事例

海を超えたシステム内製化支援。ニュージーランドで人気の日本食レストランの DX に迫る

ニュージーランドの人口最大の都市 オークランドで、日本料理店を運営する企業 Grace Earth Limited 。元々日本の和食レストランチェーンで働いていた代表の青木 哲 氏が同社を創業したのは 2006 年のこと。「独立するなら、本格的な日本料理を海外に伝えたい」と考えていた青木氏は、自然豊かな環境を気に入ったこと、そして親日感情が強く、日本食が受け入れられると確信したことを理由に、ニュージーランドでビジネスをスタートさせた。青木氏の読みは的中。1 店舗から始めた経営は、「Musashi Japanese Cuisine」レストラン 3 店舗と、よりカジュアルなセルフサービス店「Kojiro Japanese Kitchen」の計 4 店舗になり、従業員数は約 80 名を抱えるまでに成長した。

創業当初から Claris FileMaker の活用にも取り組み、企業活動に必要だと判断したカスタム App を積極的に作成してきた結果、稼働するカスタム App の数は 30 を数える。

同社では 飲食業を営む上で必要不可欠なカスタム App が使われている

ビジョンを実現させるために Claris FileMaker を導入

システム開発・運用を担当するのは、Administrative Manager (統括責任者)を務める脇 敬一朗 氏だ。

そもそも Claris FileMaker の導入は、青木氏がかつて日本で務めていたレストランチェーンが行っていたように、データを活用したデジタル経営が必要になると考えたことがきっかけだった。そのための基盤を早いうちに構築したいと考えていたところに知り合った脇氏が入社。そして、脇氏は、前職で利用していた、Claris FileMaker の導入を青木氏に提案する。

「FileMaker は、ユーザとして利用したことはあったものの、カスタム App の開発を行った経験はありませんでした。それでも、初心者向けの入門書と関数・スクリプト辞典、少し高度な内容の解説書だけで開発を行うことができました」(脇氏)

作成されたカスタム App は、Claris FileMaker Go で作成したモバイルアプリを介して iPad で利用でき、Claris FileMaker WebDirect によってブラウザからもアクセスできるようになっている。青木氏は、主に iPad で運用しているが、各店舗の責任者が担当する売上入力などは、Mac からもアクセスしている。

同社では主に iPad で情報を共有。複数のカスタム App を同時起動する場合は Mac も積極的に活用している

「最初に運用を開始したタイムカードシステムは、勤怠管理が確実に行えるようになっただけでなく、毎月の給与計算業務がとても楽になったと記憶しています。FileMaker を使うことで、いろいろな作業が削減でき、事業戦略を考えるなど、経営者としてのコア業務に集中する余裕ができました。そのような、システム化の価値を実感し、やりたいことを伝えてきた結果、自然とカスタム App が増えていった印象です」(青木氏)

最初に運用を開始したタイムカードシステムは、飲食店ならではの画面構成となっている

ニュージーランドならではの停電、障害にも負けないクラウド運用へ

このように Claris FileMaker を活用してきた同社だが、2021 年に突然のトラブルに見舞われる。ハードウェア機の不具合で、FileMaker Server と Open Directory による外部認証が利用できなくなったのである。そこで、サーバーのリプレイスを検討するが、ニュージーランドでは、日本に比べ、停電やネットワークの障害が多いこともあり、IT 基盤のクラウド化も視野に脇氏はリサーチを実施。

そんな折、コロナ禍の影響で、オンラインで開催されていた「Claris Engage Japan 2021」に参加する。

「それまで日本で開催されていたため、参加したくても参加できなかった」と語る脇氏が、このイベントで偶然目にしたのが、株式会社寿商会 若林 氏による『Google Cloud で Claris FileMaker Server を使うこれだけのメリット』というセッションだった(オンデマンド配信はこちら)。セッションで紹介された Google Cloud Platform(GCP)の高可用性と低レイテンシーという特徴に惹かれた脇氏は、イベント内で用意されていたオンライン商談に申し込み、寿商会のホスティングサービスを利用した IT インフラのクラウド化を実現することになったのである。

寿商会の若林氏は、当時のやり取りについて、次のように振り返る。

「 GCP は世界中にたてたサーバを一括管理できるので、海外に拠点をもつ企業には強みを活かせます。オンラインのイベントなので、首都圏だけではなく普段のイベントではなかなか出会えない日本の地方のお客様にもアピールしたいと考えていました。海外のお客様からお問い合わせを頂くとは思ってもなく、逆に今回のように地球上のどこのお客様であっても弊社がサポートできることに気付かされました。」

Claris Engage 2021 で 講演する 若林 孝 氏(寿商会 代表取締役社長)

なお、同社では GCPホスティングサービスと併せて、寿商会が提供する『カスタム OAuth グループ設定サービス』も導入しているが、このサービスにより、ユーザの ID 管理・運用負担を軽減することに成功しているのも、注目したいところ。先述の通り、数多くのカスタム App があり、アクセス権をグループごとに適用しなければならないとなると、そのインパクトが大きいことは改めて言うまでもない。

CX やサービスクオリティの向上、店舗運営の効率化に活用

今後は、Claris FileMaker を CX(カスタマー・エクスペリエンス)向上などにも役立てていく予定だという。店舗利用客が、その場でスマートフォンからアンケートに答えるとプレゼントが当たる仕組みなど、利用客が直接アクセスするシステムには、より一層の安定性が求められる。このような点でもオンプレ環境からの脱却が必要だったといえる。

さらに、日次営業データを可視化して、店舗責任者の仕入れ等の判断をサポートしたり、トレーニングプログラムをシステム化し、サービスや調理の品質向上を図ることなども検討しているというが、このようなことを実現する上でも “止まらない IT 基盤” の存在が大きな意味をもつ。

Claris FileMaker に対して、青木氏と脇氏それぞれに評価する点を聞いたところ、次のような答えが返ってきた。

「『こういうシステムや機能が欲しい』と脇にリクエストすると、FileMaker を使って短期間で、それを実現してくれる。おかげで、経営者としての業務ストレスの軽減や業務時間の削減を実現することができました。また、コロナ禍のロックダウン期間中に国からの補助金を受けるため、過去の売上など、申請に必要な情報の収集するのにも迅速に対応でき、とても助かりました」(青木氏)

Claris Connect などによる外部 API 連携の広がりを高く評価しています。具体的には、これから展開しようとしているお客様アンケートシステムでは、入力フォームによるデータ収集用に Typeform を、プレゼントが当たったことを SMS で通知するために Twilio を FileMaker とつなげています。また、コロナ禍で、料理の配達サービスに対応するようになりましたが、販路の拡大は、データの分散にもつながります。販路がどう増えようともデータを FileMaker に集約するためにも、柔軟な連携性能の存在は非常に重要だと考えています」(脇氏)

今後も、Claris FileMaker が、同社の DX を加速させる基盤として、さまざまなシーンで活用されていくのは間違いなさそうだ。

(左)脇 敬一朗 氏(Grace Earth Limited, Administrative Manager)、(右) 青木 哲 氏(Grace Earth Limited 代表)

Claris FileMaker を使わない手はないと思う。青木氏のように経営トップがデータ活用の重要性を理解している企業はやはり強い。このように書くと「ウチはそんなに費用をかける余裕はない」という声が聞こえてきそうだが、心配は無用だ。それは青木氏の次のような発言からも明らか。「当社は開発費をかけられるほどの規模ではないですけど、FileMaker であれば、事業規模の拡大に伴って利用できる。」

Grace Earth Limited 社がクラウド運用の強力なパートナーである寿商会と出会うきっかけとなった Claris Engage Japan。今年は 10 月 26 日〜28 日の 3 日間にわたり、 オンラインで開催される。参加無料で導入事例や技術情報など、多彩な 40 セッションを視聴できる。寿商会の若林氏のセッションにも注目したい。

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