事例

先生の負担を減らし、笑顔を増やす。安全で効率的な保育を実現するシステム

目次

  1. 紙を用いた運営で業務が回らず、園児管理システム開発に着手
  2. 園児に関する情報を一元管理。正確な情報に基づく安全な運営を実現
  3. 自動化により業務を効率化し、ゆとりある保育を提供
  4. 現場で使いながら改善を続けシステムを洗練し続ける

1. 紙を用いた運営で業務が回らず、園児管理システム開発に着手

Fキッズ保育園は、鹿児島県の鹿児島中央駅から徒歩 3 分の好立地にある保育園。365 日開園しており、生後 4 か月から就学前の 6 歳児まで幅広い年齢の子どもを預かる。Fキッズ保育園 保育事業部 中原 佳美氏は、「近くにはファッションビルなどもあり、そこで働く保護者のためにも休日に開園しています。年齢の異なる子ども同士のかかわりを大切にする保育園です」と説明する。

同園を運営するのは、ICT 企業の株式会社フォーエバーだ。同社の設立者であり代表取締役の久永 忠範氏は、元々学習塾を経営しており、塾生の成績などを管理するためのシステムを自ら作っていた。その後システム開発のニーズを感じ、1996 年に同社を設立。地元鹿児島に密着する ICT 企業として、地域社会への貢献を目指している。Fキッズ保育園設立のきっかけは、同社近くの鹿児島中央駅近辺に保育園がなく、社員や近隣で働く人々が困っているという声を聞いたことだという。2016 年、企業が自社の従業員や地域の子どもたちのために設置する保育施設への補助、「企業主導型保育事業」の制度ができたことも後押しとなり、社員の福利厚生のためにも設立へと踏み切った。

Fキッズ保育園では当初、紙を使って各種管理業務を行っていたが、「保育園から効率よく管理できるようにしてほしいという声が上がるようになりました」と株式会社フォーエバー ICTソリューション部 内田 大典氏は語る。「ちょうど少し前に他の保育園からの依頼で、園児管理システムを納入した実績があったため、それを元に必要な機能を洗い出し、Fキッズ保育園向けのシステムの開発を始めました」(内田氏)。

Claris パートナーでもあるフォーエバーは、12 年ほど前から Claris FileMaker によるシステム開発を手がけている 。元となった他園に納入したという園児管理システムも、FileMaker によるものだった。

(左から)株式会社フォーエバー ICT ソリューション部 内田 大典氏、Fキッズ保育園 保育事業部 中原 佳美氏

2. 園児に関する情報を一元管理。正確な情報に基づく安全な運営を実現

開発したシステムでは、園児にかかわるさまざまな情報を一元管理できる。生年月日や性別、住所、保護者とその連絡先といった基本情報に加え、食べたことがある食材、食物アレルギー、発育測定や予防接種の記録などである。

例えば「給食」は、生育に合わせた 2 種類の離乳食と一般食、アレルギー除去食を用意しているが、Fキッズ保育園では各園児に対し、その園児が食べたことがある食材以外は出さない方針としている。問題が起きないよう、保護者に食品の摂取経験を確認して記録。園児一人ひとりの食材摂取履歴を確認し、さらにアレルギーがあればその食材を除去した給食を用意する。「個人が食べられる食材が一覧できるようになり、正確な調理に役立っています」(中原氏)。

PC 画面で各園児の情報を細かく登録

「発育測定」の記録は、その数値を元に成長曲線を表示できるようになっている。成長曲線とは子どもの生育が標準的な範囲内にあるかどうかを確認できるグラフで、同園では生育状況を医師と共有する際に使用する。従来は園児全員分の身長や体重をグラフ用紙にポイントし、手書きで作成していたが、園児管理システムの導入で数値を入力するとグラフも自動で生成できるようになった。

また、乳幼児の肥満度や栄養状態を評価するカウプ指数も自動計算し、「標準」「やせ気味」「肥満気味」などの判定結果を表示できるので、園児の健康状態を視覚的に容易に把握できるようになった。

日によって登園する園児の数が違うので、子どもの安全のためにもその日の登園人数を確実に把握し、こまめに確認することを徹底している。また現場からの要望で、保育予定表も確認できるようにした。

「毎日の園児数やお迎えの予定時間を管理・把握できるようにしています。毎朝の朝礼で必ず人数を確認するようにしていますし、毎月行う避難訓練などでも必ず確認します。電波がないところでも見られるように、スクリーンショットを撮って運用しています」(中原氏)。

登園状況確認の画面

3. 自動化により業務を効率化し、ゆとりある保育を提供

園児管理システムは、iPad 4 台と PC 1 台で利用。iPad は玄関、事務室、調理室、保育室にそれぞれ置いている。玄関のものは園児の登降園および職員の出退勤の記録に利用しており、事務室のものは緊急持ち出し用だ。

玄関に設置した iPad では登降園時に保育士が画面をタップし、登降園を記録する。職員も同様に出退勤を iPad で記録している。手書きの記録やタイムカードの運用からタップするだけで正確な時間を記録できるシステムに移行したことで、集計が自動化できるようになった。

事務作業の効率化にも役立っている。企業主導型保育園は行政に対し、毎月延長保育時間などを含め園の利用状況を報告しなければならない。従来は数字をまとめた紙を見ながら、行政が用意した入力画面に手入力をしていた。園児管理システムでは、日々の記録から書式に合わせて必要な数字を自動計算。CSV データとして取り出せるようになった。中原氏は、「データを確認して CSV データを転送するだけでよくなりました。今まで毎月 3 時間かかっていた作業が、半分程度の時間でできるようになりました」と評価している。

同園のシステム導入は保育士からも喜ばれている。保育園は園児たちが安全に楽しく過ごせるよう、保育士にもゆとりが必要だ。非効率な業務により園児と過ごす時間が減ったり、多忙のせいで十分な安全確保ができないようなことがあっては事故などにもつながりかねない。中原氏は、「ここ 1 年くらいで機能が大幅に増え、先生達の負担になっていた書類作業が減り、助かっていると聞いています」と現場の反応を伝えてくれた。

4. 現場で使いながら改善を続けシステムを洗練し続ける

Fキッズ保育園では日々システムを使いながら不都合や改善点に気づくと、フォーエバーに改善要望を伝え、機能を追加してもらうようにしている。「日々の改善は連絡が来る度に対応しています。機能追加など大きな修正については、打ち合わせの場を設け詳細を確認して進めています」(内田氏)。

新たな機能追加も検討中だ。園児の登園予定日や急な休みなどをアプリから連絡できる「連絡アプリ」を導入し、FileMaker と連携したいと考えている。現在、保護者が書面や電話で連絡してきたものを園でシステムに入力しているが、連絡アプリを導入することで受電や入力の手間を減らせ、入力ミスもなくなる。そのような連絡アプリと FileMaker の連携部分をフォーエバーが開発する予定だ。

さらにフォーエバーは、現在表計算ソフトで行っている職員のシフト管理を、FileMaker に移行することを提案している。出勤の実績値は FileMaker で管理しているので、統合することで予定から実績までの勤務管理を一元化できる。

FileMaker での開発について中原氏は、「文字を大きくしてほしい、ボタンの位置を変えてほしいといったちょっとした修正にすぐ対応してもらえるので助かっています。これは市販のアプリケーションではできない点です」と評価している。フォーエバーの内田氏も、「他のお客様含め、FileMaker のすぐに機能改善や追加ができる点は大いに評価をいただいています。スクラッチ開発をするケースもあるのですが、スクラッチはどうしても対応に時間がかかります」と語る。

今回の園児管理システムは、実際の保育園と一体となって開発しているので、現場での使いやすさは抜群だ。そこでフォーエバーでは、「競合が多いので優位性があるかどうかを見極めて」という留保付きながら、今回の園児管理システムを他の保育園へ展開していきたいと考えている。今後の進展が楽しみだ。

【編集後記】

Fキッズ保育園設立にあたっては、創業者・久永氏のある経験が元になっている。同氏の三つ子の誕生とフォーエバーの創業が重なり、思うように育児に携われなかったのだという。同じ思いを社員にさせたくないと考えていたそうだ。企業主導型保育事業制度も後押しとなり、従業員が仕事と育児を両立する助けにと、同園を設立。現在では社員のみならず、近隣で働く保護者達にも喜ばれる存在となっている。少子化が問題となり、働き方が多様化している今日、このような保育施設は社会的課題を解決する一つの方法になりうるだろう。保育施設の職員が快適に働けること、また園児が安全に過ごせることに FileMaker が貢献できるのは喜ばしいことだ。