開発者インタビュー

DX 実現へ。介護現場の取り組み

全くの独学で、介護施設の業務支援システムを開発したアレグロペンギンの瀬木 綾子さん。開発を決意したきっかけや、導入までの経緯、そしてこれからの展望をお聞きしました。

介護施設の業務をデジタル化。

大学を卒業後、病院での経営企画や塾での教材作成業務を経て、両親が営むデイサービスの介護施設に入社した瀬木さん。事務スタッフとして働きながら、デイサービスでの情報の煩雑さや業務の非効率さを目の当たりにし、小さなデイサービスであっても、病院でいうところの電子カルテのような情報を一元管理できるデータベースが必要だと考えたそう。そこで、安価に自分の力でシステム開発が可能なプラットフォームがないか探すことから始め、出会ったのが、 ローコード開発が可能な FileMaker だったといいます。

FileMaker の学習は、Claris のホームページにあるテキストや、動画を教材として独学。試行錯誤の末、デイサービス業務支援システム「 kotobuki 」を完成させました。

紙から iPad へ。

瀬木さんが勤務する介護施設では、従来、紙ベースの運用で、コンピュータといえば、国民健康保険中央会の介護伝送ソフトを利用する程度。過去にいくつかの介護事業者用のパッケージアプリの導入に挑戦するも、事業所単位の事情が加味されていないため不必要なフィールドも多く、職員も操作に慣れずに、結局使いこなせなかったといいます。

「 Kotobuki は 2018 年から利用を開始しています。このアプリは、書類の作成や集計作業など通所介護現場の省力化に特化し、実績確認、売上集計、通所介護計画書などを主な機能としています。このほか、施設利用者の方の体調や、心拍数などバイタル管理、リマインドはもちろんのこと、書類作成や実績入力や計算を効率化し、膨大な紙で管理していた書類を、 iPad 一つで入力、管理を可能にしました。そして、利用者の要介護度に応じた、見積も簡単にできるようになりました。」(瀬木さん)

現在、「Kotobuki」 は介護施設 2 拠点と事務本部で利用。250 名ほどの利用者記録を管理し  1 日 40 数名の利用状況報告等に活用されています。職員の年齢層は  20 代〜 70 代と幅広いですが、iPad 4 台 と PC 7台 を使い、導入から 2 年経過した今、全員が問題なく使いこなせているそうです。

Kotobuki_Lite のメニュー画面


導入スタートは、一部のスタッフが推進

今でこそ順調に運用されているアプリですが、やはり平均年齢 50 歳を超える現場で、手書きの紙から脱却するのは一筋縄ではいきませんでした。導入当初は、アプリの存在を評価してくれた一部のスタッフのみが使い始めてくれたといいます。

「このアプリいいですね、と言ってくれたスタッフが徐々に Kotobuki を現場に浸透させてくれました。とてもありがたかったです。そして、利用する職員が増える過程で、どうせ使うならこうしてほしいという、要望もあがり始めました。

といっても、要望はダメ出しがほとんどでしたね。 特に、”パッと見えないと困る” という抽象的な表現が多く、ここをこう変えて欲しいという具体的な要望があるわけでないことも多かったので、当初は本当の要望を理解するのに時間を要することもありました。

例えば、”体重だけをパッと見られる画面が必要” という要望。よくよくヒアリングしてみれば、重要なのは 1 か月に 1 回体重を確実に測ることであり、体重履歴を管理する画面が必要なわけではありませんでした。要は、漏れのないように計測することが重要だったため、新しい画面の作成ではなく既存の画面に注意喚起の自動表示をひとつ追加するだけで済んだということもありました。」(瀬木さん)

施設利用者の各種情報が見やすい画面で表示される。この画面は PC 版で、 iPad からも利用者情報にアクセスできる。

他のプログラム言語で開発する場合、言葉で意思疎通を図り、仕様を固めたうえでコーディングに入るというプロセスが一般的ですが、肝心な「言葉での意思疎通」の部分が、実は一番難しいところ。FileMaker がローコード開発ツールであり、アジャイル開発ツールであるため、開発仕様という言葉での確認ではなく画面の動きで現場の要望を確認でき、双方の考えに齟齬がないことを視覚的に確認できたことが、開発する瀬木さんに対する職員の信頼につながりました。

現場と共に成長するシステム

利用者のご家族や、外部のケアマネージャーとの連絡もスムーズになり、事務作業に充てる時間も大幅に短縮できたという瀬木さん。

「記録や計算などコンピュータが得意とする部分は IT に任せて、節約した時間を利用者のサービスの向上につなげることができています。

今では 70 代の職員も 1 人で iPad を活用してくれて、kotobuki がないと業務にならないくらい全体に馴染んでいます。導入後も、 FileMaker であればアジャイル開発が可能なので、実際に活用しながらその都度カスタマイズして日々成長するシステムになっています。スタッフからの要望をシステムに反映することで、ともに作り上げるイメージを持ってもらえたように感じます。

さらに嬉しかったのは、職場の介護施設以外でも評価されたこと。開発したシステム  kotobuki を SNSやブログを通じて、エンジニアのコミュニティや、 IT 関係者に紹介したところ、予想以上に反響をいただいきました。そのコメントや評価が、私のスキルに対しての自信につながっていて、いいシステムを作ることができたんだなと実感しています。周囲から評価いただいたことは、私が 2020 年に独立し、「アレグロペンギン」を立ち上げたことにも大きく影響しています。今後は、開発した介護支援アプリを、他社の機械学習プロダクトとコラボさせて、データを活用することで、介護予防や病気の早期発見といったことに役立てる計画を進めています。

昨年 FileMaker カンファレンスに参加した時のご縁もあって、今年 11 月に開催されるオンラインイベント「Claris Engage Japan 2020」 に登壇することになりました。人前に出るのが得意ではないので、はじめは遠慮していましたが、オンラインというので少しハードルも下がったこともあり、せっかくいただいた機会なので、楽しみながら参加したいと思っています。」(瀬木さん)

瀬木さんが考える、高齢者データの活用法のロードマップ

【編集後記】

介護現場でスタッフの方々の理解を得て、デジタル化することに成功した瀬木さん。実は、大学で C 言語を学習したこともあるそうで、FileMaker の良さについてうかがうと、「 FileMakerの良さは、ローコード開発ができること。システム開発の上流工程を効率良くレベルアップできるツールだと思います。アプリの運用がゴールである場合には、コーディングは本質的なものではないですね。いち早く課題を解決することに時間とエネルギーを使うべき。」と 回答してくれました。IT の力を使って、もっと様々なビジネスに触れたいと語る瀬木さんの目が、とても輝いているのが印象的でした。

瀬木さんは Claris Engage Japan 2020 にセッション登壇されました。瀬木さんのセッション「デイサービスでシステムを内製し、みんなハッピーに」はこちらからご視聴いただけます。


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