事例

大手百貨店グループの人材派遣会社が安全性と利便性を追求し、個人情報を一括管理。

三越伊勢丹グループで人材サービス事業を手掛ける株式会社三越伊勢丹ヒューマン・ソリューションズ。事業の特性上、膨大な派遣スタッフの履歴書をはじめとした個人情報を取り扱っている。さらに三越、伊勢丹と言えば歴史ある大手の百貨店グループ。セキリュティ要件が高く、個人情報の厳重な管理が求められる。このような環境下において、個人情報のデジタル管理にいたるまでにはどのようなシステム開発の経緯があったのだろうか。人財ソリューション事業部の担当者にお話を伺った。

年々増加する膨大な個人情報を厳格に管理するための課題

株式会社三越伊勢丹ヒューマン・ソリューションズは、三越と伊勢丹が経営統合する過程で、互いの人事機能を統合させ、人にまつわるさまざまな領域での人材活用を目的に設立された。百貨店やテナントへの人材派遣を中心に、接客販売に関わる人材の手配などを展開している。

同社は人材のマッチング事業という性質上、膨大な個人情報を扱っており、履歴書や登録者へのヒヤリングデータなど、常時 5 万件ほどの人に関わるデータを保有している。

「登録スタッフの経験職種や希望職種、面談時の状況などは、履歴書やヒヤリングシートを見ながら基幹システムに手入力していました」と担当者。

大量の履歴書や面談シートなどの紙データは格納庫に保管してあり、必要な情報を探すためにはその都度、保管場所まで行く必要があった。

また、紙データの管理には 2 つの問題があった、と担当者は振り返る。

「1 つ目は、格納場所の問題です。年々増えていく書類の保管場所を確保することに大変頭を悩ませていました。

2 つ目は、情報を探し出すまでの時間です。候補者の情報を格納庫に取りに行き、セキュリティ管理を済ませてから内容を確認する。とにかく時間がかかりました。」

このような課題を解決するため、これまでもデジタル管理がたびたび検討されていた。しかし、システム導入への障壁となっていたのがシステム環境だった。

スタンドアローンでいろいろな情報検索ができるようなものはないかと検討を始め、出会ったのが FileMaker だった。

はたして、どのような経緯で FileMaker の導入に至ったのだろうか。

「もともと、iPad を基本とした活用方法を検討していて Apple に相談したところ、iPad との親和性が高くスタンドアローンで動く FileMaker の存在を知りました」

そこで、ネットワーク環境がなくても作動する FileMaker について、日本郵船株式会社への導入実績のある、合同会社イボルブの八木さんを紹介される。

「スタンドアローンで作動し、数万件規模の登録件数でも対応できるというお話を八木さんから伺ったときには期待が広がりました。新しいシステムの導入はハードルが高く、基幹システムを改修せずに、要件定義も段階的に実施し、スタンドアローンで動く条件もクリアできたことが、経営層からの承認へつながりました。特に FileMaker を選んだ理由の一つが段階的に導入できる点です。プロジェクトは段階ごとに 3 つのフェーズに分けて実行することにしました。」

デジタル化によるリスク回避と業務効率化

2018 年4 月、第 1 フェーズとして紙の書類のデジタル化が行われた。

「人材のマッチングで必要なことは、過去の就業経験や面談時にヒヤリングした履歴書には記載のない情報の数々です。アパレルブランドでのマッチングは類似する経験職種や過去の接客内容、取扱いアイテムなどさまざまな角度から判断します。これまでの紙データはとても重要なツールの 1 つです。FileMaker でデジタル化されたことで、非常に安心できる環境で仕事ができます。」

また、FileMaker の採用に至った理由を担当者はこう語る。

「面接時のヒヤリング内容を管理項目で自由に設定できるのは FileMaker を選ぶ決め手です。必要な情報を検索できることでマッチング業務が格段に早くなりました。」

紙データを FileMaker に取り込むことで、保有していた紙の保管スペースは大幅に削減された。そして精度の高いマッチングには欠かすことのできない情報の検索性が大きく向上したことで、作業にかかる時間の短縮にもつながったという。

2020 年 9 月からは第 2 フェーズとして、派遣登録者が iPad から直接必要な情報を入力できるフローで運用を進めた。

「これまでは、派遣登録会へ履歴書や職務経歴書、写真などをお持ちいただきました。現在は個人情報や学歴、経験職種などは来社時に情報を入力していただきます。効率的に入力できるように、自動入力の項目と、選択式の項目、フリー入力する部分など、 UI(ユーザインターフェース) の仕様については、時間をかけて検討しました。その結果、来社する方の事前準備にかかる負担が軽減できたことで、今後の来社率向上に期待が高まりました。」

iPad の入力画面は、一画面で入力する項目が絞られており、デジタル端末に不慣れな方でも操作しやすいシンプルなつくりになっている。色合いやフォントなども百貨店グループらしさを感じられる UI だ。

どの世代でも使いやすいように、シンプルに作られた UI

以前は事前に必要だった履歴書が不要となり、登録会で iPad から入力できるように

目指すは、システムの一元化。

現在、同社では既存の基幹システムと FileMaker の 2 つのシステムが併用されている。基幹システムでは給与や社会保険、契約管理、勤務実績や請求などの就業情報管理、FileMaker では基幹システムには含まれない、人材マッチングに関わる情報を管理している。
「今は、iPad を見ながら基幹システムに一部の情報を入力するという作業が生じています。このような手間を省き、最終的には全てを一元管理できるようになるのが第 3 フェーズの目標です。

システム全てを一元管理できないのか?という声は社内からもあがってきます。クラウド展開や Web 事前登録など実現したいことは多数ありますが、高度なセキュリティ管理のもとで、まずは目の前の課題から着実に進めていくことが大切だと思っています。」

業務プロセスのデジタル化を段階的に成功させてきた担当者は、最後に第 3 フェーズの意気込みをこう語った。

(編集後記)
厳格なセキュリティ規定がある中、実績のある Claris パートナーと力を合わせてシステム導入に挑み、制約のある環境であっても、まずは小さく始めて大きく育てて行ける FileMaker のアジャイル性を活かした、デジタル化成功の好例だと感じました。全社的なシステム導入は難しい、クラウド環境での展開に制約があるといったハードルがあっても業務プロセスのデジタル化を諦めなくて良いんだ、と背中を押してもらえるようなお話でした。