事例

製造現場の手作業をローコード開発で大幅に軽減、ワークフロー自動化で効率化を促進

雑誌同梱の体験版からスタート、受注管理や給与振り込みシステムの開発も成功

株式会社くい丸は、1973 年創業の鋼管杭専門メーカーである。1994 年に発売した「くい丸®」は、アスファルトなど硬い地盤でも打ち込みやすく、しかも抜けにくいという特徴を持ち、日本の産業を杭で支えている。サビに強く耐候性も高いため、ビニールハウスや太陽光発電、工事現場の囲いや看板など身近なものをはじめ、富士山 9 合目の転落防止柵、新幹線のレール検査機器の支柱などにも活用され、現在まで累計 1000 万本の出荷を誇る。品質の良さや無駄のないシンプルなデザインが高く評価され、昨年「 2022 年度グッドデザイン賞」も受賞した。

くい丸が製造する鉄鋼杭。打ち込みやすさ以外にも、サビにくく、繰り返し使えて壊れにくいことが特長

株式会社くい丸の営業部に所属する君岡 真兵氏は、担当業務を行うだけでなく社内のさまざまな業務改善に取り組んできた。

その最初の取り組みが、2005 年頃に行った送り状作成の効率化である。

以前は、毎日 20 ~ 30 件の送り状を手書きで作成しており、手間がかかるだけでなく、出荷担当者から「文字が判読できない」と言われることもあった。そこで誰が見てもわかりやすい送り状を効率よく作成するため、表計算ソフトを試したが、手作業でデータを入力する必要があり、手間を省けなかった。プログラミング言語での開発が必要なデータベース管理ソフトも試した。しかし、コンピュータは好きだったものの本格的なプログラミング経験はなかった君岡氏が、本業の傍らシステムを作成するにはハードルが高かった。

そんなとき Mac の専門誌に FileMaker の記事が掲載されているのを目にし、使えそうだと感じた。FileMaker Pro 6 の頃だ。雑誌の付録に体験版がついていたため早速チャレンジしたところ、手ごたえを感じたという。

「 FileMaker はスクリプトステップを並べて編集するとすぐに動きがわかるので、容易に試行錯誤を繰り返すことができます。ほぼ独学で、まずは送り状作成アプリケーションを完成させました」(君岡氏)

君岡 真兵 氏 (くい丸 営業部)

その後は受注管理システムにもチャレンジした。以前は、注文請書を複合機で出力した後に手動で 1 件ずつ FAX で送信していたが、今では Claris FileMaker 経由で自動送信される。作業速度が約 10 倍になり、誤送信の心配もない。FileMaker であれば、将来 FAX から Email になってもスクリプトを変更するだけで対応できる。

送り状作成カスタム App の画面。記入事項がわかりやすく配置されている

データフォーマットの変換でも FileMaker が活躍している。給与の振込作業では、給与データから銀行指定の形式への変換が、ファイルをドロップするだけで可能となり、毎月半日かけて行っていた振込データのリストの整合性チェックが不要になった。

給与振込データ変換ツールの画面。給与システムからデータを取り込み、ゆうちょ銀行フォーマットの CSV が生成可能

Claris Connect を活用し、自動化を推進

同社の創業は奈良県だが、東日本での製販強化を目指し、2016 年に栃木県宇都宮市に工場を新設した。以降 2 拠点体制となり、拠点間でのデータ同期を Claris プラットフォーム上で実現。受注業務は奈良で一括処理し、宇都宮ではピッキングと配送に専念することで業務を効率化している。

その際に活躍しているのが、アプリケーションを統合できるワークフロー自動化プラットフォーム Claris Connect である。商品発送に必要なデータを奈良から送信すると、オンラインストレージの Dropbox にデータが入り、コミュニケーションツールの Slack に通知が届く。宇都宮の担当者は、Slack の通知を受けて Dropbox から FileMaker へデータをインポートし必要書類を出力する。

Slack への自動通知が実現したことで、次の工程担当者への連絡を容易かつ確実に行うことが可能になった。フローすべてが Claris Connect 上のワークフロー上で行われ、Claris Connect は、いわばオーケストラの指揮者の役割を担っているようなものだ。

Slack (画面左) と FileMaker (画面右) を Claris Connect で連携し、送り状印刷のワークフローを自動化

名刺データ管理にも Claris Connect は活躍する。同社が利用する名刺管理サービス メイシーの名刺データを Claris Connect などを経由して FileMaker の顧客マスタに自動登録。これまでデータの閲覧や CSV の書き出しなどに限定されていた使い方から、販売管理システムで名刺情報を参照できるようになるなど、データ活用の幅が広がった。

また、価格表配信システムも作成した。従来、製品の価格表は顧客ごとに表計算ソフトで作成し、定期的に郵送していた。しかし顧客数が増え、単価決定ルールも複雑化。さらに近年の材料費の急騰によりかつてないペースで価格改定を強いられ、よりスピーディーに処理できるシステムが求められた。

そこで、FileMaker と Claris Connect を活用することにした。まず顧客に QR コードを印刷した価格改定の案内文を送付する。顧客が QR コードからフォーム作成サービス Wufoo のフォームにアクセスし、必要事項を登録すると、その情報が Claris Connect を経由し FileMaker のレコードが作られる。登録されたことが Slack で自動通知され、担当者が確認して価格表をメールで送信する。

「価格表はお客様側の環境の都合上、どうしても表計算ソフトのデータで送付する必要があります。ですので、MBS Plugin というプラグインを使用して、お客様ごとの価格表を FileMaker のデータから表計算ソフトに書き込んでいます。これまでに作成したアプリの中で、最も費用対効果が高いものになったと感じています」 (君岡氏)

Claris Connect やプラグインを活用することで、多額の費用や手間をかけず、迅速な価格表配信が可能となった。

iOS 端末で効率化や業務改善を実現

宇都宮工場では、iPod Touch や iPhone 上で Claris FileMaker Go アプリを使用し、画面を見ながら商品のピッキングを行っている。

君岡氏は、「専用のハンディターミナルは専用機ならではの良さはあるものの、限られた機能しかないうえに何十万円もして高額です。一方で iPod Touch は、2 万円程度で高機能のカメラが付き、いろいろな使い方が可能です」と、その ROI の高さを評価している。

3 年前には業務のカイゼン活動をさらに加速するため、カイゼン提案をカスタム App 側から申請できるようにした。iOS 端末を従業員に 1 人 1 台ずつ配付し、提案をシステム上で募る体制を整えたことにより、現場で改善したい状況に遭遇した際、支給された端末で即座にアイデアを撮影する、などということも可能となった。「百聞は一見にしかず」の言葉のとおり、現場で長い文章を入力して報告書を書くよりも、高解像度の写真や動画で問題点を撮影した方が現場の負担は小さく、カイゼン活動にも熱が入る。

こうして現場から寄せられた声や写真は Claris FileMaker Server 上に集約され、経営陣にも届く仕組みだ。このカスタム App により、3 年間で 1000 を超える提案が寄せられ、現場の業務改善に役立っている。

カイゼン提案システムの画面 (左)  現場では iPod Touch と iPhone を活用している (右)

Claris Connect のさらなる活用を目指して

君岡氏が現在開発を進めているのが、製造機器のメンテナンス記録である。これまでメンテナンス記録はすべて手書きで行っており、手間がかかるうえ、汚れで読めなくなることもある。整備の予定なども個々の担当者の記憶任せで、会社側は把握できていない状態だった。

そこで、メンテナンスの履歴を追えるシステムの構築に着手している。各機器に貼られた QR コードを iPod Touch や iPhone で撮影すると、当該機器に必要なメンテナンス項目が自動表示される。その必要な項目をチェックしてシステムに記録し、履歴を追えるようにするという仕組みだ。メンテナンスの結果を撮影することで、手書きで作業内容を記録するより詳細に記録を残せるようになる。さらに、今後メンテナンス時期になるとアラートが上がるような仕組みも実装したいと考えている。

「せっかく端末を 1 人 1 台配付したので、今後は端末を使った現場のデータ活用を増やしていきたい。ほかにも、FileMaker から個々の顧客に合わせたお礼状の作成・送付や、情報発信などが自動化できる仕組みを構築したいと考えています。Claris Connect を活用すれば、外部のいろいろなサービスと組み合わせることで、効率的な仕組みを作ることができると思っています。

例えば、Dropbox 上に製品開発プロジェクトのフォルダを作成したら、タスク管理ツールの Trello に自動登録されて Slack に通知される、Autopilot を使って名刺交換したお客様に対するフォロー活動を自動化する、といったことを考えています」と君岡氏は、iPhone と Claris プラットフォームの無限の拡張性の未来を語ってくれた。

同社は Claris が日本で開催する最大の総合イベント Claris Engage Japan 2022 で、Claris Connect の活用において特徴的な利用方法を実践した組織に贈られる「Claris Connect Leader of the Year」を受賞した。君岡氏は、「Claris Connect を、これからも良き相棒として一緒にカイゼンを進めていきたいと思います」と喜びを語る。

長年にわたり、FileMaker を活用して業務効率化やミスの削減を実現してきた同社は、これからも業務の自動化や精度の向上に取り組み、DX (デジタルトランスフォーメーション) で新しい価値を生み出して成長を続けることだろう。

【編集後記】

人は形にして見るまで、自分が何を欲しているのかがわからない。手元に iPhone があり、アプリを動かすことで、社内外での対話が生まれ、コミュニケーションが活性化される。アプリを通じて情報をオープンにすることで情報の共有・対話の量が増し、意思決定プロセスに参画しやすくなる。それにより改善は継続し、やがて株式会社くい丸 という組織でのイノベーションが生み出される。

君岡氏が取り組んだように、現場からの改善提案を促す仕組みを構築すると、ボトムアップの方向からも改善が始まる。その改善を支えるのが、 Claris FileMaker だ。問題解決に取り組む人たち、疑問を投げかける人たち、解決策を探し求める人たちのために Claris FileMaker が活用される。君岡氏のように想像力を働かせ、デザインを描き、創造性を発揮する人たちのために Claris FileMaker が利用されていることを誇らしく思う。

株式会社くい丸