開発者インタビュー

現役大学生が研究に活用。アプリ開発だけではないローコード開発ツールの魅力とは

データ分析の面白さに目覚め研究に邁進

摂南大学は、「世のため、人のため、地域のため、理論に裏付けられた実践的技術をもち、現場で活躍できる専門職業人を育成する。」を建学の精神に、「人間力・実践力・統合力」を身につけた知的専門職業人の育成を目指している。学内外でのインターシップやプロジェクト型の実践的学修を取り入れ、自ら意欲的に学ぶ環境を提供する。

IT 活用も盛んで、アクティブラーニングや事前に教材で知識を身に付けたうえで授業に臨む反転学習なども実践。オンラインミーティングソフトの活用も当たり前となっており、100 人以上のグループミーティングで行うアクティブラーニングも実施されている。

「地域貢献活動などの学外活動を奨励しており、一般的な大学より忙しい分、高い就職率を誇っています」

と経営学部で経営情報システムを専門とする久保 貞也 准教授は語る。そんな久保先生は学生時代から Claris FileMaker を研究のため利用しているという。実に Ver.1.1 の頃からである。当初は研究室の名刺管理に導入し、その後は国際学会の事務局運営などにも活用するようになる。久保先生は、ずっと Claris FileMaker を使い続ける理由を「ちょっとしたことに使うアプリなら、通常のプログラミング言語で開発するより相性が良い」と語る。

FileMaker は IT 苦手意識の解消や DX の意味を考えるうえで最適なツール

久保先生は Claris FileMaker の良さとして、ローコードで書きながら試すことができる点を挙げた。「まるで、デバッグしながらプログラムしているようです。コード入力のプログラミングで挫折した学生が、ちょっとしたアプリを FileMaker でつくることによって成功体験を積み重ね、 IT に対するコンプレックスを解くこともできます。FileMaker なら自分のやりたい分析にフォーカスして画面の設計をしていけばある程度のことができるので、DX の意味も実感でき理解しやすいと思います」(久保先生)

授業では企業のウェブサイトの比較分析を行うために Claris FileMaker の Web ビューアを使用。取りかかりやすいように、最初は紙を使って分析を行う

久保研究室では様々な調査やデータ活用に Claris FileMaker を利用している。その 1 つに店舗のデジタルサイネージ設置状況の調査がある。当初は紙で 1 店舗ずつ調査していたが、百貨店の全店舗のサイネージを調べるにはワンフロアで 1 時間、10 階を越える百貨店を調べようとすると 1 日では到底できない。調査に時間がかかると不審な目で見られることもあり、省力化のため Claris FileMaker Go と iPad mini および iPhone を活用した。入力が非常にスムーズになり、2 時間で 10 階の百貨店にある全ての店舗を回れるようになるなど、研究の省力化にも大いに役立っている。

Claris FileMaker Go で作成したデジタルサイネージ調査票の画面。サイネージの大きさや個数、表示されているコンテンツ、気づいたことなどを記録できる仕組みとなっている

iPad mini を使用している様子

Claris FileMaker で分析作業をアップデート

摂南大学の経営学部 経営情報学科 4 年 幾谷 茉桜 さんは、久保先生の研究室で様々なデータ分析に取り組んでいる。同大学は 1 年次に基礎ゼミがあり、2 年生になる前から希望のゼミを申請して配属される。幾谷さんは 1 年生から久保先生の基礎ゼミで学び、その指導を受けることで自分が伸びると直感。現在まで久保ゼミで学び続けている。

とりわけ 3 年生の前期に履修した「使えるデータサイエンス」でデータ分析の面白さに目覚め、熱心に授業での課題に取り組みはじめた。この授業は久保先生を含め 経営学部、経済学部、理工学部、教育イノベーションセンターなどから 8 人の先生が、それぞれ具体的なツールやオープンデータなどを活用し、実践的な分析方法を学ぶ内容だ。なかでも経済産業省と内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局が提供する地域経済分析システム「 RESAS (リーサス)」を活用した地域分析は特に興味深く感じ、「この授業でデータ分析が実際の課題解決の役に立つということを実感し、一気に学習にギアが入りました」と語る。

その頃、久保先生から研究プロジェクトの分析メンバーにならないかと誘われた。その経緯を久保先生は次のように語る。「幾谷さんは 3 年生の時に既に分析ソフトを使いこなしており、自治体のアンケート調査の統計分析をしていました。それを見ていたので、研究室で行っている高度な課題の分析メンバーとして入ってもらいました」

プロジェクトのメンバーとなった幾谷さんが取り組むことになったのが、デジタルサイネージの効果測定の分析である。表示順序や画像の有無で人の記憶に残る割合がどう違うかを分析する研究だ。元々別の学生がアナログ的な手法でデータを取得し一度分析して学会発表していたが、違う角度で精密にデータ分析をし直すこととなり、その分析を幾谷さんが担当した。しかし分析を始めた直後に問題が発生した。データが幾谷さんの分析方法に適したフォーマットで取得されておらず、分析の前にまずデータを整備する作業を行わなければならなかったのだ。そこで久保先生に相談したところ、Claris FileMaker を紹介された。

「魔法みたいに簡単にデータ構造が変えることができて、びっくりしました。表計算ソフトだけでデータを整えようとすると手作業になるためミスが起きやすいのですが、FileMaker を使えばミスなく変換できる点も優れています」と幾谷さんは語る。

そしてデジタルサイネージの効果分析の研究の一つを完成させ、今では久保研究室の Claris FileMaker 担当としてなくてはならない存在となっている。

幾谷 茉桜 さん(摂南大学 経営学部 経営情報学科 4年)

大学院でも Claris FileMaker を活用した研究を続けたい

現在幾谷さんが取り組んでいるのが、一般に公開されている自治体の住民アンケート調査報告書の分析だ。人口やアンケート調査のやり方など様々な要因が回答率に与える影響について研究を行っており、集めたデータをまとめるフィールドノートの作成に Claris FileMaker を利用している。「今後この研究をさらに進め、実際にアンケートの企画や分析、実際に政策に与える影響調査などを行いたいと考えています。そのために大学院に進学することを決めました」(幾谷さん)

同研究室には自治体からの分析依頼も来る。久保先生は、「自治体もデータを生かしたいと考えているようなのですが、人事異動などでなかなかノウハウがたまらない。そこで、データ収集や分析方法を一般化して、どの自治体でもデータが活用できればと考えています」と語る。

分析した自治体の一覧画面

研究分野で Claris FileMaker を利用する意義を久保先生は、「 FileMaker はデータ構造が見えるので、データ連携もしやすい。2 つのデータを突合して検証するといったことも、比較的容易にできるので、このような研究の事前準備の手間を省き、本来やるべき研究そのものに注力できる点が大きいです。調査の前に設計が足りなかったといった気づきを得るきっかけにもなります。他のやり方やツールでも可能ですが、ハードルが高すぎます」と語る。

幾谷さんは、今後の研究にも Claris FileMaker を活用していきたいと語る。最後に、「 FileMaker =アプリケーション開発と思っている人が多いと思いますが、私のようにフィールドノートやデータの洗浄に使うこともできます。いろんな使い方ができることを、他の人にも知ってもらいたい(笑)」と語り、インタビューを終えた。

幾谷さんは自身の FileMaker の活用手法について、Claris Engage Japan 2022 で発表した。アプリケーション開発とは異なる FileMaker の活用方は、他の開発者からも注目を集めている。

幾谷さんのセッション「統計分析ソフトを使った研究のための Claris FileMaker Pro」はこちらからオンデマンドで視聴可能だ。

幾谷 茉桜 さん(摂南大学 経営学部 経営情報学科 4年)、久保 貞也 先生(摂南大学 経営学部 准教授 博士(工学) )

[編集後記]

幾谷さんがデータ分析の面白さに目覚めたきっかけが、地域経済分析システム「 RESAS 」を活用した地域の分析だ。そこから地域分析が、実際に地域に住む人達の役に立つのではないかと考え始めた。そして調査を進めるうち、現状の住民アンケート調査の回答者は高齢者に偏りがちで、若者の声が届いてないことに課題を感じている。より広い層の声を分析して自治体に届け、多くの声が政策に反映される流れを作りたいという。志を持つ若者が登場していることに、未来への希望を感じた。