事例

医療業務のデジタル化は、患者様と医療スタッフの余裕を生みだすために

さまざまな業界で DX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれる昨今。泉南新家クリニック(大阪)では、2013 年に Claris が取材した時にはすでに透析業務のデジタル化によって、業務の効率化や、人的ミスの削減に成功していました。あれから 8 年、さらに進化して医療現場の業務効率化を実現している同クリニックの情報管理主任 田代庸平さんにお話をうかがいました。

2013 年の記事はこちら→ https://www.claris.com/ja/customers/stories/sennan

泉南新家クリニック 情報管理主任 臨床工学技士 田代 庸平 氏

ローコード開発で透析業務のデジタル化

大阪府泉南市にある泉南新家クリニックは、内科、リウマチ科、アレルギー科、人工透析を診療科目とするクリニック。特に透析センターは、透析ベッド 24 床を有し、臨床工学技士 2 名、看護師 5 名(常勤)体制で地域の透析患者さんを支えています。透析治療のために通院する患者さんが多く、地元に寄り添うクリニックとして日々患者さんと向き合っています。

「透析業務は、透析回路・ダイアライザーといった人工腎臓の準備、穿刺業務、開始・返血業務、透析中の定時点検、水処理装置の点検、消毒、翌日の準備など多岐にわたり、様々な記録を作成・管理する必要があります。透析業務にかかわるスタッフは、限られた時間で多種多様で煩雑な業務をこなさなければなりません。
当クリニックは、2007 年の開業当時から FileMaker を活用して透析業務の大半をデジタル化しました。デジタル化によって、業務効率を上げて医療スタッフの業務量を低減すると同時に、人的ミスの防止に取り組んでいます。FileMaker はクリニック内の情報管理や、スケジュールの共有、ヒヤリハットなどに活用しており、全部で 12 種類のアプリを使って情報を一元化しています。」

いずれのアプリも iPad (FileMaker Go) 経由でアクセスでき、スタッフは院内のどこにいても瞬時に患者さんの情報を確認し入力したり検査の予定確認や準備など、数多くの業務で iPad と FileMaker を活用しています。

クリニック内で使っているアプリは基本的に田代さんが FileMaker で ローコード開発。阪神淡路大震災の経験から、震災時に備えて透析患者の災害時透析カードを自動的にメールで送信するなどの機能を備え、学会などで高い評価を得ました。また iPad を使った業務効率化が実現できるだけでなく、画面デザインや使いやすさからも、学会や展示会での発表後には他のクリニックでの導入要望が出てきたことから、製品名「dottoHD」と名付け、当時、泉南新家クリニックの IT 導入を支援していた Claris 認定パートナーである トップオフィスシステム株式会社(大阪)に 他のクリニックの IT インフラ導入支援を依頼し、「dottoHD」として外販するに至りました。

田代さんと 2013 年から 8 年以上にわたり、二人三脚で歩んできたトップオフィスシステム株式会社 代表の 池田さんは、「同じ阪神淡路大震災を経験した仲間として、いつおきるかわからない災害に対して、少しでも患者さんのためにと活動している田代さんに共感し、協力をさせて頂いています。システムが止まってしまうと、医療現場でのミスに繋がりかねませんので、FileMaker Server のバックアップ機能に重点を置き、データの管理等に関する部分は、より厳密に開発運用しています」と語ります。

API 技術の進化で更に加速する DX

2013 年の取材時にはすでに FileMaker を活用し透析業務の効率化を実現し、業務効率化によって生まれた時間を患者様との密接なコミュニケーションに充ててきました。患者さんの QOL (Quality of Life) 向上のため、血液検査結果を iPad 上にグラフ表示し食事指導をしたり、かかとのひび割れや傷がないかなどのフットケアに時間を割き、iPad のカメラを使って足を撮影し、画像を拡大してベッドサイドで患者さんに状態を確認してもらったりするなど患者さんに寄り添ったケアを重要視してきた泉南新家クリニック。

iPad を使ってベットサイドでフットケアをおこなっている様子

2021 年 3 月 現在、クリニックの DX (デジタルトランスフォーメーション)はさらに進化しています。その中でも特に大きな変化が、 API 連携を活用した透析装置との連動です。

(田代さん)
「 FileMaker で開発した透析業務支援システムである「dottoHD」を全国の透析施設に提供していく中で、特に要望が大きかったのが、透析記録のデジタル化です。2018 年にリリースされた FileMaker 17 から機能搭載された API 技術により 医療機器との連携が簡単に行えるようになったことで実現できました。医療システムメーカーからの開発の打診もあり、共同で開発を進め、複数の透析装置メーカーとの連動を実現しました。これにより、透析記録がデジタル化され、紙への転記も必要なくなり FileMaker で管理できるようになっています。

透析記録は自動で FileMaker Server に保存され、スタッフはその情報を iPad からボタン一つで取得できるようになりました。スタッフのデータ入力に関わる負担が大幅に減り、その生まれた時間でこれまで以上に患者様に向き合う時間が確保できています。透析は週 3 回 1 日 4 時間の治療が一般的です。スタッフは ベッドサイドに行き、最近の症状や体調について患者さんと会話をするなど、コミュニケーションに力を入れています。そのなかで、iPad の中から血液検査結果を比較したり、過去のフットケアの治癒状況などを見比べて QOL 向上に努めています。」

顔認証 AI を搭載した体重管理システム

「透析装置とのデータ連携に成功した後、今度は体重計との連携もできないかと考え、AI を活用した顔認証による体重計測の実用化も進めました。あらかじめ患者さんの顔写真を撮影し、画像データとカルテ番号と紐付けておくことで、体重計測の際には、AI の顔認証でどの患者さんかがわかり、計測した体重が自動でデータベースに保存される仕組みになっています。

以前はスタッフが付き添い、患者さんが自ら測定、その数値をスタッフが確認するという方法で体重測定を行なっていました。それが、データベースに自動で保存されるようになりましたので、間違いもなく、記録のための時間も節約できるようになったのは大きいです。

透析を行う患者さんは、尿を十分に排出できないため、適切な体重が常に維持されているわけではありません。正確な体重がわからないまま透析をおえると、血圧異常や足のむくみ、心不全などを引き起こす可能性がありますので、透析が終了したときの目標体重を「ドライウェイト」として設定して透析時に除水します。ですから、透析前後の体重測定は体調を確認する重要な項目です。患者さんとしても、スタッフに負担をかけずに自分で測定できるので、楽になったという声もあります。」

高齢者の方でも使用できるようシンプルな UI

新型コロナ感染症対策として極力接触を減らす

このような業務のデジタル化は、コロナ禍で変化している医療現場でもおおいに役立っています。感染疑いの患者さんを個室で透析する上で接触回数を減らすことが重要となります。IoT 連携を構築することで遠隔操作が可能となり、透析治療中の入退出を減らすことができるようになったなど、新型コロナ感染対策にもスムーズに対応できています。

実は dottoHD アプリ開発をしている田代さんは情報システムの専任担当者ではなく、臨床工学技士であり、クリニックの透析主任として日々患者さんと向かい合っています。その両立は決して楽な道のりではありません。そのモチベーションを田代さんはこのように話してくれました。

「業務量を削減することは、余裕を生みだすことにつながります。業務に慣れてくれば自ずと余裕が出てきますが、それはどうしても個人の範囲内にとどまってしまう。自分だけ余裕があっても他のスタッフの業務負荷が高ければ、医療ミスやヒューマンエラーの可能性は残ります。そのため、FileMaker を使ってシステムを開発・導入することによって、医療スタッフのみんなが余裕を持つことができ、ひいては患者さんのためになる、役立つものを作っていかないといけないと思っています。」

医療業界にもっと ローコード開発を

今後の展望について田代さんは医療業界全体に言及しながら、こう語ります。

「他の業界と比べても、医療業界はまだデジタル化が遅れていると感じます。電子カルテや透析システム等の導入はありますが、メーカー毎に連携がとれないなど、まだまだ不十分でそのしわ寄せは現場に残ります。これからの時代は、API 連携 と AI がどの業界でも主流になってきます。医療と AI は親和性が高い。そのため、医療メーカーの方々に頼るだけでなく、現場を最も知る医療従事者からも、システムによって実現できることや、IT との利便性などを発信する必要があると思います。そうなれば、もっとデジタルと医療の連携が深まり、患者様の治療や健康に貢献できるのではないでしょうか。」

医療現場で IT の力をより活用してもらうために、田代さんは、論文発表や講演も積極的に行ってきたそうです。一方、Claris FileMaker の認定パートナーとして 池田さんも、Claris の FileMaker キャンパスプログラムを通じて、昨年から田代さんの母校である医療専門学校に講師として赴き、学生に FileMaker の指導をしています。

(池田さん)
「 FileMaker で 学生にローコード開発の基礎的な使い方を教える授業をしています。今の学生は、iPhone や iPad を使い慣れているので、覚えがとても早いですね。数時間教えただけで、想像以上のクオリティのものが出来上がってくるので驚いています。これから FileMaker ローコード開発 を通して、アプリを生み出す 医療従事者がさらに増えてくれば、さらに進んだ医療技術の開発や、活用が期待できます。私個人としてもこれからもそのサポートができればうれしいです。」

医療業界、IT 業界それぞれの立場から、医療と IT の融合という土壌を育てつつある田代さんと池田さん。このお二人のような方がさらに増えていけば、医療業界全体のデジタル化の底上げにもなり、患者さんの治療や健康にもつながっていくとを感じました。

(編集後記)

2013 年の取材から 8 年、API 連携 や AI を活用して、さらに業務効率化を進めていた泉南新家クリニック。その背景には、患者さんだけでなくスタッフを大切にする想いがありました。現場のみならず、今後の医療業界にまで目を向けてお話される二人の姿から、医療と IT が作り上げる未来に期待が膨らみました。