事例

ハムも管理システムも手作りできめ細やかに。本場ドイツ仕込みの味を支えるローコード開発

本場ドイツ仕込みの美味しさはもちろん、「食の安心安全」を第一に、質の高いハムやソーセージを販売している信州ハム株式会社。ハムの旨みを作るための適切な熟成や、食の安全を守るための衛生環境維持など、口に入るものだからこそ厳密な管理が要求される食肉加工業界。信州ハムでは、どのようにシステムを活用した生産管理を行なっているのか、信州ハム専務取締役の 北澤 文雄 氏、生産管理部課長の 織部 航 氏、信州ハムサービス取締役兼開発本部長の 土屋 光弘 氏にお話をうかがいました。

優れた製品を作るために、優れた管理システムが必要に

北澤氏 「信州ハムにはいろいろな商品がありますが、その中でも『グリーンマーク』は、発色剤や着色料、保存料やリン酸塩といった添加物を一切使用していない商品につけられるシンボルマークです。添加物を使わずにおいしいハムを作ることは非常に難しいのですが、信州ハムでは 1973 年から発色剤を使わないハムの研究を始め、 40 年以上にわたって安心安全でおいしいハム作りを行なってきました。

信州ハムには、ドイツで専門資格を取得したマイスターたちも在籍し、ハム・ソーセージの味をとことん追求しています。他メーカーよりも長く丁寧に熟成させた「軽井沢熟成ウインナー」シリーズや「爽やか信州軽井沢」シリーズ、あらぎりわさびとのマリアージュが楽しい「つるしベーコン」、カマンベールチーズのように白カビを使って独特の旨みを出した「白樺サラミ」、ほろ苦さが相性の良い「熟成ホップ入りウインナー」など、信州ハムの技術を活かした魅力的な製品がいくつもあります。

しかし、そういった多品種小ロットゆえの管理の煩雑さが、信州ハムの課題になっていました。製品の種類が増えると、それだけ生産工程の管理や、日々の生産状況のチェックが必要になるのですが、決まったシステム体系がない管理状況では、ほしい情報にすぐにアクセスできないといった問題がありました。」

そこで、統合された管理システムの必要性に気づいたそうです。

左から順に、土屋 光弘氏(信州ハムサービス 取締役兼 開発本部長)、北澤 文雄氏(信州ハム 専務取締役兼 信州ハムサービス代表取締役)、織部航氏(信州ハム 生産管理部課長)

ボタンの大きさや数など、内製アプリだから細かいニーズに応えられる

織部氏 「現在は iPad を使って、 FileMaker で作ったシステムでハムの生産状況などを管理しています。 FileMaker 導入前は工場で紙に生産状況を書いて、それを事務員に Excel で手打ちしてもらうという管理方法だったので、非常に手間がかかっていました。食品の世界では可能な限りリアルタイムで情報を掴むことが重要なのに、紙と Excel では『今日の生産状況を見たい』と言っても、それがわかるのは翌日以降だったのです。」

信州ハムでは現在、 FileMaker で作ったアプリを使い、生産管理、棚卸の入力、ギフト(お中元・お歳暮シーズン)発送の管理、資材管理など、多岐にわたってデジタル活用による効率化を実現しています。

土屋氏 「プログラムの部分は織部が、ユーザーインターフェース ( UI ) の部分は私がと、基本的に 2 人で分担して社内で使うアプリを作りました。内製化のメリットは『低コストでできる』という点ももちろんですが、『現場の要望をスピーディに吸い上げて実装できる』というところが大きいですね。例えば、『暗い部屋で使うから、もうちょっとボタンを明るい色にしてほしい』といった個別の要望について即対応できるのが良いと思います。 FileMaker を使うと、ボタンの数や大きさから細かく簡単に調整できるので、現場に合わせた最適な UI を作ることができます。」

織部氏 「内製化については技術的な部分が心配でしたが、 FileMaker はアプリ開発未経験でもわかりやすく、使いやすかったですね。 JavaScript などのプログラミング言語を使ってアプリを作ると、システムに問題があった場合にいったん止めなければならず、けっこう修正が大変なんです。でも、 FileMaker の場合は、システムを動かしながら直すことができます。実際に運用してみると『ここは違った』となる箇所が多く出てくるので、 FileMaker の使いやすさには助けられました。」

自社で使用するアプリの内製化、それも 2 人で行なうというのは困難な業務ですが、現場の喜びの声が直接聞けたり、コスト削減の結果などが数字でしっかり目に見えることが、内製化ならではのモチベーションになっているそうです。

土屋氏 「 FileMaker によって、リアルタイムで生産状況をトレースできるシステムを構築できたため、現在では、万が一のトラブルの際にも原因究明が迅速に行なえるようになりました。これは、製品の質の向上や食の安全性の高まりによって、ハムを食べるお客さまのメリットにもなることです。」

イラストを効果的に使用し、幅広い方に使いやすい設計

ボタンの色や大きさを工夫し、忙しい工場でもタッチミスがないようなレイアウト

流通も含めた一元管理で、さらなる効率化を目指す

織部氏  「 FileMaker のバージョンアップに伴って、『今度はこんなことができるかも』と考えるのが楽しいですね。最近ですと、 IoT のセンサーを使って温度管理をしています。将来的には各々のデータをもっと細かく取って、統合して、歩留まりを見たり、『この製品のコストバランスは最適か?』といった検証にまで使っていきたいと考えています」

これからも「安心で安全、さらに美味しい製品を作っていく」と語る。

北澤氏 「信州ハムのように、特色ある商品を多品種小ロットで生産しているメーカーでは、原価計算やロス率といったコスト試算がとても重要になります。

生産管理システムと営業部門、これは会社にとっての両輪だと思うんです。現在、アプリを活用しているのは主に生産部門ですが、将来的には流通部分もアプリで管理ができれば、さらに効率化が進むと思います。」

信州ハム株式会社は、消費者に安心安全を届けるだけでなく、美味しい新商品を開発するために IT を活用しさらなるレベルアップを目指して、今日も試行錯誤を重ねています。

編集後記】

長野県の雄大な自然の中で、本物のハムを作っている信州ハムの皆さん。彼らのアプリ開発の姿勢には、ハムやソーセージにかける手作りの暖かみ、丁寧さと似たものが感じられました。「まだまだ FileMaker は高いポテンシャルを秘めている」と語ってくれた北澤氏の言葉に、今後のさらなる効率化と、まだ見ぬ新製品への期待が高まります。

軽井沢工房ではソーセージ手作り体験を提供している。FileMaker のアプリ開発の手を休めて、たまには友人や家族と軽井沢で手を動かして美味しいソーセージを堪能してみてはいかがでしょうか?

信州ハム軽井沢工房について、さらに詳しくhttps://www.shinshuham.co.jp/atelier

信州ハムの FileMaker 活用事例はこちらでもご紹介しています。