事例

日本一なんでもできる封筒屋のDX

封筒の企画から制作・販売までを手掛ける緑屋紙工株式会社は「おそらく日本一なんでもできる封筒屋」というキャッチコピーのとおり、封筒一筋 60 年以上の歴史を持ち、別注品・特注品の加工を得意とする封筒製造会社です。ISO9001 認証も取得している同社では、関わるすべての人を元気に、笑顔にする、というミッションのもと品質の向上、業務効率化を推進しています。EC サイトが世の中に普及し始めた当初から積極的にデジタル化を通じた業務効率化を進め、DX を実現しているという同社社長の薮野浩明さんにお話をうかがいました。

元エンジニアも認める、開発のしやすさと機能性。

私が代表を務める緑屋紙工株式会社は、 1957 年の創業以来、封筒をはじめとしたパッケージや紙製品の制作・販売を行なっています。ご依頼いただいた企業様に最適な仕様の封筒設計から提案、制作まで一括して受注しています。また、インターネット上で運営している EC サイト「封筒屋どっとこむ」では、全国各地の数多くのお客さまから注文をいただき、その数は年間 7,500 件以上にのぼります。封筒と一口に言っても、窓枠や、紙の種類、厚さもさまざまで、長年の経験やノウハウから、あらゆるニーズにお応えしています。

緑屋紙工株式会社 社長の薮野浩明さん。社内の FileMaker のシステム構築を一手に担っている

世間でインターネット販売が普及し始めた 2006 年頃、所属していた大阪商工会議所のメンバーとともにインターネット販売に関しての勉強会をスタートしました。そのころから交友を深めているのが、株式会社 TATAMISER の淡路社長です。ともにインターネット販売のノウハウを勉強してそれぞれ EC サイトを立ち上げ、今でも定期的に情報交換を行なっています。
当社ではもともと 1995 年頃から受注、生産管理に別のデータベースソフトを使っていました。しかし、個人でオンラインの受注をしている周囲の方々には FileMaker を使っている人が多かったんです。私は前職がエンジニアで COBOL や PL/I の開発経験もあるのですが、昔の FileMaker といえば カード型データベースで、使いづらそうという印象を持っていました。しかしいざ導入してみると FileMaker Pro 7 以降は、リレーショナルデータベースに発展していて、ここまで使いやすくなったのかと驚いた覚えがあります。

その後、 FileMaker に詳しい方に協力いただき、ネット通販の受注システムや管理システムを作り上げていきました。その方にシステムのベースを作っていただいて、 2015 年頃からは基本的に 1 人でカスタマイズしていきました。 Claris 社が提供している 公式トレーニングも、初級から上級コースまで受講しました。 1 人での開発に苦労した部分もありましたが、もともと前職がエンジニアだったことと、FileMaker の使いやすさもあり、開発のハードルは低く、継続して開発を続けることができました。

EC サイトスタート時から、売上は約 3 倍の増加。

最初のシステムは、 EC サイトの受注管理をするだけのシンプルなものでしたが、現在は見積作成から、受注管理、工程管理などあらゆる業務で FileMaker を活用しているため、もはや基幹業務システムとしてなくてはならない存在です。お客さまから封筒制作の依頼を受け、まずは封筒の設計をするのですが、その際グラフィックソフトと連携して図面を描いています。
見積もりは必要項目の数値を入力すれば、自動で算出されますのでわずか数秒で完了します。FileMaker 導入前は人が手作業で対応していましたので、 1 件あたり約 10 分ほどかかっていました。FileMaker は、稼働後でもさらに機能を追加することができますので、現在では、お客様に自動で 受注確認の Fax を送れる機能を追加しました。発送も 1 日 50 件程度ですが、運送会社のアプリと連携させて自動で出荷伝票を出力できるようにしています。

見やすいレイアウトで、使える機能がひと目でわかる UI

必須入力項目の漏れや、規定外の値が入っているとエラーを通知するなど、情報量の多い画面でも間違いなく使いやすい工夫がほどこされている。

さらに現場でも FileMaker を活用しています。封筒を制作する工場では、 iPad を使って制作工程を管理しています。 受注伝票をバーコードで読み取り、各工程が終了したら、進捗がシステムに反映されるようになっており、今どの案件がどこまで進行しているのかを現場のスタッフが把握できるよう可視化しています。今は、作業の優先順位を人が判断していますが、ゆくゆくは AI で判断させるようにまで改良していきたいです。

FileMaker で進化し続ける組織

社員の出退勤の履歴も、 FileMaker で開発したシステムで管理しており、専用の ID カードをかざすことで、スタッフの出退勤がシステムに自動的に入力されるようになっています。これによって、社員の稼働や出勤状況もより把握しやすくなりました。このようにさまざまな場面で FileMaker を活用することで、ネット販売を始めた 13 年前からすると、売上は 3 倍に伸びましたが、FileMakerを活用して全体的な業務効率化に取り組んでいるため、スタッフの笑顔も以前より増えたように思います。

FileMaker での アプリ開発は自分が実現したいことをカタチにできるので、ある意味試行錯誤さえも楽しんでいるのかもしれません。自分が作り上げたものが何かを効率化する、誰かの負担を減らすことにつながる、といったことがモチベーションになっているんです。だから社員の笑顔が見たくて休みの日も自分の時間を使って、FileMaker の画面に向きあうこともよくありますね。私は、現場のこともよく知っていますし、代表ですので経営の視点もあります。それらの観点から、自身が FileMaker を活用して迅速に開発ができるので、比較的現場に沿ったものを作ることが可能です。現場や、現場に近い人が開発できるのが FileMaker の強みであり魅力ですね。

あらゆる業務を FileMaker で管理。薮野社長が社員の声を聞きながら随時アップデートしている。

日々の取り組みは、積極的に発信していく。

新しいもの好きな性格も影響し、最新のテクノロジーは積極的に取り入れています。先日も 3D プリンターを導入して、自社で使用している機械のパーツを作りました。役に立ちそうなツールや技術はどんどん活用していきたいと考えています。さらにその導入の経緯や、取り組みはニュースレターとして、Web やフライヤーでお客様に発信しています。一見地味な業界と思われがちなのですが、実は新しい技術も取り入れ、取り組んでいるということを取引先やお客さまに知ってもらうことで、自社の宣伝にもつながっているんです。

取引先やお客さまに送付するニュースレター。反響もあるようです。

FileMaker を軸として、業務を効率化できるシステムをこれからも開発していきたいですね。ただ、既存のシステムに関しても私 1 人で独学で進めてきた部分が多いため、よりスマートに効率的に出来る部分があるはずと感じています。そのため改めて他の組織でベストプラクティスを学んだプロの FileMaker コンサルタントに見ていただき、改良してもらうことを検討しています。そうすることで、現場にもっと笑顔が増えて、働きやすい職場環境になると思います。

編集後記】
株式会社 TATAMISER の淡路社長をはじめ、勉強会で知り合った仲間たちと切磋琢磨しながらビジネスを拡大している薮野さん。どうすれば今よりも働きやすくなるか、という会社や社員に対する思いが溢れるインタビューでした。また「今後は中小企業のシステム化支援をライフワークとしてやっていきたい」と、自社の DX にとどまらず、社会貢献への展望も語ってくださったのがとても印象的でした。日々の取り組みはニュースレターとして発信されています。今後も緑屋紙工さんの取り組みを応援し見守り続けたいと思います。