  1. 園児の登降園時刻を PC で管理するも、手間や転記ミスが課題に
  2. 登降園時間の管理を自動化するも、書類作成に毎月約 1 週間を費やす
  3. 表計算ソフトの書式を元に FileMaker で自動化を実現
  4. 1 週間程度かかっていた書類作成業務が約 1 日に大幅短縮

1. 園児の登降園時刻を PC で管理するも、手間や転記ミスが課題に

近年、日本では少子化問題が大きく取り沙汰されている。国としてさまざまな対策が練られており、その一環として 2015 年に「子ども・子育て支援新制度(以下、新制度)」が、また 2019 年 10 月より「幼児教育・保育の無償化」が実施された。これまで文部科学省による私学助成金を活用(以下、旧制度)していた幼稚園に対し、新制度への移行を促している。しかし、新制度では費用が一律となってしまうこと、移行に伴う事務負担の増大などを懸念し、旧制度を利用し続ける幼稚園もいまだ多い。

福島県郡山市の学校法人 宮沢学園 富田幼稚園も、そんな幼稚園の 1 つである。1966 年から続く同園は、子どもたちが走り回れる緑あふれる園庭を持ち、子どもたちの丈夫な体と強い心を日々育んでいる。未就園児を対象としたプリスクールや、幼児音楽から音大受験までをカバーする音楽教室も併設しており、幼児から高校生まで幅広い年齢の約 360 名の子どもたちが利用。そのうち幼稚園には 252 名(2023 年 9 月現在)が在籍している。

富田幼稚園の基本的な 1 日のプログラムは、9 時までに登園し、11 時半までは自由遊びやクラス活動(教育課程による計画的な課題保育)で、昼食後に自由遊びを行い、13 時半に降園する。その後希望者には預かり保育も行っている。

この預かり保育について、新制度では「子育てのための施設等利用給付(以下、施設等利用給付)」を旧制度の幼稚園に対して適用している。自治体が認めた利用者に対し、一定の補助金を出すこととなった。補助金を受け取るには、そのための書類提出が必要となる。書類作成には誰がどれだけ預かり保育を利用しているかの正確な把握が必要となるため、同園ではまず紙の出席簿で登降園時間の把握を始めた。当時について、学校法人宮沢学園 富田幼稚園 事務長 宮澤 公大 氏は「紙の出席簿から PC に転記し、表計算ソフトで集計を行っていました。しかし転記に手間がかかり、転記ミスも完全には防げない。そこでシステム化の検討を始めました」と振り返る。

宮澤 公大 氏(学校法人宮沢学園 富田幼稚園 事務長)(左)、鈴木 睦 氏(プリマックス株式会社 システム開発課)(右)

2. 登降園時間の管理を自動化するも、書類作成に毎月約 1 週間を費やす

富田幼稚園は、以前から取引のあったプリマックス株式会社に相談した。まずは登降園時刻の自動登録をしたいという要望に、同社はいくつかのクラウドサービスを提案。そして 2020 年 12 月、富田幼稚園は保育園システム「 CoDMON (コドモン)」を導入した。CoDMON には iPad などの入退室管理端末に、個人のスマートフォンで表示した QR コードをかざすことで登降園時刻を登録する機能があり、子どもと一緒に登園した保護者がスマートフォンをかざすことでデータを自動収集することが可能になった。

保護者が実際に打刻をする様子。スマートフォンで表示した QR コードを端末にかざすことで打刻ができる

データ収集が自動化できたことである程度効率化したものの、課題は残った。収集したデータから書類を作成する手間が軽減できなかったのだ。施設等利用給付の事務手続きは、自治体ごとに異なる。そのため、CoDMON のような一律の機能で広く展開しているサービスでは、自治体ごとの違いをカバーすることが極めて難しい。

郡山市は当時の担当者が表計算ソフトに堪能だったため、表計算ソフトで作成した独自の書式を使用していた。毎月該当園児や保護者名など市役所で把握している情報が入り、時間数を入れれば必要な数値を計算する関数までが設定されたファイルが送られてくる。それに必要なデータを入力して返送すれば良く、デジタル化自体は比較的進んでいたと言える。それでも、入力データを集計する手間はかなりかかっていた。なお、園児には認定区分があり、区分によって補助金の可否が異なる。そして、区分の変更はいつでもあり得るため、毎月ファイルは更新されている。

この書式に入力するデータを効率的に算出するため、宮澤氏も同様の表計算ソフトを駆使していた。「担当の先生を決めて、私が作った書式で集計をしてもらっていましたが、まず表計算ソフトの操作を覚えてもらう必要がありました。そしてその先生が毎月 5 日ほどかけて集計し、そこから私が約 1 日で市役所に提出する書類を作成します。手間もかかるし、間違えられないというプレッシャーが 1 人に集中することも課題でした」(宮澤氏)。そこで、CoDMON を導入した翌月の 2021 年 1 月、一連の作業をシステム化できないか、という相談をプリマックスに持ちかけた。

システム運用の構想

3. 表計算ソフトの書式を元に FileMaker で自動化を実現

プリマックス株式会社は郡山市でソフトウェア販売やハードウェアの保守などを行ってきたが、近年は積極的にシステム開発にも取り組んでいる。自社のシステムに Claris FileMaker を活用し、Claris パートナーでもあったことから、同社システム開発課 鈴木 睦 氏は FileMaker を活用することを真っ先に考えたと語る。「既に宮澤様が作成された表計算ソフトの書式があったので、これを元に FileMaker でデータベース化すればご要望通りのソフトウェアができると考えました」(鈴木氏)

宮澤氏も音楽教室での録音や動画編集などで Mac を使用していたこともあり、FileMaker という名前は知っていた。「FileMaker については詳しくありませんでしたが、Mac は使い慣れていたので、(鈴木氏の提案を)前向きに検討しました」(宮澤氏)

2021 年春には文部科学省が IT 化助成金を始めたこともあり、その手続きと足並みをそろえ、FileMaker を使ったシステム開発を 2021 年 5 月にスタートさせた。開発は短期間でプロトタイプを作成し、確認してもらいながら修正していくアジャイル手法で進めた。開発中、最も苦労したことについて鈴木氏は、「2012 年に成立した子ども・子育て支援法制度から積み重なり、パターンも多く非常に複雑な制度を理解するのが大変でした。また、クラウドサービスからダウンロードするデータにはユニークな ID がなく、データベース化するのに苦労しました」と語っている。

2021 年 12 月に施設等利用給付事務を支援するソフトウェアが完成。Mac mini をサーバー機として、無事稼働を開始した。

稼働後は、教諭が日次で CoDMON から園児の登降園時刻をダウンロード。データを FileMaker に取り込めば、月初めの一括処理で、前月の各園児の利用日時が計算される。その後は、FileMaker でボタンをクリックすると、市役所から毎月初めに送られてくる表計算ソフトのファイルの書式に合わせた形で市役所提出用の表計算ソフトのファイルが自動で作成される仕組みだ。

園児の登降園時刻をダウンロードし、日別に利用料金を算出

4. 1 週間程度かかっていた書類作成業務が約 1 日に大幅短縮

システムが稼働したことにより、教諭陣の負荷を大幅に削減。従来 5 日程度かかっていた集計作業が、1 ~ 2 日で終了するようになった。宮澤氏は「手順が簡単で、ちょっとしたスキマ時間に作業できます。1 年目の先生でも操作可能で、1 人にプレッシャーが集中することもなくなり、先生たちも喜んでいます。子どもたちに笑顔で向き合う時間が増えたと感じています」と評価している。

宮澤氏が従来 1 日程度かけていた市役所への提出書類作成もボタンをクリックするだけとなり、大幅な効率化を実現した。また、転記ミスなど人的ミスも防げるようになった。

今後の機能拡張として、宮澤氏が検討しているのが紙のチェック表との突き合わせ機能である。同園の下駄箱は外にあり、保護者が打刻を行ったかどうかを紙でチェックしている。「下駄箱の上に置けて、下に落ちても壊れないモノとなると紙になってしまいます」と宮澤氏。現在これと打刻データを付き合わせて確認しているが、画像を読み込んで文字認識機能を利用することで自動チェックができると、教諭陣の負担軽減につながると期待を寄せる。

また、 IT を活用した決済手段の拡充を検討中だ。現在、学童と音楽教室では決済アプリなどを活用している。保育料についても、今後はそういった決済サービスの利用を検討している。「そうなると基幹システムとの橋渡しとなるシステムが必要となるので、その際はまたプリマックスさんにお願いしたいです」(宮澤氏)

保育料の請求書も同システムで作成可能

一方プリマックスは、今回開発したシステムを他の幼稚園にも展開中だ。園によって料金体系や提供サービスなどが異なるため一部修正が必要となるが、基本設計を変更することなくカスタマイズで対応できる。富田幼稚園では、打刻機能だけ先行して導入したためクラウドサービスを利用しているが、他園に対しては打刻機能も提供。さらにこの機能を活用した職員の勤怠管理なども提供している。

【編集後記】

今回紹介したような、行政の細かい改正を伴う制度にかかわるシステムは、制度への理解が肝となる。プリマックスは富田幼稚園の要望に応えるため、まずは複雑な制度の理解に努め、使い勝手の良いシステムを完成させた。そしてその成果をニッチなもので終わらせないように、富田幼稚園とプリマックスは 2 者で協力しながら、同じような課題に悩む自治体・幼稚園に対して働きかけを行っている。提出書類の作成方法は自治体側に決定権がある。そこで各自治体で書式がばらばらにならないように郡山市に対しては現状の維持をお願いし、近隣の自治体に対しては同様の仕組みの導入を提案している。現在、富田幼稚園では市外から登園する園児についてはデータを手入力しているが、このシステムが広まれば、同園だけではなく近隣の自治体や園にとっても効率化につながるだろう。プリマックスとしては商圏が広がる。顧客である富田幼稚園とサービス提供側のプリマックスの信頼関係、そして近隣自治体・幼稚園を巻き込んで Win - Win の関係を築くことが地域福祉の成功への鍵と感じた。

【本事例の紹介を動画でご覧いただけます】

本事例は、2023 年 11 月に開催された Claris の年次カンファレンス「Claris Engage Japan 2023」のセッションで発表されました。宮澤氏と鈴木氏登壇のセッション「 身近な日常業務のDX化(施設等利用給付事務支援ツールの開発・導入事例紹介) 」の録画をこちらからご視聴いただけます。

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