事例

30 以上もの管理表が成す「情報の迷宮」から抜け出した内製化戦略に迫る

目次

  1. 茨城の住まいづくりを支える、地域密着のハウスビルダー
  2. 「情報の迷宮」からの脱却
  3. 元プログラマーの決断。あえて「ローコード開発」を選んだ理由
  4. 月間 340時間を削減。iPad で実現した働き方の変革
  5. 「会議のための会議」を削減。現場の声がシステムを育てる
  6. パッケージソフトの限界を突破する、これからのシステム戦略

茨城県を中心に、栃木県、千葉県へとエリアを拡大し、地域密着の住まいづくりを展開する株式会社ノーブルホーム。注文住宅の累計引渡棟数は 18,000棟を超え、北関東でも屈指のハウスビルダーとして成長を続けている。しかし事業拡大の裏側で、同社の現場は「情報の迷宮」といえる課題が顕在化していた。基幹システムをサポートするためのデータ整理や情報・業務の隙間を埋めるために、30 以上もの表計算ソフトのファイルを使用しており、ファイル間の数字の整合性の確認や入力業務の効率化に影響を与えていたのだ。

この状況を打開するために同社が選んだのは、Claris FileMaker によるシステムの内製開発だった。元プログラマーである担当者の決断と、現場に寄り添う開発スタイルが生み出したのは、月間のべ 340時間以上の工数削減と「会議の廃止」という劇的な成果だった。変革の軌跡を追う。

1. 茨城の住まいづくりを支える、地域密着のハウスビルダー

ノーブルホームは、土地探しから注文住宅の設計・施工、インテリアコーディネート、リフォーム、そして資産活用まで、住まいに関するあらゆるニーズにワンストップで応える総合ハウスビルダーだ。特に近年では、高齢化を受けた平屋住宅の需要増など変化するライフスタイルに柔軟に対応し、多くの顧客から支持を集めている。

同社では現在、全従業員約 500名のうち 200名以上が業務で Claris FileMaker を利用している。この大規模なシステム活用を主導しているのが、同社のバックオフィス部門を担う株式会社ノーブルホールディングス 経営戦略部 システム課 課長代理 山田 忠氏だ。山田氏は自ら FileMaker でアプリを開発・改修する内製開発チームのリーダーで、社内 DX のキーマンである。

株式会社ノーブルホールディングス 経営戦略部 システム課 課長代理 山田 忠氏

そして内製開発を技術面とインフラ面の両方で支えるのが、Claris パートナーである 株式会社イエスウィキャン システムコーディネーター部 村山 大貴氏だ。同社は AWS 上での Claris FileMaker Server の構築・運用や、内製では解決が難しい高度な技術サポートを提供し、ノーブルホームのシステム基盤を支えている。

外部へ開発を「丸投げ」するのではなく、自社の業務を熟知した自分たちが主体となってシステムを育て上げる。その自走を技術面で支えるイエスウィキャンとのパートナーシップこそが、ノーブルホームにおけるデジタル変革の力強い原動力となっている。

2. 「情報の迷宮」からの脱却

FileMaker 導入前、ノーブルホームの現場は従来のアナログでの情報管理から脱し、業務の効率化を目指し模索していた。同社には販売管理や原価管理を担う、パッケージ型の「基幹システム」が存在する。契約から発注、財務に至るまでの「幹」となる業務はそこで管理されていた。しかし住宅建築の現場は、もっと複雑で細かい。

「基幹システムはあくまで『幹』の管理が得意なツールです。しかし現場では、日々の細かな工事進捗、図面の承認フロー、地盤調査データの保管、あるいは顧客ごとの細かな打ち合わせ記録など、『枝葉』の部分の管理が無数に発生します。パッケージソフトでは、こうした現場独自の細かい要望に柔軟に対応することができませんでした」(山田氏)

その結果、基幹システムの補完として情報を整理するために、各部署の担当者が独自に表計算ソフトで管理するように。ファイルの数は 30 〜 40個にものぼっていたという。

山田氏は当時の様子を振り返る。

「共有フォルダにあるファイルを複数人で操作するため、ファイルが壊れて開けないといったこともありました。また誰かが誤って計算式を消してしまったり、古いファイルを上書き保存したために最新のデータが消え、以前の状態に戻ってしまったりといったミスもありました」

ファイルが増えていったことにより、社員は「情報の捜索」や「壊れたファイルの復旧」に多大な時間を奪われ、ファイル群はまるで「情報の迷宮」のようになっていた。煩雑なデータ管理そのものが業務効率化の足かせとなっていたのだ。この状況を打開するために山田氏が選んだのが、Claris FileMaker だった。

3. 元プログラマーの決断。あえて「ローコード開発」を選んだ理由

実は山田氏は、前職で SIer として活躍していた経歴を持つ。システム開発のプロフェッショナルであれば、自らプログラムを書いてゼロからシステムを開発するという選択肢もあったはずだ。しかし、山田氏はあえてローコード開発ツールである FileMaker を選んだ。その最大の理由は「属人化の防止」にある。

「私がコードを書いてシステムを作ってしまうと、私が不在のとき、誰もメンテナンスができなくなってしまいます。それでは『表計算ソフトの属人化』と同じ過ちを繰り返すことになります。FileMaker なら、専門的なプログラミング知識がなくても直感的に開発・改修が可能です。後任の担当者にも引き継ぎやすく、組織としてシステムを維持できると考えました」(山田氏)

ツール導入時に特に重視されたのが、現場で使用されている iPad との親和性だ。現場監督やアフターメンテナンスの担当者には、すでに会社から iPad が貸与されていた。Claris FileMaker Go を活用すれば、既存のデバイスをそのまま高機能な業務端末として使うことができる。新たなデバイス投資を最小限に抑えつつ、現場の機動力を最大化できる点がツール選定の決定打となった。

導入にあたっては、イエスウィキャンに相談を持ちかけた。山田氏が中心となって内製開発を進める一方で、システムの土台となる FileMaker Server の構築や、内製では解決が難しい技術的な課題へのサポートを村山氏が担当する体制を構築した。

「山田様は元プログラマーということもあり、要件定義や設計のスキルが非常に高いです。私たちは山田様が開発に集中できるよう、サーバ周りのインフラ整備や、パフォーマンスを出すための技術的なアドバイスなど、黒子としてサポートさせていただいています」(イエスウィキャン 村山氏)

4. 月間 340時間を削減。iPad で実現した働き方の変革

こうして構築されたのが、基幹システムのデータを補完し、現場業務を強力に支援する独自の「物件管理システム」だ。ほぼすべての部署で利用されているこのシステムのポータル画面には各部署の業務メニューが並び、それぞれに必要な機能へすぐにアクセスできる。

業務担当者ごとに区分けされたメニュー画面から細かい業務まで、シンプルかつ使いやすいページを作成した

導入効果は劇的だった。特に大きな変化が見られたのがアフターメンテナンス部門だ。以前は担当者が日中に顧客宅を回って点検を行い、夕方に帰社してから報告書を作成するという業務フローだった。この「帰社後の事務作業」に、一人あたり毎日約 1時間を費やしていたという。

「現在は iPad と FileMaker Go を活用し、点検結果の入力から写真の登録までを、すべて現場で完了できるようになりました。事務所に戻って報告書を作る必要がなくなり、直行直帰が可能になったのです」(山田氏)

同部門には約 17名の担当者が在籍している。一人 1日 1時間の作業時間が削減されたと仮定すると、月 20営業日計算で実に月間 340時間もの工数が削減されたことになる。

「現場の社員からは『早く帰れるようになった』『無駄な移動時間が減った』という声が上がっています。働き方改革という面でも、非常に大きな成果です」(山田氏)

事務所で行っていた入力作業も、現場で完結できるように

5. 「会議のための会議」を削減。現場の声がシステムを育てる

FileMaker の導入は、組織のコミュニケーションにも意外な変化をもたらした。その象徴とも言えるのが、「進捗確認会議の削減」だ。かつては各部署の部課長が集まり、案件・工事進捗の確認のみを行う会議が定期的に開かれていた。

「今は FileMaker を見れば、すべての案件の最新ステータスがリアルタイムで把握できます。『見ればわかることを、わざわざ集まって確認する必要はないよね』となり、進捗確認のためだけの会議はなくなりました。管理職にとっても現場にとっても、本来注力すべき業務に時間を使えるようになったのは大きなメリットです」(山田氏)

顧客管理画面。訪問可能日やお客様署名なども入れる事ができ、確認すべき項目が一目瞭然だ

もちろん、最初からすべてが順風満帆だったわけではない。導入当初は今まで慣れ親しんだ表計算ソフトからの移行に対し、「やり方を変えるのは大変」「変える必要があるのか」といった現場からの声もあったという。

そこで山田氏が心がけたのが、現場の声を聞きながら育てるアジャイルな開発スタイルだ。「最初から 100点満点のシステムを作ろうとせず、まずはプロトタイプを使ってもらいました。『ここが使いにくい』『もっとこうしたい』という現場の要望を聞き、その場ですぐに改修して反映させる。これを繰り返すことで、『自分たちの意見でシステムが良くなる』という実感を持ってもらい、徐々に信頼を獲得していきました」(山田氏)

今では現場の意識も大きく変わった。「自分の入力作業が、後工程の担当者を助け、チーム全体を楽にする」という全体最適の考え方が浸透し、今では現場から積極的な改善提案が寄せられるまでになっている。

6. パッケージソフトの限界を突破する、これからのシステム戦略

ノーブルホームの挑戦はまだ終わらない。今後は FileMaker を「データのハブ」としてさらに進化させる構想がある。具体的には電子契約サービスとの API 連携による契約業務の自動化や、蓄積されたデータを経営層が見やすい形で可視化する「経営ダッシュボード」の構築などを視野に入れている。

「パッケージソフトだけで業務のすべてをカバーしようとすると、どうしても無理が生じます。パッケージソフトで対応できない『業務の隙間』こそが、実は現場の負担になっていることが多いのです。FileMaker なら、その隙間を埋めるシステムをスモールスタートで構築できます」(山田氏)

この山田氏の飽くなき改善への構想を、パートナーであるイエスウィキャンが新しい技術の提案や手厚いサポートを通じて支え続けていく。30 以上のファイルが作成された「迷宮」から脱出し、強固なデジタル基盤を手に入れたノーブルホーム。現場を知り尽くした内製開発者と、その走りを裏方として支えるプロフェッショナルがタッグを組んだ二人三脚は、地域密着企業のさらなる成長を今後も力強く牽引していくに違いない。

【編集後記】

「表計算ソフトへの転記作業」や「進捗確認会議」。多くの企業で当たり前のように行われているこれらの業務が、実はどれほどの時間を奪っているか。ノーブルホームの事例は、その事実に改めて気づかせてくれる。元プログラマーである山田氏が、あえてコードを書くことを封印し、FileMaker というローコードツールを選んだ英断。そして管理都合ではなく、現場の利便性を貫いた定着へのこだわり。技術以上に「人」に向き合うことこそが、DX 成功の鍵であることを証明する好事例であった。