事例

スタッフ全員に Apple Watch を貸与。常に最新技術を取り入れる眼科医が追求して作り上げた電子カルテ

静岡県浜松市にクリニックを構え、網膜硝子体疾患(眼球内部にある透明なゼリー状組織に起こる病気)や白内障などの手術を専門とする小出眼科。20 年以上前からカルテの電子化を進めていた小出院長を筆頭に、小出眼科のスタッフはみな、デジタル技術を生かした業務効率化を日々進めている。既製品の電子カルテではなく、眼科医が眼科医のための電子カルテを目指した結果、行き着いたのは FileMaker プラットフォームによる進化であった。ベンダーロックインされない自由な発想とプラットフォームを進化させる人材育成についてお話をうかがった。

眼科医にベストな電子カルテを生み出すきっかけ

小規模のクリニックでは特に今でも使われている紙のカルテ。患者情報を管理するうえで、紙での管理は非常に煩雑で、管理業務に多くの時間を取られてしまう。電子化がなされていない現場では、患者のオペ予定などの重要な情報すらメモ書き程度で対応することもしばしばあり、予定がうまく組めなかったり、オペのために急に検査で来院いただくなど、患者に不自由な思いをさせてしまうことがある。

小出院長は、1990 年代の研修医時代から患者情報のデジタル管理を考え、赴任先の病院で LAN ネットワークを構築するなど、医療現場の電子化に取り組んできた。時代が進むにつれてベンダー製の電子カルテが普及したものの、眼科医のニーズに合っているとは言い難く、現在でも眼科に特化した満足のいく電子カルテシステムはあまりないという。

「開業準備の 2000 年代後半ごろ、市販の眼科向け電子カルテを試してみたのですが、UI が統一されておらず、レイアウトが変わるごとにボタンの位置が次々移動したり、画面もグレーのみで、色分けがされていなかったりと、使用感がよくありませんでした。また、さまざまな診療科で幅広く使用される MRI や CT といった機器は外部出力に対応しているのに、眼科独自の検査機器は外部出力ができなかったんです。他にも、『左右の目それぞれの画像を術前・術後の経過に合わせて列挙したい』といったニーズに対して、既存の電子カルテは追いついていませんでした。そういった課題点を業者の方に伝えても、日数がかかる、追加費用がかかる、対応できない、といった回答が多く、ベンダー側で解決できないのであれば、『使いやすい電子カルテを自分で作ろう』と強く考えるようになりました」(小出院長)

現在では、Claris FileMaker を駆使することによって、業務の中で生まれた課題を自らの手で次々と解消しているという。

小出院長自作の電子カルテ『小出眼科カルテシステム』

ボタンのカラーや配置を工夫することで、複雑な情報を管理しやすい設計に

診療報酬改定は Claris パートナーの力を借りて乗り越える

医療業界におけるシステム化で多くの負担を強いられるのは、2 年に一度の診療報酬制度だ。改定ごとにシステム面で追加や変更が必要となり、医療施設側で都度システムをメンテナンスするのは非常に大変な作業となる。その悩みを解消してくれたのが Claris 認定パートナーで医療システムに特化している 株式会社エムシスだった。

株式会社エムシス 代表取締役の秋山幸久氏は、診療報酬制度の改定に対応するため日本医師会が提供する日医標準レセプトソフトウェア「ORCA」への移行を推奨。小出眼科は 2021 年に「ORCA クラウド」へ移行した。移行にあたっては、データ連携をする際の橋渡し役となる「AD_ORCA 」ツール(エムシス社提供)を活用し、FileMakerで構築した「小出眼科カルテシステム」と ORCA クラウドの連携を実現したのだ。

「最新版である Claris FileMaker 19 のリリースで、SSL を使った cURL 通信が可能になったことで、ORCA クラウドとの連携が実現しました。院内サーバで扱っていたデータをクラウドへ移行する場合、やはりセキュリティ面で不安を感じるものですが、SSL 認証機能のおかげで患者様の個人情報をしっかりと守りながら、安心してシステムを使用できるようになりました。こういった大規模なシステム移行には、既存ソフトのバージョンが合わなかったりと問題が生じることが多いのですが、小出眼科様の場合は常に最新版の FileMaker を使用されていることと、スタッフの方々の理解度が非常に高かったので、とてもスムーズに作業を行えました」(秋山氏)

アプリをカスタマイズできるスタッフを育成

小出眼科では、スタッフに向けて月 1 回の勉強会を行うことで、レイアウトの修正や簡単なスクリプト作成なら各々で行えるくらいのスキルがついているという。この勉強会によってシステムのリテラシーも高まるので、どこまでを内製し、どこから株式会社エムシスにお願いするか、といった課題の切り出しも明確になるという。

「細かいレイアウトの違いのような、『ここがこうなっていたらいいのに』といった不満点がすぐに直せるのがとてもいいですね。現場の声を反映しつつ、好きなようにカスタマイズできるのが、 FileMaker を使った電子カルテのメリットだと思います」と言うのは、スタッフの鈴木さん。

小出眼科は現在、電子カルテだけでなく、医療材料の発注管理や滅菌物の管理などにも FileMaker を活用している。FileMaker Pro でバーコードシールを印刷し、iPod touch で FileMaker Go を使用しバーコードリーダーとして在庫管理や発注作業をおこなっている。コロナ禍で物流が滞り、医療材料の大量購入が必要になった際にも、FileMaker を使ってすぐに対応できたという。

検品作業をしているところ。iPod touch を使い、FileMaker Go で納品や注文の管理ができる

日本初の眼科出張手術の実現を目指して

「 FileMaker による電子カルテ管理は、患者さまの利便性向上につながっている実感があります。データが全て連携しているおかげで、手術日が決まった瞬間に、その後1か月分の通院日時を冊子にしてお渡しできるんです。もしも日時にどこかで変更を入れても、システムが自動的に連動して修正してくれます」と話すのは、スタッフの有賀さん。13 万以上の患者レコードをデジタル管理することで、必要な情報をすぐに取り出し、個々の患者に合わせた最適な治療を提案できるようになったそうだ。

小出眼科ではすでに、iPad と FaceTime を活用してリモートでの往診を行うこともあるという。小出院長は、高齢化が進む地方都市において、出張手術を前提とした往診も拡大していきたい、と今後の展望を語る。

小出眼科ではスタッフ全員に Apple Watch が貸与されており、業務連絡はメッセージ機能でグループに発信。誰か一人が情報発信すれば、瞬時に全職員へ伝達されので、重複した質問や解答も無くなり非常に効率的だという。常に最新技術を取り入れた改善を進めている小出眼科では、小出院長とスタッフが一丸となって、患者の利便性向上を第一に DX を進めている。

スタッフ全員が Apple Watch を支給され、メッセージ機能で業務連絡をおこなう

編集後記】

電子カルテは汎用であるが故に、眼科・産婦人科・循環器など特徴的な診療記録が必要な診療科では、見読性や一覧性に欠けたり、検索要素が不十分であったりすることが多いという。診療科によっては選択肢の幅が少ないため、一度使い始めると乗り換えも容易ではないという。日々の診療業務で繰り返し行われる同じ作業を自動化したいと思ったときに、スクリプトを書くことで医師の負担を低減し、その分を患者に接することができる。また、術中の気付きを見落としのないようにレイアウトに入れることで診療の質向上にもつながる。

インタビューの際に印象的だったのが、小出院長ご自身がこうした FileMaker を使った改善をとても楽しんでいるという点だ。スタッフや秋山氏との会話も、ユーモアにあふれ、現場に安心と信頼があると感じた。

将来、筆者が白内障になった折には是非、小出眼科で手術を受けたいと思う。むろん、そうならないよう予防するつもりではあるが。